ソルティはかた、かく語りき

首都圏に住まうオス猫ブロガー。 還暦まで生きて、もはやバケ猫化している。 本を読み、映画を観て、音楽を聴いて、神社仏閣に詣で、 旅に出て、山に登って、瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

宇野重吉

● 松竹というより・・・ 映画:『女の一生』(野村芳太郎監督)

1967年松竹。

 原作は1883年に刊行されたギ・ド・モーパッサンの長編小説。日本ではこれまでに3度映画化されている。
 学生時代に新潮文庫で邦訳を読んだはずなのだが、どういう話かすっかり忘れていた。おそらく当時は、「女の一生」というテーマ自体に関心がなかったからであろう。(‘世界の名作’だから一応読んだのだ)
 
 今回、岩下志麻が目的でDVDをレンタルしたのだが、これがまあ、目茶苦茶面白かった

 舞台を日本の信州に移し変えているとは言え、登場人物の設定やあらすじはほぼ原作のとおりである。
 だから、フランス文学の古典に特徴的なわずらわしい描写表現を捨象したあとに残るストーリー自体と、映像化によって肉付けされた役者達の派手な感情表現が面白いのである。

  • 世の中を知らない温室育ちの少女・伸子(=岩下志麻)は、憧れの美男子・宗一(=栗塚旭)と結ばれる。伸子は宗一に処女を捧げる。(これから始まる初夜の‘不安と期待’に揺れる志麻さまの表情に注目!)
  • ところが、宗一は碌でもないやつだった。伸子の乳姉妹であるお民(左幸子)にも同時に手をつけていて妊娠させてしまう。
  • それを知った伸子は逆上する。が、彼女のお腹にもすでに赤子がいたのである。
  • 「あんな男の子供なんか欲しくない」と絶叫しつつ、伸子は宣一(=田村正和)を出産する。一方のお民は生まれた子供ごと、熨斗を付けてよその男のところに片付けられる。
  • 淋しい伸子は宣一の育児にかまける。夫はまたしても人妻・里枝(=小川真由美)とねんごろになる。ふしだらな二人は、嫉妬にかられた里枝の夫に猟銃で撃ち殺されてしまう。(小川真由美のファビュラスな演技!)
  • 未亡人となった伸子は、東京で大学に通う宣一だけを頼りに静かに暮らしていたが、甘やかされて育った宣一はクズのような男になっていた。無免許運転で人をはねて相手を片輪にしてしまう。
  • 伸子の父・友光(=宇野重吉)は賠償金の工面で、畑や山を処分せざるを得なくなる。
  • かくして一家の没落が始まる。
 ・・・・・・続く。 

 とまあ、次から次へと伸子に災難が降りかかり、ストーリーは目まぐるしく展開し、登場人物は、叫び、怒り、嗚咽し、苦悶する。
 このベタさ加減、何かを思い出す。
 そう、往年の大映ドラマである。
 
 1980年代に大映テレビが制作した実写ドラマは、当初から同業他社のプロダクションが制作する作品に比べて、以下のような特徴が際立っている。
  • 主人公が運命の悪戯に翻弄されながら幸運を手に入れるといういわゆる「シンデレラ・ストーリー」。
  • 衝撃的で急速な起伏を繰り返したり、荒唐無稽な展開。
  • 「この物語は…」の台詞でオープニングに挿入され、ストーリーの最中では一見冷静な体裁をとりつつ、時に状況をややこしくするナレーション。
  • 出生の秘密を持つキャラクターの存在。
  • 感情表現が強烈で、大げさな台詞。 
 これらの独特な演出から、他の制作会社のドラマと区別する意味で「大映ドラマ」と呼ばれていた。
(ウィキペディア「大映テレビ」より引用)

 ちなみに、80年代の代表的な大映ドラマを上げると・・・
  •  スチュワーデス物語(堀ちえみ、風間杜夫、片平なぎさ)
  •  不良少女とよばれて(伊藤麻衣子、国広富之、伊藤かずえ、松村雄基)
  •  スクール☆ウォーズ(山下真司、岡田奈々、松村雄基、伊藤かずえ、鶴見辰吾)
  •  少女に何が起ったか(小泉今日子、辰巳琢郎、賀来千香子、高木美保、石立鉄男)
  •  ヤヌスの鏡(杉浦幸、山下真司、風見慎吾、河合その子、大沢逸美)
  •  花嫁衣裳は誰が着る(堀ちえみ、伊藤かずえ、松村雄基)
 
 松竹なのに大映。
 だから、面白いのだ!
 そして、主演の岩下志麻がまた、押しも押されぬ松竹の看板女優のはずだのに、大映ドラマのノリに見事にはまっている。左幸子、小川真由美は言うに及ばず。
 なるほど、岩下志麻のどことなく過剰なテンションの高い演技は大映ドラマ風である。

 「傑作フランス文学の完全映画化」という煽り文句から敬遠していると損をする。四季折々の信州の美しい風景、田舎町の珍しい風習、懐かしい昭和の日本の情景、宇野重吉や左幸子の重厚な演技など、見所はいろいろあるけれど、この映画の一番のポイントは「岩下志麻、大映ドラマに挑戦」ってところにある。
 どこからか、来宮良子のナレーションが聞こえてくるかと思った。



評価:B+


A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!




