ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

久我美子

● 高峰三枝子礼讃! 映画:『女の園』(木下恵介監督)

1954年松竹映画。

 戦後、時代錯誤で封建的な私立女子大学の寄宿舎。厳しい規則でがんじがらめになっている女子学生たちの学校(教師たち)への反乱の一部始終を描いている。
 ストーリーそのものも面白いし、当時の風俗や街の様子を知るのも楽しいけれど、なんと言っても最大の見所は戦後を代表する4人の大女優の競演に尽きる。
 
 女子大生に扮するは、久我美子、岸恵子、高峰秀子
 岸恵子の切れ長のパッチリした目の美しさは、パリジェンヌの自由奔放さとともに中山美穂に受け継がれたのか。もっとも岸恵子のほうが意志が強くて気風がいい。高峰秀子は泥臭くて個人的にはどうも好きにはなれないが、演技力はピカイチ。情緒不安定で鬱っぽくヒステリー気質の女性を確かな演技で表現している。久我美子は蝶になる前のサナギといった感じ。
 一方の敵役、冷酷な舎監に扮するは高峰三枝子。
 これが素晴らしい。上記3人の人気女優を含む多数の女子学生たちを一人で相手にし、いささかも臆するところのない圧倒的な存在感。能面のように上品で無感情な美しさを、一部の隙ない日本髪と着物姿で引き立てて、女子学生の模範たるべき見事な言葉遣いで、規則違反の学生たちを容赦なく叱責する。これははまり役と言っていいだろう。この映画の主役は誰かと聞かれたら、高峰三枝子である。
 
高峰三枝子3 高峰三枝子と言えば、まず想起するのは思春期の頃に観た『犬神家の一族』(市川崑監督、1976年)の真犯人・犬神松子である。信州の片田舎の広いお屋敷のきれいに目の揃った畳の上に、隣りに白い覆面をしたスケキヨをはべらせて怖い顔で正座している着物姿が目に浮かぶ。
 そして、同じ金田一耕介シリーズ『女王蜂』(1978年)でのほんの脇役にすぎないのに強い印象に残る元宮様の奥方役。事件の隠された真の根源は「この女か」と思わせるほどの悪役高慢キャラであった。
 とどめに同年公開された手塚治虫原作『火の鳥』の邪馬台国女王ヒミコ。
 この3作連打で自分の中の高峰三枝子の印象はほぼ決まった。
 鉄面皮で高慢な女王様。
高峰三枝子2 その後、夏目雅子が三蔵法師を演じたテレビドラマ『西遊記』でお釈迦さまに扮したり、国鉄(現・JR)「フルムーン」のCMで夫役の上原謙と共に温泉に入り豊満な乳房を披露して話題になったりと、上記イメージを覆すようなお茶の間路線を打ち出したが、どうにも印象は変わらなかった。フルムーンのCMなど、確かに谷間くっきりのたわわな乳房がお湯の中で浮いているけれど、少年にとっては見たくもない「ババアの谷間」である。むしろ、当時国会議員であった山東昭子がそれをシリコン入りの贋物と中傷し、それに高峰が怒り心頭となって反論したことのほうが愉快なエピソードとして受け取られ、既存の高峰イメージを固定化させるのに役立った。
 
 鉄面皮で高慢。
 一番の原因は、やはり顔立ちにある。目尻のこころもち釣り上がった細長い目、若干の三白眼、すっと長くて先の尖った鼻、自然に結ぶと両端の垂れ下がる唇、がっちりした顎。これらのパーツが集まると、美しく高貴だけれど人を寄せ付けない風情が漂う。
 だから、自分が物心つく前の若い時分の高峰三枝子の人気のほどを聞くと、意外な気がする。
 松竹の清純派シンデレラから看板スターへ。
 歌う映画女優の草分け。(『湖畔の宿』はじめ、いくつものヒット曲を出している)
 戦地慰問の花形。
 フジテレビのワイドショー「3時のあなた」の人気司会者(1968-1973年)。
 この流れがあって、「フルムーン」の巨乳に世の中高年男性大はしゃぎという現象がはじめて理解できるのだ。

 高峰三枝子の昔の映画は小津安二郎の『戸田家の兄妹』(1941年)くらいしか観ていない。
 たしかに美しかったけれど、あまり印象は残っていない。他のどの女優がやっても構わない。高峰じゃなければこの役は映えないという域には達していなかったように思う。 
 一方、『犬神家』の松子夫人、『女王蜂』の東小路隆子、それにこの『女の園』の五條真弓は、高峰でなければ面白くない。‘鉄面皮’の美貌を持つ高峰だからこそ、ここまでの存在感とドラマ性を醸し出せる。キャラが立っている。
高峰三枝子1 高峰秀子ら演じる女子学生の前に絶壁のように立ちはだかる五條真弓は、自由と人権を求める若者に共感する観る者にしてみれば、実に憎らしく、手強く、取り付く島のない女ヒトラーのようなキャラである。しかも無類の美人ときては、どこからも崩しようがない。
 それが映画の最後には、実は悲しい過去を持つ一人の弱き女であることが明らかにされる。鬼の目にも涙、五條の能面から大粒の涙がほとばしる。 
 鉄面皮の下に隠された女の業や哀しみが一瞬かいま見られるとき、女優としての高峰三枝子の素晴らしさが光り輝くのである。



