1984年日本映画。

 『水の中の八月』が良かったので、石井監督の初期の作品を借りてみた。
  
 まず、役者達の個性が光っている。
 当時DJとして人気絶頂だった、というよりDJという職業を大衆に認知させた小林克也が、真面目で小心で思い込みの激しい父親役に見事にはまっている。母親役の倍賞美津子は上手い。息子役(有薗芳記)と娘役(工藤夕貴)も漫画チックなキャラクターを存分に愉快に演じている。祖父役に植木等を配して、完璧なペンタグラム(五角形)を成している。
 バランスのいい家族の間の死のバトル・ロワイヤル。

 戦闘前のサスペンス効果を盛り上げるのに、映像表現に依らずロック音楽に頼っている、肝心の戦闘部分の演出が雑で今ひとつ迫力に欠ける、など稚拙さは目立つけれど、家を失った一家が高速道路の高架下で食卓を囲む最後のシーンに見られる映画的時間と空間の幸福感には、石井監督の才能の曙光が紛れもなしに認められる。



 ところで、小林よしのり原案・脚本である。
 『東大一直線』『おぼっちゃまくん』『最終フェイス』など、自分は小林よしのりの漫画を楽しんできた。ファンであったと言ってもよい。それが『ゴーマニズム宣言』以降、楽しめなくなってきた。どんどんどんどん右傾化し、教条主義になり、今では彼がどのあたりにいるのか見当もつかない。もう二度と『おぼっちゃまくん』のように子供達に愛される作品は描けないだろう。残念である。
 だけど、小林よしのりが「変わった」「おかしくなった」というわけではなかろう。そう思うのはこちらの勝手な偏見と期待の押しつけで、もともとああいう狂気なところがある人なのだと思う。彼としては過去の人気少年漫画家時代の自分と今現在の自分との間に整合性はみているのだろう。彼の漫画の面白さは明らかに狂気と紙一重のところにある発想の天才性にある(あった)。
 そういう目で見ると、この映画の主人公・小林勝国(小林克也)が次第に精神を破綻させていく姿は、小林よしのりのその後の変貌に重なる。
 「自分の家族(国)はどこかおかしい」という正確な認識から始まって、「自分がなんとかしなければ」という(誰に頼まれたでもない)過剰な責任感を背負い、元軍人の父親の扱いに困り果て、その居場所作りのために買ったばかりのマイホーム(戦後民主主義)のリビングの床に穴を開ける。本来の生真面目さが目覚めた狂気を煽り立てる。愛する家族を守るためには家族を皆殺しするしかないという本末転倒に陥り、最後は家を全壊させる。

 あたかも84年の時点で、小林よしのりは今後の自分を予見していたかのようである。



評価:C+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」       

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!