ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

原節子

● 映画:『お嬢さん乾杯!』(木下恵介監督)

1949年松竹。

 自動車修理工場を経営する商売上手な34歳の石津圭三(=佐野周二)は、没落した元華族の令嬢・池田泰子(=原節子)とお見合いする。圭三は泰子に一目惚れし、デートを重ねる。が、そう簡単には事は運ばない。
 ラブコメディと言ったところか。
 新藤兼人が脚本、監督の弟である木下忠司が音楽を担当している。
 
 原節子が木下恵介作品に出演したのは、後にも先にもこれ一本だけだったとか。
 どんな理由があったか知らないが、もったいない話である。
 そのくらい、ここでの原節子は美しく、演技達者で、重すぎも軽すぎもせず、木下色に見事に染まっている。没落した一家を救うために半ば打算的に付き合い始め、単なる‘好意’から始まった圭三への思いが、徐々に‘愛情’へと変わり、しまいには‘惚れております’と口走るようになる。その女心の変容をまったく過不足なく、品を損ねることなく演じている。この芝居は主演女優賞ものである。
 
 途中、圭三と弟分の五郎(=佐田啓二)とがバーで肩を組んでダンスを踊るシーンが出てくる。関口宏と中井貴一が踊っているようなものか。
 こういうシーンを見ると、「やっぱり木下恵介はゲイだったんだなあ。男女の恋愛を描くだけでは自身物足りなくて、自分のためのサービスショットが欲しかったんだろうなあ。」と想像する。
 
 安心して楽しめる、文句なしにいい映画である。



評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」     

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

 

● 原節子の美の秘密 映画:『安城家の舞踏会』(吉村公三郎監督)

 1947年松竹。

 明治初期から日本国憲法制定までの約80年間続いた華族制度の終焉を描いた作品。
 楽しみどころはいろいろある。
 たとえば、同様のテーマを扱ったチェーホフの『桜の園』やヴィスコンティの『山猫』(1963年)と比較する愉しみ。西欧を真似た豪奢な屋敷や調度やファッションや上流ならではの流儀などを眩しく見る、あるいは猿真似と気恥ずかしく思う愉しみ。時代の波に翻弄され落ちぶれゆく者の悲哀を見る愉しみ。身分違いを乗り越えて結ばれる恋模様を見る愉しみ。絵に描いたような森雅之のデカダンスぶりに酔う愉しみ。
 だが、一番の愉しみはまぎれもない。令嬢敦子を演じるうら若き(当時27歳)原節子を見る愉しみ、歓びである。
 
原節子 ほんとうに、原節子だけは特別である。
 美しい女優、演技の達者な女優、品のある女優、スタイルのいい女優、笑顔の素敵な女優、セクシーな女優、頭のいい女優、本邦には素晴らしい女優がたくさんいた。が、原節子のような女優はあとにもさきにも存在しない。
 彼女を評した「永遠の処女」という言い方は、今となってみれば、えげつなくて、無礼で、はしたない。しかも差別的である。「永遠の処女・浅田真央」なんてフレーズが、フィギアスケートの試合中継で電波に乗ろうものなら、その解説者は袋叩きをまぬがれまい。時代は変わった。
 しかし、この映画の原節子を見ていると、なんのいやらしさも嘲笑もためらいもなく、「永遠の処女」という言葉が浮かんでくる。
 原節子の美しさは、たとえば顔の造詣とか、意外になまめかしい声の魅力とか、言葉遣いや所作の気品とか、喜怒哀楽一つ一つの表情のアルカイックな深みとか、圧倒的な清潔感、といったところに存するわけであるが、それ以上でもある。その秘密を一言で言うならば「両性的」。
 
 原節子の演じる「女」は、普通の女が持つ「女性性」、他の女優が体現する「女らしさ」、――いわゆる「おんな」を、どういうわけか感じさせない。希薄である。と言って「男っぽい」わけでもない。性別やジェンダーを超えたところにあって、輝いている。だから、彼女を評する「処女」という言葉は「性体験のない女」を意味するのではなく、「性を超越した存在」という意味合いなのである。
 彼女と比較すべき人物を探すなら、やっぱりグレタ・ガルボ。あるいは、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画に描かれた美女や美少年。
 この映画でも、ストーリーとはあまり関係ないところで、彼女がボーっと外の風景を眺めてたたずんでいるシーンがある。観る者は、ダ・ヴィンチの絵を彷彿とさせる一瞬の神秘的な美にドキッとさせられる。
 その不思議な色気にゲイであるはずの自分も惑溺するのである。

