ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

岡田茉莉子

● 差別との出会い 映画:『人間の証明』(佐藤純彌監督)

1977年東映。

 八杉恭子(岡田茉莉子)は、戦後の混乱期、生きるためにパンパン(米兵相手の売春)をやっていて、知り合った黒人兵との間に男の子をもうけた。これが事件の発端となる。
 数十年後、大物政治家の妻となり、ファッションデザイナーとして頭角を現していた恭子のもとに、過去の亡霊が現れる。捨てたはずの息子ジョニーが、アメリカから恭子を慕ってやって来たのである。
 過去が世間に暴露されスキャンダルになれば、今の幸せが崩壊する。
 思い余った恭子はジョニー殺しを決行する。

 30年以上ぶりに観た。
 やっぱり、見ごたえある。
 主演の岡田茉莉子は当時44歳。10代のソルティの目には‘派手で年増のおばさん’という印象だったが、自分がその年齢を上回った今見ると、まぎれもなく美貌と貫禄あふれる大女優がそこにいる。三船敏郎、夏八木勲、長門裕之、鶴田浩二、峰岸徹、地井武男、ハナ肇、ジョージ・ケネディ・・・錚々たる豪華男優陣を足元にも寄せ付ず独り高みで輝いている。
 唯一匹敵すべき存在感を発揮しているのが松田優作。やはり子供の目には‘むさくるしい怖そうなオジサン’という印象だったが、当時28歳。今見ると青春の香りがふんぷんとするではないか。岡田茉莉子と互角に渡り合うのだから、やっぱり稀代の名優と言うべきだろう。
 そうそう。当時26歳の岩城滉一が岡田の息子役で出演している。本来の‘族’上がりの硬派イメージとは異なる「甘やかされ駄目になったお坊ちゃん」役で、そのギャップが楽しい。
 
 この『人間の証明』と並んで、少年ソルティが強い刻印を受けた70年代の日本映画に、松竹の『砂の器』(野村芳太郎監督、1974年)と、東宝の『犬神家の一族』(1976年)がある。いずれも大ヒットを記録し、森村誠一、松本清張、横溝正史の原作本は飛ぶように売れた。この3つの作品が、それまで『ゴジラ』や『モスラ』などの怪獣映画や、『地底探検』『人類SOS!』などの海外B級SF映画にしか興味なかったソルティが、日本の本格的大人映画に目覚めたきっかけであり、そこに共通して響いている重くて暗いテーマに愕然とし、「生きるって大変なのかも・・・」と洗礼を受けた最初であった。
 重くて暗いテーマとは、ずばり「過去」である。
 
 『人間の証明』『砂の器』『犬神家の一族』は、人に言えない悲惨な過去が、安穏にまた華やかに生きている現在の人間達を不意打ちする。主人公は、現在の生活と体面を守るために闇から立ち現れた過去を封じ込めようとして、殺人を犯す。そこが、単なる痴情のもつれや遺産をめぐる争いや衝動殺人とは違った、深い業とでも言うべき動機を主人公に担わせ、「犯人が捕まってよかった」「自業自得だ」という単純な勧善懲悪に終わらずに、観る者の胸のうちに犯人に対する哀れみと同情の念を催すのである。謎の解明は、決してすっきりした気分のいいものではなく、背景にある戦争・差別・偏見・因習に縛られた家制度などの不条理を浮かび上がらせ、映画館を出る観客たちは「人が歴史の中を生きることの重さ・不自由さ」について思いをめぐらせたのである。当時の大人たちは、その過去を、犯人たちの「物語」をリアルタイムで共有してもいた。
 
 パンパンもハンセン病もよくは知らなかった十代のソルティは、おそらく『人間の証明』や『砂の器』の真犯人の動機を十全に理解してはいなかった。主人公が過去を隠さなければならない理由を、大人の観客のようにはわかっていなかった。
 でも、差別というものがいかに残酷で、差別される人をどれほど苦しめ生きにくくするものなのかを、おぼろげながら感じとり、お茶の間ロードショーが終わって枕に頭をつけてもまだ物語を反芻していたのであった。
 後年自分もまた、差別を受ける側(マイノリティ)になるとは思いもせずに・・・。 

