1964年東映作品。
昭和30年代生まれの自分は、三国連太郎と言えばTBSドラマ『赤い運命』の島崎を思い出す。
当時人気絶頂の山口百恵の父親役(実際には血はつながっていないことがあとから判明する)で前科のある殺人犯を、三国連太郎は素か芝居か分からないほどの入魂の演技で表現し、自分のような百恵ちゃん目当ての視聴者をさえ毎回惹きつけてくれた。
三国の演じる島崎は、どう見てもうさんくさい日陰者で、カッとしたら何をするかわからないような暴力性と、常に周囲に怯えている小動物のような神経質な一面と、人を絶対に信用しない疑り深さと、自分が得することにおいては俊敏に器用に立ち回るずるがしこさとを兼ね備えた、複雑なキャラクターであった。そのうえ三国は、ドラマ内では説明されることのなかった島崎の悲惨な生い立ちを暗い冷めた目つきと粗暴なふるまいとで十二分に感じさせ、百恵ちゃん演じる娘・直子の献身的な愛情によって次第に心が揺れ動き、自らも愛に目覚めていく過程を全く不自然なく演じきった。
おそらく日本のテレビドラマ史上、最高の犯罪者役だと思う。三国の数多い出演作の中でも代表作と言っていいのではないだろうか。
今、『飢餓海峡』の三国を見てはじめて、「ああ、島崎の原型はこの映画の犬養太吉だったんだなあ。『赤い運命』を観ていた大人の視聴者の多くは、きっと島崎の影に三国連太郎を媒介として犬養の姿を見ていたのだろうなあ」と納得する。
犬養もまた想像を絶する悲惨な過去の犠牲者であり、殺人事件の加害者であり、遅れてやってきた愛を素直に信じ受けとることのできない不器用な男である。
ただし、役の完成度から言えば、島崎の方が上を行くと思う。
犬養役は、脚本のせいもあろうが、行動の背景にある動機がいまいち理解できない部分がある。そもそも行動そのもの(犬養が結局何をしたのか)が謎のまま終了してしまうのだから、無理もないのだが・・・。
犬養が一緒に逃亡した仲間二人を海の上で殺害したのかどうかは重要なポイントである。そこが郷里の母親に仕送りを欠かさない孝行息子である彼が、悪に手を染めるか否かの分かれ目だったのだから。
もし、捕まった犬養(=樽見)が自供したとおり、仲間殺しが正当防衛であったのならば、次のポイントは残された金を持って船から逃げるところになる。犬養という主人公が、もはや引き返せない道を選んでいく、その心理の変化を見せるドラマ的に最も重要な「おいしい」箇所を、あえて謎のままにして観る者に示さないのは、どうなのだろう?
すでに一度意図的に殺人を犯している手で後年家を訪ねてきた八重を殺めたのか。それとも、盗みこそはしたけれど故意に人を殺めたことはなく、八重を殺したのが犬養の初めての殺人なのか。その違いは大きいと思う。
演じる三国の解釈もどちらともとれるような演じ方であった。
観る者の想像におまかせしますってことか?
犬養太吉という主人公のキャラクター設定がもともとあいまいで、三国も後年の島崎を演じた時ほどの自由な表現を監督からまかされなかったのかもしれない。
その点をのぞけば、良くできた面白い映画である。
伴淳三郎、高倉健、藤田進、左幸子、加藤嘉。どの役者も渋くて、存在感が抜群で素晴らしい。
良い役者には「暗さ」が必須であるとつくづく思う。
評価: B-
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
「スティング」「フライング・ハイ」
「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
ヒッチコックの作品たち
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」
「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
「ボーイズ・ドント・クライ」
チャップリンの作品たち
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!