 
評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」      

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」 

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

 
 
 

● 理想の四姉妹は? 映画:『細雪』(市川昆監督)

 1983年東宝。

 日本を代表する美しい女優達が目もあやな美しい着物を着て、日本の四季折々の美しい風景や家屋の中を歩く。観ているだけで幸福になれる映画である。この作品のために一着一着デザインし白地から染め上げたという着物の見事さに、日本の伝統技術のクオリティの高さをまざまざと知る。

 谷崎潤一郎のこの小説は、過去に3回映画化されているが、いつもその時々の最も人気のある、もっとも美しい女優達が四姉妹に選ばれ、妍を競ってきた。
 谷崎の夫人松子とその姉妹をモデルにしていると言われるが、姉妹それぞれの性格の違いが面白い。

長女、鶴子(30後半):強情でまっすぐな性格。激しやすいところがある。本家の格式を重んじる。 
次女、幸子(30過ぎ):姉妹思いで何かと気苦労が多い。姉妹の調整役を任じている。 
三女、雪子(30):奥ゆかしく引っ込み思案だが、自分の意志を貫き通す強さを持っている。
四女、妙子(25):現代風で、好きな男に惚れると飛び込んでしまう奔放な性格。

 この3回目の映画化では、次のような配役(当時の年齢)であった。
 長女:岸恵子(51)
 次女:佐久間良子(44)
 三女:吉永小百合(38)
 四女:古手川祐子(24)

 イメージ的にも性格的にもこのキャスティングは原作ピッタリだと思うけれど、四女役の古手川祐子をのぞくと年齢の点でちとみな年を取りすぎている。女優は実年齢より10歳は若く見えるから映像的には何ら問題はないのだが、年齢なりの落ち着きという部分はなかなか隠せないものがある。舞台は大阪であることだし、もっとキャピキャピした四姉妹なのではないかと想像する。

 さて、こういう作品を見ると、頭の中で自分なりにキャスティングを考えてしまうものである。
 私的「理想の細雪四姉妹」を発表する。もちろん、年齢はその女優がそれぞれの役と同じ年齢の時である。
 
 長女:京マチコ

 次女:小川真由美
 
 三女:原節子


 四女:浅丘ルリ子


 どうだろう?
 この四人が同じ画面に並ぶだけでくらくらしてきそうではないか。
 この四女優(姉妹)の中でいい思いをする男優(次女の夫・貞之助)は誰が適当だろう?
 石坂浩二はもう十分だ。
 三国連太郎あたりはどうだろう?

 
 ところで、映画の中で姉妹が交わすセリフにこんなのがあった。
 「音楽会の帰りに船場の吉兆でご飯食べましょう」


 時代は遠くなりにけり。




評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

● 神々しき人、原節子 映画:『日本誕生』(稲垣浩監督)

 1959年東宝。

 神社巡りが続いているせいか、日本神話への関心が高まっている。
 その昔、ポプラ社の古典文学全集『古事記物語』(高橋正巳著)を読んだので、大体の有名なエピソードは頭に入っているが、なにしろ子供向けなので性愛描写はとんと記憶にない。ギリシャ神話の例に見るように、神々のまぐわい(性愛)は神話の核である。とりわけ、多産を言祝ぐ日本神道にあって性は重要である。
 そんなことを思いながら、気になっていた『日本誕生』をレンタルした。182分あるこの映画をテレビ用に編集したものを昔観たような覚えがある。

 CG全盛の現代で、一昔前の特撮技術はきっとちゃっちく見えて笑ってしまうだろうと思っていたのだが、なんのなんの、改めて日本の特撮技術のクオリティの高さを思い知った。ゴジラやウルトラマンを生んだ円谷英二が全面協力しているのだから当然である。手間ひまかけて、創意工夫を凝らして作り上げたのだという心意気に何より感動してしまう。
 それに、特撮やセットを生かすも殺すも監督の腕と役者の力量次第なのだということが良く分かる。どんなにCG技術が向上して臨場感ある迫力ある映像が生み出されようが、演出と演技のレベルが低ければドラマとしてのリアリティはまったく備わらない。それは、評判の芳しくない昨今のNHK大河ドラマを見れば歴然である。


