ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

大島渚

● 映画:『青春残酷物語』(大島渚監督)


 1960年松竹。

 

 著者が嫌いなので読んでいないのだが、『太陽の季節』ははたして傑作なのだろうか。

 芥川賞を獲ったという事実は、この小説が時代や風俗を超えたあるレベルの普遍性に達している、人間の真実の一面を突いている、すなわち一級の純文学として認められた、と解釈したいところであるが、実際どうなんだろう?(芥川賞を買いかぶり過ぎ?)

 『太陽の季節』も、同じく芥川賞を獲った村上龍の『限りなく透明に近いブルー』も、その時代時代の若者の姿を生々しく描いたことで評判となった。それは、体制に組み入られた大人達の知らない「今の」若者像であり、古い世代の価値観を震撼とさせる反社会的、反道徳的な登場人物たちの言動の数々が、世間に衝撃を与え、ベストセラーになった。

 現時点で(2014年)両作品を読むときに、作品が発表されたときの衝撃はもはや感じられまい。ペニスで障子を突き破る青年も、腕にヒロポンを突き刺すうら若き女性も、当節では斬新さはない。つまり、発表当時に世間が受けた衝撃や目新しさはもはや薄れている。両作品は平成時代の我々が持つ価値観では、もはや体感できるほどの震度を持たないであろう。

 そうした「スキャンダラスで勝負」というレベルを超えて、両作品が平成時代の読者に感動をもたらすとしたら、それは普遍性を獲得したということになるのだが、はたしてどうなのだろう?

 いつの時代でも変わることのない「青春の蹉跌」を描くことに成功しているのだろうか。

 

 『青春残酷物語』は明らかに成功している。

 松竹ヌーベルバーグという言葉を知らない世代が観ても、夜道をバイクで飛ばすことや、助平親父を手玉にとって美人局まがいの恐喝をすることや、性の相手をすることで年増女を金づるにすることなんかに、かほどの目新しさも覚えないであろう今の若い世代が見ても、この映画で描き出されている「青春の息苦しさ」「やり場のない怒り」「煮えたぎる欲望」「根拠のない楽天主義と不安と挫折」は共感できるところであろう。

 いつの時代でも変わらぬ「若さの受難」をあますところなく描ききっている。

 主人公の学生・清(=川津祐介)が、堕胎させた恋人マコ(=桑野みゆき)の寝姿を前に、ただひたすら林檎を齧るシーンがある。何のセリフもない、何の脈絡もない、ただポリポリと林檎を齧る音だけが暗闇に響く。

 観る者は、なんてことないそのシーンに「若さの受難」のすべてを感得する。

 こんな芸当ができる大島渚はやはり偉大な監督である。

 

 食わず嫌いしないで『太陽の季節』を読んでみるか。

 

 

評価:B+



A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


 

 

 

● ドヤの中の品格 映画:『太陽の墓場』(大島渚監督)

 1960年松竹。

 大島渚は日本が世界に誇る名監督である。
 が、恥ずかしながら主要な作品をほとんど観ていない。
 安部定事件を題材に男女の性愛の極限を大胆に描いて国際的な名声を得た『愛のコリーダ』(1976年)あたりから、その名を意識するようになったのだが、むろん『コリーダ』は不完全な形でしか観れていない。
 デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけし出演で世界的大ヒットとなった『戦場のメリークリスマス』(1983年)は、さほど感動しなかった。シャーロット・ランプリングの魅力全開の『マックス、モン・アムール』(1987年)、新撰組の男色模様を描いた松田龍平デビュー作『御法度』(1999年)は文句なく面白かった。
 これら晩年の作品のみで――それらがいかに傑作であろうとも――大島渚を云々するのは、あまりにも乱暴で、鼻持ちならない所業であろう。
 が、自分の中で印象付けられたのは、「品格のある作品を撮る人」というイメージであった。

 大島渚のもっとも熱い時代を自分は知らない。作品も観ていない。
 松竹ヌーヴェルバーグの旗手と言われるきっかけとなった『青春残酷物語』(1960年)、日米安保闘争を描いた『日本の夜と霧』(1960年)、死刑制度の矛盾や韓国人差別を描いた『絞死刑』(1968年)など、反権力のスタンスで社会性の強い作品を世に送り続けた大島監督の真骨頂は、やはり60年代にあるというべきだろう。
 『太陽の墓場』はまさにその一つである。


 舞台は撮影当時(1960年)の大阪釜ヶ崎(今の「あいりん地区」)。東京の山谷、横浜の寿町とならぶ日本三大ドヤの一つである。
 戦後の匂いがぷんぷんと立ち込める釜ヶ崎で、不法な仕事をしながらその日暮らしの生活を送る人々をリアルに描く。
 主役に抜擢された新人・炎加世子が光っている。男勝りで、刹那的で、うかつに触れればスパッと切られるように激情的で、セックスアピール抜群の女・花子を、体当たりで演じている。相手役の武を演じるのは佐々木功。なんと「宇宙戦艦、ヤ~マァ~ト~♪」の歌手である。もともと俳優だったのだ。役柄のせいもあると思うが、悪に染まりきれない文系のイケメン青年ぶりは好ましい。
 ほかにも、判淳三郎、渡辺文雄、小池朝雄(コロンボ刑事の声)、津川雅彦、川津祐介、小松方正、田中邦衛、左卜全、浜村純など、今にしてみれば個性派スター総出演の豪華さ。愚連隊のボス・信を演じる津川雅彦は、「カッコいい」の一言に尽きる。若き日のデヴィ夫人が恋に落ちるのも無理もない。

 売血、売春、強盗、レイプ、殺人、死体遺棄、戸籍売買、人買い、殴りこみ、手榴弾の爆発・・・・と、何から何まで無法だらけの、登場人物すべてがキ印と思えるほどの、壮絶な内容である。これとくらべると、80年代の山谷の騒動を描いたドキュメンタリー『山谷 やられたらやりかえせ』は、3チャンネル(NHK教育テレビ)に思えるほど行儀がよい。
 実際、よく撮れたなあ、よく上映できたなあ、と思う。いまこの作品を公開上映したら、「健全な若者に悪影響を及ぼす」と、どこからか文句が出そうな気がする。
 しかし、である。
 自分はやはりここにも大島監督の「品格」を感じたのである。

 テーマや内容とは関係のないところで、大島監督の作品は品がある。
 たとえばそれは、レイプシーン。犯されている女子高生のショットそのものずばりは撮らずに、それを遠めで見ている花子と武の表情を映すところ。線路上で取っ組み合っている武と信が列車に轢き殺されるシーン。近づいてくる列車はまったく撮らずに、列車の響きと線路脇で二人を見ている花子の動きを映すところ。露骨なエログロシーンは出てこない。
 考えてみれば、『マックス、モン・アムール』(=オランウータンと美しき人妻との恋、下手すれば獣姦)も、『御法度』(=新撰組に忍び入る男色)も、もちろん『愛のコリーダ』(=チンチンをちょん切る女の話)も、内容そのもの、テーマそのものは決して品のあるものではない。むしろ、撮りようによってはいくらでも下品に陥る危険、エログロになる可能性はあった。
 そうはならなかったのは、ひとえに大島渚の資質や才能によるものだろう。
 品だけは隠せない。



評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
    
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!



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