 そう、真の問題は「過去」ではない。「差別」だった。
 

評価:B-


A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 


 

● 男には決して分からない 映画:『香華』(木下恵介監督)

 1964年松竹。

 奇矯な関係にある母と娘の波乱の生涯を描いた有吉佐和子同名小説の映画化である。

 木下恵介と有吉作品がこれほど相性が良いとは意外であった。
 二人の女--母と娘--が実に良く描けていて、実に面白かった。前後編あわせて202分を一気に観てしまった。
 女性が主役の、女性視点の物語を、かくも上手に、かくも細やかに撮れるのは、木下監督のゲイセクシュアリティゆえであろうか。その意味で、木下監督の本領がもっとも良く発揮されている作品の一つと言えるのではなかろうか。

 母親と娘の関係というものは、男たちのまったくわからない世界である。
 それは、父親と息子の関係を世間の女性たちがよくは理解できないのと照応するわけであるが、後者については『巨人の星』をはじめ典型的な物語がたくさんあるし、男同士の関係はなんだかんだいって単純で劇画調でわかりやすいので、謎というほどのことはない。
 しかるに、母親と娘の関係は、世間の男たちにとって謎の中の謎と言っていいだろう。
 まず、一般に男たちは単体の「女」を理解できない。理解するためのプログラム言語を持っていない。母と娘の関係と来た日には、「女」の二乗である。わからなくってあったりまえだのクラッカー。というか、そもそもそこに興味を持つ男はそういまい。理解できないことには興味を持たないのが「男」という生き物である。
 だから、この作品を映画化できた木下恵介は偉大なのである。

 娘を生計のたつきにしか思っていない身勝手な母親・郁代と、その母を終生慕い続けるしっかり者の娘・朋子。観る者は母親の冷酷さ、その人非人ぶりに怖気を奮いつつ観ることになるのだが、唯一母と娘の心が通い合う場面がある。
 ほかならぬ実の母によって遊郭に芸妓として売られた娘。こともあろうに亭主に捨てられた母親は同じ遊郭で女郎として雇われるはめになる。芸は売れども体は売らぬ娘と、年をごまかして体を売る母親。娘は周囲に知られぬようにこっそりと母親の元に通い、食べ物を差し入れる。
 そんなある日、娘は初潮を迎える。点々と床に滴る徴からそれを見知った母親は、娘を思わず掻き抱く。
 それは決して娘の成長を喜ぶ母親の喜びではない。同じ「女」になってしまった娘に対する憐憫なのである。
『ああ、お前もこれから男社会の中で、一人の女として、「女であること」を弱みとも武器ともして、生きていかなければならないんだ』

 こんなシーンをまともに撮れる男性監督なんて、滅多いない。
 溝口健二にも市川昆にもできなかったであろう。形だけは原作どおり(脚本どおり)に作れたかもしれないが、母と娘の一見‘共依存’の陰に隠された、切っても切れない女同士の絆は、木下の細やかなる女性的感性によってしか表現されえなかったと思われる。


 年端の行かない娘を遊郭に売ってしまうひどい母親を乙羽信子が演じ、その母を終生面倒見続けるしっかり者の娘を岡田茉莉子が演じている。甲乙つけがたい好演である。
 現代ならこの母娘の関係は、児童虐待とかストックホルム症候群とか共依存とか指摘されてしまうのであろうが、なんだかそんな精神医学的解釈が味気なく感じられるほど、この母娘は花柳界の現実をなまなましく逞しく生きて、個人主義という言葉が冷たく感じられるほど、強い縁で結ばれている。
 岡田茉莉子の気丈な視線を観ていると、外野が文句つける筋合いはないなあ、とくに男はうかつに近寄るべからず、とつい思ってしまうのである。

評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
      
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


● 茉莉子、みたび 映画:『秋津温泉』(吉田喜重監督)

 1962年松竹。


 原作は藤原審爾の同名小説。舞台のモデルとなったのは、岡山県津山の山間にある奥津温泉。風光明媚の静かな温泉地である。約30キロ離れたところに、横溝正史『八つ墓村』の冒頭シーンでなぞられた日本犯罪史上もっとも凄惨と言われる津山30人連続殺人(1938年)の現場がある。


