ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

佐藤真

● 映画:『阿賀の記憶』(佐藤真監督)

 2004年日本映画。

 前記事で取り上げた映画の続編。十数年後の阿賀の様子を撮したものである。

 正直、退屈した。
 映画的作為が前作より目立つ。ドキュメンタリーというより一個のフィクションとして撮ったものと言った方が正解かもしれない。
 一方で、佐藤監督が阿賀と「阿賀に生きる」人々に対して持っている思い入れがあまりに強くて、その人々がいまはそこに居なくなったことに対する感慨があまりに深くて、それが監督ほど思い入れを持たない観る者(多くがそうだろう)には共有されるべくもないことにどうやら監督自身は思い及ばなかったらしく、独り善がりの閉鎖性の強い作品になってしまっている。
 思い入れを観る者に共有してほしいのならば、映画的作為にこだわるのはほどほどにして、もっと物語性を持たせるべきだ。湯気の立つやかんと人の座っていない空の座布団――そこは『阿賀に生きる』に登場した愛すべき老人の特等席だったーーだけの映像を延々と見せられるのは、監督の思い入れをさほど共有していない者にとっては苦痛でしかない。映画的作為が悪目立ちする結果になってしまった。

 プライヴェートフィルムならともかく、これは撮らない方が良かった。亡き佐藤真監督の名誉を守るためなら、入場料を取って上映すべきではない。



評価:D+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

● 日本人の顔 映画:『阿賀に生きる』(佐藤真監督)

阿賀に生きる 1992年日本映画。

 評判の高いドキュメンタリーを渋谷ユーロスペースでやっと観ることができた。
 新潟・阿賀野川流域に暮らす人々の逞しくも快活な暮らしぶりを描いたものである。


 中心となるのは、三組の老夫婦。
 鮭漁の名人で川べりの田んぼを守り続ける長谷川芳男さんとミヤエさん、川舟づくりの孤高の達人遠藤武さんとミキさん、餅つき職人でおしどり夫婦の加藤作二さんとキソさん。愛すべき老人たちである。
 20年前の作品であるから、いまもうこの人たちはこの世にいない可能性が高い。そのことの意味がまず骨身にしみる。
 というのも、この映画を観ながら湧き上がったのは、「自分はいったい日本を、日本人を知っているだろうか」という問いであるからだ。


 自分は五十手前である。三組の夫婦は祖父母世代にあたる。が、都会の核家族のサラリーマン家庭に育った自分は祖父母のことをよく知らない。一緒に住んでいなかったせいもあるが、父方も母方も自分が成人する前に亡くなってしまったので昔話を聞くことができなかった。父の実家はまさにこの映画の舞台と同じ新潟県で百姓兼大工をしていた。小さい頃夏休みなどに遊びに行った記憶があるけれど、祖父母の暮らしぶりとか土地の文化などに興味を持つべくもなかった。


 いま自分は老人ホームで働いている。昨年ヘルパーの資格を取るために実習先の老人ホームに行った時、車椅子姿の齢八十、九十のじいさん、ばあさんが仰山うごめいているフロアを見て、思わず心の中で叫んだ。
「こんなところにいたのか!」

 そうだった。小さい頃(60年代)は、よれよれになったじいさん、ばあさんが近所の農家の縁側に着物の前をはだけて日がな一日座っているのを見かけたものである。なかばあの世に逝っているかのようにポケーッとして目の焦点も合っていないのに、自分たち子供らが何か危ないことをしていると「そんなことすんじゃねえ」と黄泉からとどろくような大声で叱りつけるのであった。
 いつの間にかこういった老人の姿を近所でも街でも見かけなくなった。街で見かける老人は、列車の中のシルバーシートに腰掛けている人たちや病院の待合室にいる人たち、つまり杖をついたり腰が曲がっていたり若干の故障はあるけれど基本自分で出歩くことのできる「元気な」老人たちである。「老人」「高齢者」と言った場合、自然思い浮かべるのはその人たちであった。
 公的介護が充実する、自活できなくなった老人を施設に入れるのが当たり前になる、というのは、「街の風景から老いぼれがいなくなる」ことであったのだ。そのことに自分は実習先で気づいたのである。
 老人ホームで働いていなければ、自分の知っている老人はほとんど親世代(昭和二桁生まれ)以降に限られてしまったであろう。


 この映画を観ても分かるように、日本人の暮らしぶりは戦後大きく変わった。
 自分の親世代は田舎から都会に出てサラリーマンになる人が多かった。日本人の仕事の本流も、第一次産業(農業、漁業、林業)から、第二次産業(加工業)、第三次産業(情報・サービス業)へと移行していった。それはつまり、何百年と続いてきた職業文化が絶えることを、それを生業としてきた日本人が消えていくことを意味する。
 職業文化こそは、その国の民の本質であろう。それは、生活スタイルをつくってきたものであり、コミュニティをつくってきたものであり、祭りや掟や迷信や流行り唄などの風習を作ってきたものであり、何にもまして「顔」をつくってきたものである。
 そのことを思う時、自分がよく知っている日本人は「第二次産業、第三次産業に従事する、古来の職業文化から断絶された日本人」でしかないことにあらためて気づかされたのである。
 当然、「顔」も違う。


 老人ホームで働いていると、農業や漁業をやってきた人、伝統工芸の職人だった人の「顔」は、明らかにそれ以外の仕事に従事してきた人の「顔」と異なることに気づく。なんというか滋味のある「いい顔」なんである。他の老人同様、認知もあるし徘徊もするし時に声を荒げてこちらの行う介護を拒否することもあるが、何だか憎めない存在なのである。


 この映画の一番の美点は、今や失われてしまった「日本人の顔」をフィルムに焼き付けて残したというところに尽きる。



 追記:佐藤真監督は2006年に自死している。ご冥福を祈る。



評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」       

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
       

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!




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