ソルティはかた、かく語りき

首都圏に住まうオス猫ブロガー。 還暦まで生きて、もはやバケ猫化している。 本を読み、映画を観て、音楽を聴いて、寺社仏閣に詣で、 旅に出て、山に登って、瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

市川雷蔵

● MOTTAINAI! 映画:『斬る』(三隅研次監督)

1962年大映。
 

 時代劇の巨匠三隅研次監督の美的センスの冴える映像と、雷様こと市川雷蔵の臈たけた魅力を楽しめる作品。

 それだけで十分という気もするが、物語的にはもの足りない。というか、もったいない。

 自死(切腹)で終わる一人の剣客・高倉信吾(=雷蔵)の波乱の生涯を描いた物語なのだが、物語の枷とも動因ともなるのが信吾の出生の秘密である。

 信吾の母親は、自らが仕えていた主君の愛妾を手にかけて打ち首となる。その際の処刑人こそが信吾の父親であった。生まれて間もない信吾は秘密裡に高倉家の養子となり、何も知らないまま成長し、義父を実の父と思い尊敬し、義妹を実の妹と思い可愛がってきたのであった。

 これは物語の枷としては十分すぎる仕掛けである。この秘密を信吾がいつどうやって知るか、知った後に義父や義妹との関係はどう変わるか、この衝撃をどう乗り越えるか、母親の起こした殺人事件の内容をどのように知るか、それをどう受け止めるか、生存している実の父親とどのように再会を果たすか・・・。
 語りどころ満載、見所満載になるはずである。

 しかし、そこがうまく活かされていないのである。

 せっかく観る者を最後まで惹きつける魅力的な仕掛けが用意されていながら、脚本(新藤兼人)が拙いせいで不発に終わってしまっている。

 残念至極。

 同じような出自のトラウマを物語の動因としてうまく活用し展開した『破戒』(市川昆監督)や『源氏物語』(森一生監督)とくらべると、そのもったいなさは明らかである。

 映像が素晴らしいだけにかえって惜しまれる。



 

評価:C+


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
   
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

 


 


● 映画:『ぼんち』(市川昆監督)

1960年大映作品。

 市川昆監督作品は『犬神家の一族』を中学生のときに観て以来、結構観ているのであるが、なんだか評価が難しいのである。
 大監督、世界的名匠の一人であるのは間違いない。『細雪』や『ビルマの竪琴』や一世を風靡した大原麗子のサントリーレッドCMなどのヒットメイカーでもある。
 作品ジャンルは幅広く、語り口もうまく、美しくスタイリッシュな映像はまぎれもなく「市川昆印」と言えるものを確立している。頂点はやはり『細雪』だろうか。
 観れば素直に楽しめるし、観たあとに不快感が残ることがない。適度なカタルシスを約束してくれる監督である。
 実際、有能な監督である。
 が、「映画らしさ」という点から見たときに、小津安二郎や黒澤明や大島渚はむろんのこと、たとえば天願大介や黒沢清や原恵一や周防正行などの市川を先達と仰ぐべき現役監督とくらべても‘映画的’でない気がする。
 一つには、娯楽映画のプロというイメージが強いせいかもしれない。大衆の好みを無視してまで貫くような映画人としての過剰や偏屈や心意気があまり感じられないのである。
 一つには市川昆印のついたスタイリッシュな映像が、スタイリッシュのためのスタイリッシュ、斬新のための斬新、という粋で収斂してしまっているからなのだと思う。その昔のハイカラ好きの日本人みたいなもので、当人の本質とスタイルが深いところでマッチしていないのである。
 市川昆監督には本当に撮りたいもの、撮らざるをえないものが無かったのではないだろうか。だから、あれだけ幅広いジャンルの作品を、常に安定した質の高いレベルで産み出せたのではないだろうか。

 そんなことを思いながら、先ごろ亡くなった山崎豊子原作、市川雷蔵主演の『ぼんち』を観た。
 話の面白さもさることながら、出演俳優の豪華絢爛たること!
 大阪は船場の足袋問屋の旦那・喜久治(=市川雷蔵)を取り巻く女達の競演が最大の見所である。
  喜久治の母親役=山田五十鈴
  喜久治の妾役=若尾文子、京マチ子、越路吹雪、草笛光子
  喜久治の最初の妻役=中村玉緒
 なんとも豪華で艶やか。
 とりわけ、若尾文子と京マチ子の色香は画面をフェロモンで充溢させ、こぼれんばかり。
 色気の観点からは脱落するけれど、喜久治の祖母役である毛利菊枝の演技は実に達者で貫禄がある。助演女優賞間違いなしの揺るぎのない好演。
 美しく、したたかな女たちの競演を目の前にして、はじめて市川昆監督の真髄を悟った。なぜ自分がどこかに引っかかりを感じつつも市川作品に惹かれるかが分かった。