評価:B+

+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


 

● 映画:『夕やけ雲』(木下恵介監督)

木下恵介1 1956年松竹。
 
 木下恵介監督はゲイだったそうな。

 確かに監督の有名なポートレイトを見ると、その垢抜けたお洒落なたたずまい、柔らかな物腰はゲイっぽい。助監督には美青年ばかり雇っていたと言う。手元にある『日本映画ベスト150』(文藝春秋発行)の372ページに、坂東妻三郎と並んだ若い頃の木下の写真が載っているが、少年のようなスレンダーな体、白い半袖シャツに白い半ズボン、どう見てもマスカラをしているとしか思えない麗しい瞳をした、性別を超越した美青年が、坂妻に寄り添いながらカメラに媚を売っている。若き日の美輪明宏ばりのシスターボーイである。


木下恵介&坂妻 002


 ゲイの芸術家など珍しくもない。
 ゲイの映画監督もまた珍しくない。ヴィスコンティ、パゾリーニ、デレク・ジャーマン、ジェームズ・アイボリー、ガス・ヴァン・サント、ペドロ・アルモドバル、ローランド・エメリッヒ、・・・・・。本邦では橋口亮輔がカミングアウトしている。
 だから、作り手がゲイであるという観点でその作品についてあれこれ言うのはあまりに芸がない。
 しかし、観る者もまた同じセクシュアリティの持ち主であるときに、どうしたってゲイ的な部分を作品中に探してしまうのである。
 組合意識とでも言うべきか。
 で、木下恵介の作品は題材的にはほとんどゲイチックなものはない。ヴィスコンティが『ベニスに死す』を撮り、パゾリーニが『ソドムの市』を撮り、フランコ・ゼフィレッリの映画には若い男の裸のケツが必ず出てくるといったふうには、わかりやすい性的嗜好は見られない。むしろ抑圧・隠蔽している。男女の恋愛もの、家族ドラマ、文芸もの、戦争もの・・・木下監督の取り上げるテーマは大衆(=マジョリティ)の好みに即したもので、だからこその人気監督だったのである。唯一の例外が『惜春鳥』という作品らしい。これは日本最初のゲイ映画と言われている。(ソルティ未見)


 『夕やけ雲』も、貧乏のため船乗りになる夢をあきらめ、家業の魚屋を継がなければならなかった少年の物語で、貧しい庶民の生活と心情とがあたたかい眼差しで描かれている良品である。丁寧な語り口、節度ある確かな演出、豊かな演技。少年のやるかたない心が、まさに空を染める夕やけのように観る者の心に切なくも哀しく染み入ってくる。
 あえてゲイチックなところを言うならば、主人公の少年洋一と親友原田との仲のよさであろうか。学ラン姿の二人が手をつないで歩いているところなど(その握り合った手と手がアップにされるところなど)、思わずキュンとくる。
 しかし、それは作り手がゲイであることの決め手――決めてどうするという意見はあるが――となるほどのショット(絵)ではない。
 むしろ、自分がゲイっぽさを発見したのは、洋一の勝気な姉である豊子(=久我美子)の描かれ方にある。

 久我美子は、小津安二郎の映画に出てくるきれいなお嬢さん女優というイメージしかなかった。
 が、この映画では貧乏から脱出するために自らの若さと美貌を武器に金持ちの男を追いかける、強引でエゴイスティックな女を演じていて、それがまた非常にはまっている。この演技でブルーリボン助演女優賞を得たのも頷ける好演である。
 木下監督は、久我を綺麗に撮ってはいる。
 しかし、色気がないのである。着替えるシーンや鏡台に向かって化粧するシーン、ヒラヒラの純白のドレスを着るシーンなどが出てくるにも関らず、画面はまったく乾いている。男性監督が女優を撮るときに巧まずも滲み出て来るような艶がない。増村保造が若尾文子を、吉田喜重が岡田茉里子を、篠田正浩が岩下志麻を、小津安二郎が原節子を撮ったような具合では「おんな」を撮ってはいない。くだんのドレスのシーンなんか、久我そのものより久我の着ているドレスの美しさを強調したいかのようだ。 
 それはまさにゲイ的な女性の見方である。

 決めつけるのはまだ早い。
 木下作品は今ブームで、多くの作品がDVD化され、レンタルショップに並んでいる。
 ほかの作品で検証してみよう。
 
 
評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」    

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
    
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

 
 
 
 
 
 
 
  

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