すごもり寄席131回

日時 2017年6月28日(水)13:00~
会場 スタジオフォー(庚申塚そば)
出演&演目
  • 三遊亭粋歌  : 『わんわ~ん』(新作落語)
  • 古今亭駒次  : 『十時打ち』(新作落語)
  • 春風亭昇也  : 『牛ほめ』
  • 神田真紅   : 『名月若松城』(講談)

 今回は愛すべき‘鉄チャン’落語家・古今亭駒次が目当てである。
 ‘乗り鉄’ソルティではあるが、残念ながら‘鉄チャン’を自負できるほどのものでは全然ない。今回のネタに出てきた「寝台特急に乗って寝るなんてもったいない!!」というセリフに「そうだそうだ」と共感できるのが真の‘乗り鉄’であろう。
 しかし、駒次の鉄道ネタは好きである。その語りは軽快でオタク的な多幸感にあふれ、そのうえ情景が目に見えるようなメリハリある芝居をするので、文句なしに楽しい。言い間違いの2つや3つどうってことない。
 これは自作と思うが、ネタを作る才能もたいしたものである。
 
「鹿児島発⇒稚内行き特別寝台急行」プレミアムチケットの予約を賭けた‘十時打ち’をめぐって、JR東京駅職員とJR上野駅職員の因縁の闘いの火蓋がいま切って落とされた。
東京駅「みどりの窓口」カリスマ‘十時打ち’職員が誘拐され、上野駅駅長室に閉じ込められる。
「上野駅のために働け!」
断固として拒絶するカリスマ職員に対し、上野駅は極悪非道の恐喝を行う。
「お前の娘みどりも捕らえてある。お前がウンと言わぬなら、東武鉄道に売り渡すぞ!」

 ホント卑劣だ。(東武鉄道に縁の深いソルティです。念のため)
 
 東京駅の絶体絶命のピンチを救いに来たのはいったい誰か?
 
 それは聞いてのお楽しみ(ホウホケキョ)。
 まったく最初から最後まで腹を抱えて笑わせてもらった。(‘十時打ち’とは何か。説明するのも野暮であろう)
 鉄道を好きな人もそうでない人も、新作落語で笑いたいなら駒次ならハズレはない。

東上線
なつかしの我が東武東上線


 いま落語ブームなのだそうだ。こうして実力ある二つ目がゴロゴロいるのを見ると、確かに層の厚さを感じざるをえない。将棋界同様、若手がしのぎを削り合い戦国時代のごと活気づいているのだろう。
 今回はじめて聞いた春風亭昇也(1982年千葉県生、師匠は春風亭昇太)もまた、芸とキャラと華が揃った有望株であった。何よりも地金の明るさが客を惹きつける。
 長い長~いマクラで、特別支援学校によばれて障害児たちの前で落語(「牛ほめ」他)をやった体験を話してくれた。
 これが本編より面白かったのである。
 演目に何を選ぶかから始まって、実演に至るまでのいろいろな裏話が興味深かった。
 たとえば、「牛ほめ」には与太郎が出てくる。与太郎はある意味、江戸時代の知的障害者or発達障害者ととらえることもできるわけである。その与太郎を笑い者にするネタを、障害児らと保護者と教師たちがいる前で披露していいものかどうか。微妙なところである。そもそも、当人たちはどの程度、言葉や筋や笑いのツボを理解できるのか。
 ソルティもNGOの仕事で特別支援学校に講演に行ったことがある。また、社会福祉士養成講座の実習で障害者施設に行ったので、このジレンマというか難しさがよく分かる。身体障害者や軽度の知的障害者なら、『牛ほめ』のように筋が単純で言葉遊びの面白さを狙った演目で十分楽しませることができよう。あるいは動物ネタか(昇也が困ったのは動物ネタを持っていないからなのである)。
 だが、重度の知的障害者や発達障害者を楽しませる(笑わせる)ことのできる演目がはたしてあるだろうか? 落語よりもむしろ手品や音楽や踊りやパントマイムのほうが容易であろう・・・。(自閉症の男児なら駒次の鉄道ネタに食いつくかもしれない)
 落語という芸は、演者の表情や仕草や間合いなどのテクニック面の重要性は欠かせないものの、根幹はやはり言葉を武器に笑いを取りに行くものである。言葉の理解、筋の理解、登場人物の気持ちの理解ができてはじめて、おかしさが分かる。
 言葉を封じられて、どう客を楽しませるか。(むしろ、『寿限無』のように純粋に語感の楽しさを強調した演目が良いのかもしれない)
 そんなことをあらためて感じたマクラであった。

 それにしても、重度の知的障害児に落語を聞かせようという企画サイドの意図はどのへんにあるのだろう? 保護者や教師たちのためのストレス緩和なのか。
 いささか気になった。
 
 今回は男2人V.S.女2人の出演であったが、圧倒的な白組の勝利であった。
 

スタジオフォー