 時代は戦後。
 主人公の周作(長門裕之)は結核病みのうだつのあがらない文士くずれで、女に心中を持ちかける太宰治のような優柔不断な男。死にかけたこの学生を助けたことから、生気溌剌たる旅館の娘・新子(岡田茉莉子)は、結ばれることない恋に煩悶し、あたら青春を無駄にし、山里に朽ちていく。10代から30代まで、一人の女の半生を適確に演じた岡田の巧さ、美しさに目を奪われる。

 憂鬱な文学青年である周作は、若き新子に心中をもちかける。新子は問いかける。
 「私のこと好き?」
 「ああ」
 「それなら一緒に死んであげる」
 二人の心中は失敗する。

 17年後、結婚せずに一人で守ってきた温泉旅館を手放し、若さと希望を失った新子は、妻帯して東京の出版社に勤める周作に心中を持ちかける。周作は言下に断る。
 「なにを馬鹿なこと言ってるんだ。」
 結果、新子は自分の腕を切り、一人で流れに身を晒す。

 これは、時を経て様相を変えていく男と女の関係を描いた「大人の」映画であるが、最後に浮かび上がるのは、男のずるさ、身勝手さである。その意味では、この作品以降の『水に書かれた物語』や『情念』などに続く吉田×岡田フェミニズムの密やかな出発点となっているのかもしれない。愛に身を捧げて老いた女が自由になる道は「死」しかない、そんな時代の不自由が、着物姿の岡田のきつく締めた帯に託されているようだ。

 マイナス点は音楽。
 林光という名だたる作曲家を起用したことが裏目に出てしまった。この音楽はうるさすぎる。自己主張しすぎて、物語の背景たることを忘れている。挿入の仕方もよくない。音楽がないほうがいいのに・・・と思うシーンが多々ある。
 あるいは、重厚悲壮な音楽を仰々しく挿入しないことには、岡田茉莉子という女優の発散する「生」のバイタリティが強すぎて、役柄の上でさえ自死を選ぶことの不自然さを覆い隠せないという深慮からだろうか。


 確かに、岡田は人を殺す役は似合っても、自殺する役は似合わない女優である。




評価: B-



A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

●  茉莉子ふたたび 映画:『情念』(吉田喜重監督)

 1967年松竹。

 『水で書かれた物語』の岡田茉莉子があまりにも美しかったので、同じ頃の作品をまた借りてきた。

 やはり、美しい。

 横顔の美しさが際立っている。筋の通った鼻梁の先の形のいい鼻の穴が日本人離れしている。父親譲りの美貌と言うが、岡田時彦は外国人の血が混じっていたのではないだろうか。チューリップのつぼみのような肉感的な唇も魅力的である。若尾文子とも藤純子とも違う艶やかな花が、ここに咲いている。その魅力をあますところなく引き出す吉田の演出の腕も冴えている。

 目の眩むような明るい日差しの中を、白い日傘を傾けながら着物姿の岡田が遠くから陽炎に包まれて歩いてくるとき、観る者はそれまで見るのを無意識に拒み、なおざりにしていた何かが遂にやって来たのを感じる。世にも美しい使者の姿して。それは待ち望んでいたような、忌避していたような、人の心を落ち着かなくさせる何かである。

 驚くのは、岡田の美しさだけではない。実に達者な演技者である。こんなに難しいテーマの、こんなに難しい役柄を完璧な理解と度胸をもって演じている。信頼するパートナーである吉田喜重監督の指示に従って言われたとおり演技しているだけなのか、それともプロデューサーとしての手腕も確かな岡田自身の知性の高さのあらわれなのか。いずれにせよ、二人の水も漏らさぬ呼吸の合い方は、演出と演技との最高水準の和合と言っていいだろう。

 それにしても、男である吉田監督がなぜこんなふうに女というものを撮れるのか、それが不思議である。女を撮る名匠といえば溝口健二がいるが、吉田監督は溝口でさえ追究できなかった女のたもとに乗り込んでいる。すなわち、女の「性」に。なんでこんなことが可能なのだろう?
 吉田監督は非常に二枚目であるが、若い頃から相当もてたがゆえに女を知り尽くした結果だろうか。
 この作品から連想するのは、D.H.ロレンス『チャタレイ夫人』である。美しく上品な女主人公が、障害を持つ夫との性生活に満足できず、森番メラーズとの性愛に燃える。
 岡田演じる主人公織子もまた、愛のないエリートの夫との夜の営みに満足できず、自分を激しく求めるゆきずりの労務者(高橋悦史)との情交に身をさらす。
 チャタレイ夫人は、ロレンスの分身であったという。織子は吉田監督の分身なのだろうか。吉田と岡田茉莉子と織子は三位一体なのだろうか。