 女の映画なのである。
 一人の男を軸として、その周囲を衛星のように回る様々な色とりどりの女達の奔放さ=業を描き出す。それが市川作品の真骨頂なのである。
 その視点からすれば、金田一耕介シリーズも『細雪』も『鹿鳴館』(浅丘ルリ子主演、1986年)も同一線上に来る。
 だから、市川昆の文学的なルーツをたどるなら『源氏物語』であろう。
 映画では撮らなかったが、テレビドラマでは『源氏物語』を撮っているらしい。(1965-66年、毎日放送、全26回)
 DVD発売されないものかな。


評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」    

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
    
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

● 喜び:苦しみ=1:99 映画:『新源氏物語』(森一生監督)

 1961年大映。
 昭和キネマ横丁の一作。

 光源氏が須磨に流されるまでを描いたものである。
 華やかな都を離れての須磨・明石の蟄居生活は、光源氏の人生最大の挫折であり苦難の時であった。もっとも、こともあろうに天皇に嫁ぐべき姫を寝取ってしまい、しかもその姫は源氏の政敵の大臣の娘だったのが都落ちの直接の原因なのだから、助平源氏の自業自得なのである。
 政権が変わり、明石から戻った源氏は藤原道長もかくやと言うほどのこの世の春を迎えることになる。望月のときである。
 この映画は、光源氏の青春時代の女性遍歴を描いたものであり、テーマは「恋の苦しみ」と言えよう。

 美貌の人、諸芸の天才、男も女も虜にする魔力オーラーの持ち主。
 光源氏が、次から次へと狙った女性をものにし浮名を流していくさまは、まさに平安のプレイボーイ。彼はただ腕を広げて待っているだけでよかった。女性のほうからどんどん彼の香しい袂の中に飛び込んでくるのである。
 同じ男として「うらやましい、今畜生、エロ事師め」とやっかむところであろうが、この映画を見るとちょっと考えを改める。
 青年時代の光源氏の恋愛は必ずしも幸せなものではないのである。
 彼が一番愛した女性は、父帝の后(藤壺)であった。禁断の関係である。はじめから結ばれることは叶わない。断ち切れぬ思いに苦しみ続け、堪え切れずに夜這いして強引に契りを結んでしまう。欲望の叶えられた喜びもつかの間、あとは罪悪感といや増した恋しさとで二人は煉獄の火に焼かれることになる。
 彼の正妻である左大臣の娘(葵上)は、美しく上品で非の付けどころがない。しかし、プライド高くいつも取り澄ましていて源氏の必要とする安らぎを与えてくれない。
 源氏の派手な女遊びは、本当に欲するものが得られない苦しみがもたらした自堕落であり代償行為であることを、この映画は教えてくれる。(もちろん、若者の好奇心や征服欲や抑えきれない性欲もあろうが。)
 そして、彼が本当に欲していたものは、藤壺と瓜二つの桐壺、源氏を生んですぐ亡くなった実の母親だったのである。
 幼少の頃得られなかった母の愛を必死に取り戻そうとするマゾコン青年――それが光源氏だった。
 というのがこの映画の解釈である。

 であるから、さわやかで気品ある美貌の持ち主でありながらどこか憂愁の翳りを宿す雷蔵のプロフィールは、この源氏像にピッタリである。雷蔵も幼くして実母と別れていることが、この重なりをより濃いものにする。
 雷蔵源氏は決して心からの笑顔を見せない。
 恋はいつだって喜びより苦しみに軍配が上がる。
 
 源氏の憧れの人である桐壺=藤壺を演じるのは、高島忠夫の妻にして高嶋政宏、政伸の母である寿美花代。映画出演はとても少ないので貴重な映像といえるが、実に美しく麗しい。マゾコン源氏が求めるものを全身で体現する演技も見事である。
 
 葵上に若尾文子、朧月夜に中村玉緒、末摘花に水谷良重(現八重子)と役者をそろえているのも見物である。


 
評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」 

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!




● 雷さま、礼讃 !! 映画:『薄桜記』(森一生監督)

 1959年大映。

 60年代の時代劇映画黄金期の大映の二大看板、市川雷蔵と勝新太郎の共演、競演、狂演、凶演、響演、驚演--である。ほんと、ゴージャスな時代もあったもんだ。
 と言っても、撮影当時、雷蔵はすでに人気・実力兼ね備えた押しも押されぬトップスター。一方、勝新はまだ代名詞と言える「座頭市」に出会っておらず、鳴かず飛ばずの巣籠り状態にあった。間違いなく主役は市川雷蔵である。
 でありながら、当時のそんな様子を知らない人がこの作品を見ても、勝新が雷蔵と堂々と渡り合っていて、演技も存在感も魅力も只者ならぬものがあることを認めるだろう。二人が、その後「カツライス」と並び称される最強ライバルになる、その予兆をはらんだ作品と言えよう。
 勝新と雷蔵の関係は、「陽と陰、太陽と月、動と静、明と暗、火と水」みたいなものであろうか。勝新が浅田真央、雷蔵がキム・ヨナか。演技のタイプもそうかもしれない。勝新と真央は何を演じても勝新、何を演じても真央が前面に出てくる。個性の魅力が強すぎる。雷蔵とキム・ヨナは演じる役によって雰囲気や表情を多彩に変えることができる。大衆受けするのは勝新と真央、専門受けするのはキム・ヨナと雷蔵かもしれない。
 