 とにかく役者の顔ぶれが凄い。東宝映画1000本目の威信をかけただけある。
 ざっと挙げるだけでも、三船敏郎、田中絹代、原節子、杉村春子、司葉子、中村鴈治郎、東野英治郎、宝田明、志村喬、鶴田浩二、左卜全、乙羽信子、エノケン、三木のり平、天本英世・・・・。どこに誰が何の役で出てくるかを確かめるだけでも存分面白い。
 しかも、重要な役どころを、三船敏郎(ヤマトタケル、スサノオの二役)、杉村春子(神話の語り部の老婆)、田中絹代(タケルの叔母で伊勢神宮の斎王)、原節子(アマテラス)、司葉子(タケルの妻)、東野英治郎(タケルの敵方の大伴一族の長)という華のある演技派が押さえているので、話がしまること。ドラマにリアリティをもたらすのは役者なのだとつくづく思う。


 音楽もまた素晴らしい。
 子供の頃からゴジラや大魔神で聞き馴染んでいる伊福部昭だが、古代という舞台に似つわかしい曲を、ヤマト、熊襲(中国・朝鮮風)、東国(アイヌ風)と民族ごとにふさわしい調子で書き分けて、物語に燦然たる効果を与えている。


 『日本誕生』というタイトルに内容的に誤りはないが、本筋は日本古代の英雄ヤマトタケルの物語である。
 父王に遠ざけられ、熊襲征伐や東国征伐を命じられ、最後は大和に帰る途上で客死し、白鳥になったこの英雄のドラマチックな逸話を中心に、ところどころに日本神話の有名なエピソード(イザナミ・イザナギの国産み、天の岩戸、スサノオのヤマタノオロチ退治など)をはさんでいく構成は、長尺を飽きさせない工夫が見られる。
 とりわけ、原節子がアマテラスを演じる天岩戸シーンが魅力的。この役にこれほどピッタリ合う女優は、日本の女優の歴史を見渡しても他に見つかるまい。吉永小百合では威厳に欠ける。岩下志麻では幻想性に欠ける。京マチ子では気品に欠ける。山田五十鈴では明るさに欠ける。次点で山本富士子、別次元で坂東玉三郎、美輪明宏か。「神々しさ」を演じるのは、美貌と演技力だけでは無理なのだということが分かる。
 岩屋の前で踊り狂うアメノウズメを乙羽信子が、岩戸を開くタズカラノミコトを第46代横綱の朝潮太郎が演じているのも見所である。


 ヤマトタケルの物語には、日本男児の理想が描かれている。それは、いわゆる近代的な「男らしさ」とは微妙に異なる。
 たとえば、タケルは父親に愛されないことを悲しみ人目もはばからず大きな声で泣き喚く。熊襲征伐に際しては女装する。妻に対しては実に細やかな愛情を振り向ける。
 この魅力的なヤマトタケルを世界の三船がこれまた魅力的に演じている。大らかな感情表現、部下たちへの深い愛情、高いこころざし、平等を愛する心、あくまで正直であくまで潔い。そのうえ剣さばきの見事なこと。こんなふうに日本男児を演じられる風格と技量のある俳優がいまでは思いつかない。
 
 人と人とが嫉妬し差別し争いあう世の中に、ヤマトタケルは慨嘆する。
「今の世の中では思いを音にしたらみな哀しい調べとなる。天岩戸を開いたような、あの大らかな笑いに満ちた高天原の調べがこの地上には必要だ。それが日本人本来の心なのだ。」


 これがこの大作にかけた制作陣の心からの思いなのであろう。
 1959年、今から50年以上も前の願いである。



評価: B-



A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」 
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


 


● 映画:風の中のめんどり(小津安二郎監督)

 風の中の雌鳥1948年松竹。

 日本が無条件降伏してから3年後に撮った映画である。
 映画の中の時代背景も舞台も状況設定も、そのまま当時の日本(東京)とみていいだろう。
 その意味では、リアリズム映画と言える。よくあったであろう話。

 出来としては、当時の批評家の評した通り、そして小津監督自身が言った通り、「失敗作」なのだろう。84分という短い上映時間にかかわらず、長く感じてしまったあたりにそれが表れている。