● 映画:『黒部の太陽』(熊井啓監督)

1968年日活。

 黒部ダム建設の苦闘を描いた骨太の人間ドラマ。上映時間196分(3時間以上!)は破格の長さであるが、長さをまったく感じさせない脚本のうまさ、役者たちの演技の熱さ、セットのリアルさ、撮影技術や演出の見事さに舌を巻く。さすが、『地の群れ』、『サンダカン八番娼館』の熊井啓。
 ダム建設自体も大変な苦労だったろうが、この映画の撮影もまた相当な苦労だったろう。当時(50年代後半)の日本社会が持っていた人的・財的・技術的資源と巨大ダム建設に賭ける男たちのほとばしる情熱は、そのまま当時(60年代後半)の日本映画界が持っていた人的・財的・技術的資源と映画制作に賭ける男たちのみなぎる情熱そのものである。これが戦後の復興を可能ならしめたパワーというものだろう。
 ・・・どこかに消えて久しい(いい悪いは別として)。
 
 役者陣の充実ぶりも凄い。 
 石原裕次郎演じるキザな熱血男児・岩岡と、あこぎで破天荒なその父・源三(辰巳柳太郎)の父子相克は、『美味しんぼ』の山岡士郎と海原雄山のそれとダブる。リアリティあふれる辰巳柳太郎の土方の演技を見るだけでもこの映画を見る価値はある。
 父子と言えば、なんと宇野重吉・寺尾聰親子が共演している。これは寺尾聰(『ルビーの指輪』)の映画デビュー作(当時21歳)なのだ。
 
当時、石原プロの元にはスタッフ・キャスティングに必要な人件費が500万円しか無かった。石原裕次郎はこの500万円を手に、劇団民藝の主宰者であり、俳優界の大御所である宇野重吉を訪ね、協力を依頼した。宇野は民藝として全面協力することを約束し、宇野を含めた民藝の所属俳優、スタッフ、必要な装置などを提供。以降、裕次郎は宇野を恩人として慕うようになった。(ウィキペディア「黒部の太陽」より抜粋)
 
 この宇野重吉の相貌がいまの寺尾聰そっくりである――順序から言えば逆か。いまの寺尾聰が当時の宇野重吉そっくりなのだ。当たり前といえば当たり前なのだが、映画撮影当時はここまで相似するとは予期できなかっただけに、なんだか感動する。
 
 三船敏郎と石原裕次郎。
 やはり昭和が生んだ大スターの名に恥じない存在感である。
 相性も悪くない。
 二人を一緒に並べて観ることで、俳優としての二人の資質の違いを実感した。
 石原裕次郎は、何をやっても石原裕次郎である。それ以外にはなれない。裕次郎としての個性が強すぎて、役柄よりも個性が前に出てしまう。吉永小百合や高倉健と同じである。
 一方、国際的俳優でアクの強さでは本邦随一とも言える三船敏郎は、演じる役に同化することができる。‘大スター三船敏郎’はスクリーンのうちに存在を消して、役柄になりきることができる。この映画でも、誠実で娘思いで渋さの際立つ建設会社管理職そのものになりきっている。たとえば、三船が出演していることを知らずにこの映画を観た人が、「あれ?この役者確かにどっかで見たことあるけれど、だれだったかなあ?」と思ってしまうほどの、確かな役の造形力、演技力である。
 三船敏郎は演技派だったのだ。 
 
 それから、気になったのは音楽。
 ソルティが最近はまっているマーラーの交響曲になんだか似ている。いつくかの主要な動機(=メロディ)もそうだし、様々な楽器の――特に金管楽器の使い方がマーラー風である。
 「誰だ? 音楽担当は?」
 クレジットを見直したら、黛敏郎だった。
 なるほど、大自然を相手の人間の涙ぐましい死闘、人知を尽くして苦難を克服した輝かしい一瞬の栄光、その裏に隠された幾多の犠牲と悲劇、そしてその後(バブル崩壊後)わが国に訪れることになる、生きるパワーの停滞と不安と虚しさ・・・・・。これらを表現するのにマーラーの音楽ほど適したものはないかもしれない。トンネル開通の浮かれ騒ぎの中で娘の死を知った三船敏郎の深い苦悩の表情とともに、この音楽もまた、黒部ダム建設が「人間の勝利、技術の光輝」という単純な‘プロジェクトX’図式に回収される話ではないことを物語っているようだ。

 

 
評価:B-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 


C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 
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