 自らのイメージを大切にしたい銀幕の女優にとって、性欲にもだえる人妻の役などなかなかやれるものではない。恋愛というオブラートがあればこそ、格好がつくのである。それでさえ吉永小百合や原田知世にはできなかった。
 岡田茉莉子は、美しいだけのお人形さんでいるようなタマではなかった。美貌の後ろに隠れたこの人の野望だか表現欲だかアプレな気質だかが、面白いと思う。単に、日本のヌーベルヴァーグの旗手と言われた吉田に追従しただけとは思えない。また、そんな従順なだけの女性を、吉田が生涯のパートナーにしなかったであろうことも確かだ。
 
 吉田と岡田。二人の関係性こそが最大の謎にして魅力かもしれない。



評価: B+


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 

● 岡田茉莉子、礼讃! 映画:『水で書かれた物語』(吉田喜重監督)

 1965年日活映画。

 自分にとって岡田茉莉子と言えば、なんといっても『人間の証明』(佐藤純彌監督、1977年角川)の母親役である。地位と栄誉と世間体と今ある家族を守るために、戦後の混乱期にパンパンをしていた自らの過去を隠し、黒人兵との間にできた色の黒いハーフの息子の突然の名告りに怯え、ついにはその手で息子を殺める。「母」たることを自ら封印し子殺しするという、強烈な業を背負った女の哀しい姿が目に焼きついている。こうやって書いているうちにも、西條八十の詩をもとにした、あの大ヒットした主題歌の出だしが頭の中でリフレインするほどだ。
 その後(1978年)、テレビで古谷一行が主演した金田一耕介シリーズの『女王蜂』で犯人役を演じた岡田茉莉子を見た。自らの「よこしまな」恋のため、恐るべき連続殺人事件の発端をつくってしまった眉目秀麗な家庭教師役を大女優の貫禄をもって好演した。(映画では岸恵子がこの役を演じていた。それにしても、なぜ「よこしま」なのかが、当時も今も理解できない。)
 この2作で自分の中で岡田茉莉子のイメージがつくられた。
 それは、「深い業を背負った犯罪者の役がよく似合う、顔立ちの派手なおばさん」である。

 そう。岡田茉莉子のスターとしての最盛期を自分は知らない。日本の女優にはめずらしく老け顔であるし、太りやすい体質なのだろう。自分が知ったときには美貌というにはちょっと無理があった。彼女を主役とした昔の映画を観る機会もなかったので、若い頃の美しさのほどを知らずにいた。
 今回はじめて、32歳の岡田茉莉子の主演作を見た。

 う、うつくしい!
 い、いろっぽい!

 着物姿の岡田のなんともあでやかで、しとやかで、なまめかしいことよ。
 頭の斜め上から女性を撮るというアングルは、着物を着た日本の女優を美しく撮るために開発された日本独特のものではないだろうか。その角度からだと、髪を結い上げた女の首筋やうなじの美しいラインが映えるのである。若尾文子を撮った増村もその角度を使っていた。
 う~ん。「顔立ちの派手なおばさん」なんて言ってゴメンナサイ。
 あなたは美しい。

 もちろん、撮っているのが夫である吉田喜重であることも大きい。当然、妻をもっとも美しく見せる手段を熟知している。共演の浅丘ルリ子が、若くオシャレで美貌盛りであるにも関わらず、迫力負けしてしまっているのは、女優としてのキャリアの差ばかりではなかろう。監督の愛が女優を美しく見せるのだ。


 さて、この映画は微妙なテーマを扱っている。洋の東西問わず、あまりお目にかからないテーマである。それは、美しい母親を持つ一人息子が、母親が「女」であることを受け入れられず煩悶する、というもの。

