ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

山本富士子

● 映画:『日本橋』(市川崑監督)

 1956年大映作品。

 原作は泉鏡花。(いま気づいたが泉鏡花と小泉今日子は似ている。キョンキョンの後ろに無意識に日本的幻想性を錯覚し、彼女を上げ底していたのか)
 やはり最大の娯しみはスター女優の美しき競演にある。
 主役の淡島千景はこれまで注目したことのない女優であった。下手すると、国会議員で大臣まで務めた扇千景と混同してしまう。二人ともに宝塚出身であるし。ウィキによると、10歳近く年下の扇千景が、尊敬する先輩である淡島から名前をもらったようである。『渡る世間は鬼ばかり』にも出演していたらしいが、どうも記憶にない。
 今回若い頃の主演作をはじめて見て、演技の上手さに感嘆した。気風がよくて情の強い、好きな男の前では少女のように一途で可愛い芸者・お孝を艶やかに演じている。着物の着こなしや立ち居振る舞いも見事で、古き日本女性の美を感得させるに十分だ。
 ライバル清葉を演じる山本富士子の美貌は言わずもがな。特にすっと通った鼻梁の高貴さは、現代に至るまで他の女優と混同されることを許さないトレードマークと言える。
 そして、芸者見習いお千世役の若尾文子。なんて可愛いのだろう。同年に撮られた『赤線地帯』(溝口健二監督)では吉原遊郭で一番人気の娼婦をしたたかに艶やかに演じている。あどけなさの残る可愛らしい少女と、男を手玉に取るマキャベリな女。そのどちらも作為なく演じきれるところが若尾文子の女優としての魅力であろう。この映画では後年若尾を演技派女優に磨き上げた増村保造が助監督を務めている。
 
 自分世代(60年代生まれ)では、市川崑と言えば石坂浩二主演の金田一耕介シリーズがまず連想される。この映画を観ているとなんだか『犬神家の一族』(1976年)と重なるのである。いや、『犬神家』がこの『日本橋』のパロディだったのかと思われるのである。
 たとえば、主役のお孝(=淡島)が毒を飲んで自害するシーンは、どうしたって犬神松子(=高峰三枝子)の白くなった唇の最期を思わせる。お孝の恋人葛木(=品川隆二)が出家姿で町を去るシーンは、事件解決後に小汚い帽子をかぶって村を一人去ってゆく金田一耕介を思わせる。二人に共感的な警察官笠原(=船越英二)のバンカラ的ふるまいは、「よ~し、わかった」と手を打つ警察署長の加藤武を思わせる。惨殺されるお千世のいたましい着物姿は、わらべ唄に合わせて次々と惨殺されていく『悪魔の手毬唄』の娘たちや『獄門島』の浅野優子を思わせる。映画の冒頭でタイトルクレジットが出る直前の、亡くなった芸者の幽霊出現に驚く芸妓たちのショットも、湖や時計台で死体を発見して驚く若い女中のショットと重なる。
 どうも型が共通なのである。
 その理由を泉鏡花と横溝正史の類縁に求めるべきか。市川監督のフォークロア的あるいは絵柄的好みと見るべきか。それとも市川の細君で両作品の脚本を担当している和田夏十のせいなのか。
 いずれにせよ、劇画チックな派手さ、面白さというのが市川監督の人気の秘密のような気がする。



評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」     

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


● 映画:『歌行燈』(衣笠貞之助監督)

 1960年大映。

 衣笠監督といえば1954年にカンヌグランプリを受賞している『地獄門』(京マチ子、長谷川一夫主演)が名高い。が、それ以外の作品についてはほとんど知られていない。上映される機会も少ない。レンタルビデオ店にも置かれていない。
 『地獄門』以外は観たことがなかった。
 『地獄門』は見事な色彩表現と京マチ子の美貌に感嘆はしたけれど、黒澤や小津や溝口といった大監督の傑作群にくらべれば印象に残るものではない。監督としての知名度も評価も上記3人はもちろんのこと、同じ国際的な賞をもらっている市川昆や大島渚や今村昌平などに比べても低い。少なくとも国内では。
 これは個人的な見解ではない。
日本映画150 文藝春秋『大アンケートによる日本映画ベスト150』(1989年発行)を見ても、衣笠貞之助の名前は監督ベスト20にも入っていない(49位)。その作品でベスト150に挙がっているのは『地獄門』ではなく『狂った一頁』(1926年)のみで、それも113位である。
 1920年から66年まで実に60本以上の作品を世に送り出し、長谷川一夫や山本富士子といった大スターの育ての親であることを考えると、この評価の低さは不可解というか不当である。まさか若い頃女形役者であったことで低く見られているとも思えんが・・・。

 最近昭和キネマ横丁からリリースされた『歌行燈』は、『地獄門』を軽く超える衣笠監督の最高傑作であるばかりでなく、おそらく日本映画史上20指に入る大傑作である。これほどの名画がこれまで埋もれていたとはなんとも由々しきばかり。

 全編を覆う、目眩き美・美・美の氾濫!
 どのシーンで画面を一時停止させても「絵」になるショットの美しさ。アップでもバストショットでもロングショットでもなく、あたかも縁先の庭の木陰から屋内を覗くような中間距離の撮影方法(まさにその通りのシーンが最後に出てくる)が、色彩と陰影と構図によって瞬間瞬間の美を生む出すことを可能にし、観る者は映画的陶酔に引きずり込まれる。その距離は「節度ある近しさ」とも「覗きの快楽」とも言い得るような、まさに映画でなければできない物語の視点を醸成している。

 主演の市川雷蔵の美しさは、造形的なものとは別にその「暗さ」にある。部落差別を描いた『破戒』(1962年)や、三島由紀夫『金閣寺』を原作とした同じ市川昆監督の『炎上』(1958年)の主役を好演したことが表すように、雷蔵の美は「暗さの美、哀しみの美、疎外される者の美」であり、ブラッド・ピットよりアラン・ドロン、カトリーヌ・ドヌーブよりグレタ・ガルボ、浅田真央よりキム・ヨナに近い。元来、日本人はこのような翳りのある美が好きなのではないかと思う。
 一方の主役である山本富士子の美は、その名(本名だと言うから驚く)の示す通り、日本的な美の極致である。何といっても「第一回ミス日本」なのだ。
 ただし、女優の美しさというのは造形的なものだけでは不足する。それは同じミス日本グランプリである藤原紀香が、女優としては輝けないのを見ればよく分かる。女優として一級になるには、造形美プラス「何か」が必要なのである。単純に演技力ではない。
 この映画の中の山本富士子は、最初のうちその「何か」が不足しているように思える。地方の謡曲師の娘お袖としてなるほど鄙には稀な美人である。だが、雷蔵の相手役を張れるほどのタマではない。父の自殺を機に家が潰れ、芸者に身を落としたあとも、まだまだ主役になりきれていない。
 ところが、喜多八(雷蔵)と再会し恋を知ったその日をさかいに、お袖は一気に艶を増す。山本富士子は、堂々の主演女優に化ける。その変化があっけに取られるほど素晴らしい。つまり、山本富士子は「おぼこ娘」を演じていたのである。
 この変化(へんげ)は、自身女形だった衣笠の演出の腕が冴えていることももちろんだが、それに応えてオーラーを自在に開花させることのできる山本富士子はやはり単なる美人女優ではない。

 原作は泉鏡花の同名小説。
 だから、ハッピーエンドに終わるのにケチはつけられないものの、もし悲劇的結末が用意されていたら、「A+」をつけてしまったかも。




評価:A-



A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」    

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
        
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

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