 見るべきは、主役の田中絹代の演技となる。
 この人はぜんぜん美人じゃないけど、存在感は尋常じゃない。この人とからむと、あの京マチコでさえ食われてしまう。(『雨月物語』) 女の情念や愚かさや一途さを演じたら、この人の右に出る女優は昔も今もそうそういないだろう。
 そして、なんとなく小津監督もこの人の演技にひきずられてしまったのではないかという感じがする。
 というのは、小津映画にあっては役者の過剰な演技力は‘余分’であるからだ。それは、もっとも小津映画で輝いたのが、笠智衆と原節子であったことからも知られる。笠も原もなんだかんだいって、決して上手い役者ではない。少なくとも、同様に小津映画の常連であった杉村春子や『東京物語』の東山千栄子のように新劇的な意味で演技できる役者では、全然ない。
 だが、小津が自らのスタイルを確立する上で必要としたものを二人は持っていた。
 立体的で虚ろな顔と、純潔なたたずまい。
 言ってみれば、二人のありようこそが、真っ白なスクリーンかキャンバスみたいなもので、あとは小津マジックで、場面場面で必要な様々な感情や印象を二人の役者に投影して見せることができたのだ。そこで変に演技されると、小津スタイルを壊してしまう。

 病気になった子供の看病をするシーン。布団に横たわっている子供の顔をしゃがんでのぞき込む田中絹代は、スクリーンの中心から左半分にいる。子供の姿はそのまた左側なのでスクリーンに入っていない。凡庸な監督ならば、心配する母親の顔が画面中央に来るようにして、子供の寝姿と共に撮すだろう。
 この不思議な構図で我々の目が惹きつけられるのは、スクリーンの右半分、小卓に置かれたビールかなにかの瓶である。表面の光沢と物体としての重さ。その異様なまでの存在感。
 「物(自然を含む」)と「人」とが等価値で、時には「物」の方が尊重されて、スクリーン上に配置される。語ることなく動じることなく、ただそこにある「物」の世界の中に、ほんの一時、顕れてはドラマを演じ消えていく人間達。  
 「物」と「人」との絶妙なバランスこそが、小津スタイルの刻印である。

 杉村も東山も日本の演劇史に大きな足跡を残す名優ではあるが、微妙なところで、小津スタイルを壊すことなく、むしろ、持ち前の演技力によって逆に小津スタイルを浮きだたせる役割りを担っている。それは、小津の使い方がよかったのか、杉村や東山の呑み込みがよかったのか。きっと、もともとそれほど芝居をさせてもらえるようなテーマや脚本や役柄ではなかったことが大きいのだと思う。(杉村春子主演で小津が監督したら、やっぱり失敗作になると思う。)
 この映画での田中絹代は、小津スタイルにはまりきれていない。容貌ももちろんそうだが、何より本気で芝居している。この脚本と状況設定とでは、そうするよりほかないだろう。そう撮るよりほかないだろう。
 田中絹代は、役者に十分演技させながら独特の美を造形していく溝口スタイルにこそ向いているのだ。(『西鶴一代女』) 


 結論として、テーマ自体が小津スタイルには向いていなかったということである。

 それにしても、この翌年に『晩春』を撮っていることが驚きである。
 なんとなく、60年代くらいの映画と思ってしまうのだが、『晩春』も無条件降伏からたった4年後の話なのだ。




 評価:C+

参考: 

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
         「東京物語」 「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
         「風と共に去りぬ」 「未来世紀ブラジル」 「シャイニング」 「未知との遭遇」 
         「父、帰る」 「フィールド・オブ・ドリームス」 「ベニスに死す」 「ザ・セル」
         「スティング」 「フライング・ハイ」 「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」
         「フィアレス」 ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
         「アザーズ」 「ポルターガイスト」 「コンタクト」 「ギャラクシークエスト」 「白いカラス」 
         「アメリカン・ビューティー」 「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
         「グラディエーター」 「ハムナプトラ」 「マトリックス」 「アウトブレイク」
         「タイタニック」 「アイデンティティ」 「CUBU」 「ボーイズ・ドント・クライ」 
         チャップリンの作品たち   


C+ ・・・・・ 退屈しのぎにはちょうどよい。レンタルで十分。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
         「アルマゲドン」 「ニューシネマパラダイス」 「アナコンダ」 「ロッキー・シリーズ」

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ~。不満が残る。 「お葬式」 「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
         「レオン」 「パッション」 「マディソン郡の橋」 「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。もう二度とこの監督にはつかまらない。金返せ~!!





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