 静雄(入川保則)は、デパートの会長の娘である美しい婚約者・ゆみ子(浅丘ルリ子)との結婚を控えながらも心が晴れない。夫亡き後、女手一つで自分を育ててくれた母親からの親離れができないからである。そこに、母親・静香(岡田茉莉子)がゆみ子の父親・伝蔵(山形勲)に長年囲われていたことを知り、ショックに打ちのめされる。ゆみ子と自分は異母兄妹なのかという疑惑が頭をもたげるが、もちろんそうではなかった。彼にとって一番の鬱屈は、自分だけの優しい母親が他の男の「女」になっているという事実を受け入れられないところにある。結局、ゆみ子とは上手くいかず、別居してしまう。自暴自棄になって仕事も辞めて、母親と心中することを考える。母親を自分だけのものにしておきたいがために・・・。

 簡単に言えば、究極のマザコン男なのであるが、それも無理もないと思わせるほどの岡田茉莉子の美貌とたおやさかなのである。

 中学生の息子を持つ知り合いの女性がこんなことを言っていた。
 「うちの子供、自分が体外受精で生まれたと思っているの。何で?って聞いたら、私がAVに出てくる女優みたいにハアハア言いながら、パパとセックスしている姿が想像できない、想像したくないって。私、ぜ~んぜんバリバリなのに・・・。」
 男の子にとって、母親とは「神聖にして侵すべからず」なのである。

 しかし、「母」というカテゴリーにとじこめられ、「家」という世間体を背負ったところで、個人の性は満足しない。女が性的であることに対する非難や反感が強かった時代、結婚相手に処女が求められていた時代、女たちの抑圧された性のプレッシャーはさぞ強かったであろう。
 いや、女性の性が解放された今だって、こと母親に限って言えば、その呪縛は決して弱くはない。父親が外で女をつくったり、女を買ったりするのと、母親が同じことをするのとでは、まったく世間の反応が違う。子供のショックの度合いも違う。おそらく、その後の家庭の成り行きも違ってくる。
 この差は、男と女に社会から付与されているジェンダーの違いだけに還元できようか。
 父親と母親に付与されている役割・イメージの違いに起因しているのか。
 女が性的に盛んであるとき、生まれてくる子が誰のタネか分からなくなる。自分の遺伝子を継ぐ子供かどうかを男は知ることができない。母子を養う責任者を決めるのに困難が生じる。家督相続に問題が生じる。タネをまく性と産む性。生物学的な差異に差別の生じる基盤があるのか。

 しかし、前近代までは庶民の性はもっと大らかだったと聞く。夜這いに見るように、結婚した女も性を結構楽しんでいたのだ。祭りのドサクサでまぐわって、誰の子供か分からずに生まれた子供は村の子供として育てたと聞く。
 すると、やはり近代化に発端はあるのか。 

 明治政府は、都市では遊郭、三業地、銘酒屋その他、カフェー、のみ屋など遊所の発達を保護、監励し、はるかに広大な領域の農村にも芸妓屋、料理屋、性的旅館、簡易な一ぱい屋などの普及によって、その営業税、酒、ビールその他の酒類の巨大な税収を企図したのであり、一夫一婦制だの、青年、処女たちの純潔教育など、ただの表面の飾りにすぎなかった。したがって広く、深く普及していた農村の性民族、とくに夜這い慣行に対して徹底的な弾圧を加えたのは当然であった。(赤松啓介著『夜這いの民俗学』ちくま学芸文庫)

 欧米がもたらした近代的家族制度が、母親から「女」を奪ったのだろうか。
 母親が処女であることが「聖」である、という途轍もない矛盾をあたりまえの前提とし、それを根底に立ち上げられた西洋文化による洗礼こそが諸悪の根源か。(吉田監督はこの作品の制作意図として「父権社会への抵抗」と述べている。)

 
 「母」であり続けることも「女」であることも許されず、また選ぶこともできなかった静香は、結局湖に身を沈めてしまう。ボートに乗って遺体を探す静雄とゆみ子は、湖面に浮かび波に揺られ流れていく静香の日傘を呆然と見つめる。
 それは、息子のために「女」として生きることを自ら封印した母親の形見である。


 かあさん、ぼくのあの帽子、どうしたんでしょうね。



評価: B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

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