2008年刊行。
江戸時代、徳川家康によって正式にその身分と職掌を認められた関八州の穢多の頭であった弾左衛門についての本。
穢多の下に置かれ、その支配を受けた非人たちの頭である「車善七」同様、「弾左衛門」という名前もまた職掌を表す名称で、代々その家の長男に受け継がれた名跡である。
本書では、弾左衛門という制度について、その具体的な仕事や居住地、組織体制などのアウトラインを描いている。
面白いのは、最後の弾左衛門となった弾直樹の生涯を追っている章である。
黒船が来て開国を迫られ、江戸から明治に変わっていく大変動期に、差別されてきたとはいえ幕藩体制の中でそれなりの既得権を得、庶民から隔離されているとはいえ浅草の立派な屋敷に住み豪勢に暮らしてきた弾直樹が、幕府の崩壊、為政者の交代、解放令の発布というドラスティックな流れを、どのようにとらえ、機を見て敏に動き、差別撤廃の運動を行い、新時代に生き残るための闘いをしたかが検証される。
摂津(今の神戸市)の穢多村から浅草新町に、弾左衛門となるべく養子に取られた弾直樹(元の名前は寺田小太郎)の生涯自体、将軍家に降嫁した和宮様に劣らないくらいドラマチックである。徳川慶喜、松本良順(将軍家に仕えた医師。こいつは一癖も二癖もある悪玉キャラ)、新撰組、西郷隆盛、車善七・・・。登場人物も賑やかだ。これを大河ドラマにしたら、絶対に面白いだろう。かつてないほどの視聴率をマークするのは間違いない。むろん、ヒーローは弾直樹である。
NHKよ。名誉挽回だ。やってはくれまいか。主役は・・・・西島秀俊でどうだ。
それが可能になれば、部落差別を一挙に過去のものとする道が開けることだろう・・・。
最後の弾左衛門・矢野直樹は、明治22年(1889年)製革靴会社の経営者として67歳で亡くなった。