 それにしても雷蔵はかっこいい。
 当たり役となった眠狂四郎で到達した「虚無感、ダンディズム、ニヒリズム」の演技は、雷蔵の地の部分(複雑な生い立ち)に由来するようだが、こうした翳りのあるイケメン役者を他に挙げるとしたら『羅生門』『雨月物語』の森雅之、最近では西島秀俊あたりか。清潔感では雷蔵が際立っている。やはり、元歌舞伎役者として立ち居振舞いの美しさと品格のせいであろうか。
 しばらく雷蔵を追うことになりそうだ。

 森一生の映画を観るのはもしかしたらこれが始めてかもしれないが、最後の雪の中の片手片足の立ち回りシーンは、映画史に残る凄さである。必見。



評価:B+


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」        

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
      
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

 
 
 

● 映画:『歌行燈』(衣笠貞之助監督)

 1960年大映。

 衣笠監督といえば1954年にカンヌグランプリを受賞している『地獄門』(京マチ子、長谷川一夫主演)が名高い。が、それ以外の作品についてはほとんど知られていない。上映される機会も少ない。レンタルビデオ店にも置かれていない。
 『地獄門』以外は観たことがなかった。
 『地獄門』は見事な色彩表現と京マチ子の美貌に感嘆はしたけれど、黒澤や小津や溝口といった大監督の傑作群にくらべれば印象に残るものではない。監督としての知名度も評価も上記3人はもちろんのこと、同じ国際的な賞をもらっている市川昆や大島渚や今村昌平などに比べても低い。少なくとも国内では。
 これは個人的な見解ではない。
日本映画150 文藝春秋『大アンケートによる日本映画ベスト150』(1989年発行)を見ても、衣笠貞之助の名前は監督ベスト20にも入っていない(49位)。その作品でベスト150に挙がっているのは『地獄門』ではなく『狂った一頁』(1926年)のみで、それも113位である。
 1920年から66年まで実に60本以上の作品を世に送り出し、長谷川一夫や山本富士子といった大スターの育ての親であることを考えると、この評価の低さは不可解というか不当である。まさか若い頃女形役者であったことで低く見られているとも思えんが・・・。

 最近昭和キネマ横丁からリリースされた『歌行燈』は、『地獄門』を軽く超える衣笠監督の最高傑作であるばかりでなく、おそらく日本映画史上20指に入る大傑作である。これほどの名画がこれまで埋もれていたとはなんとも由々しきばかり。

 全編を覆う、目眩き美・美・美の氾濫!
 どのシーンで画面を一時停止させても「絵」になるショットの美しさ。アップでもバストショットでもロングショットでもなく、あたかも縁先の庭の木陰から屋内を覗くような中間距離の撮影方法(まさにその通りのシーンが最後に出てくる)が、色彩と陰影と構図によって瞬間瞬間の美を生む出すことを可能にし、観る者は映画的陶酔に引きずり込まれる。その距離は「節度ある近しさ」とも「覗きの快楽」とも言い得るような、まさに映画でなければできない物語の視点を醸成している。

 主演の市川雷蔵の美しさは、造形的なものとは別にその「暗さ」にある。部落差別を描いた『破戒』(1962年)や、三島由紀夫『金閣寺』を原作とした同じ市川昆監督の『炎上』(1958年)の主役を好演したことが表すように、雷蔵の美は「暗さの美、哀しみの美、疎外される者の美」であり、ブラッド・ピットよりアラン・ドロン、カトリーヌ・ドヌーブよりグレタ・ガルボ、浅田真央よりキム・ヨナに近い。元来、日本人はこのような翳りのある美が好きなのではないかと思う。
 一方の主役である山本富士子の美は、その名(本名だと言うから驚く)の示す通り、日本的な美の極致である。何といっても「第一回ミス日本」なのだ。
 ただし、女優の美しさというのは造形的なものだけでは不足する。それは同じミス日本グランプリである藤原紀香が、女優としては輝けないのを見ればよく分かる。女優として一級になるには、造形美プラス「何か」が必要なのである。単純に演技力ではない。
 この映画の中の山本富士子は、最初のうちその「何か」が不足しているように思える。地方の謡曲師の娘お袖としてなるほど鄙には稀な美人である。だが、雷蔵の相手役を張れるほどのタマではない。父の自殺を機に家が潰れ、芸者に身を落としたあとも、まだまだ主役になりきれていない。
 ところが、喜多八(雷蔵)と再会し恋を知ったその日をさかいに、お袖は一気に艶を増す。山本富士子は、堂々の主演女優に化ける。その変化があっけに取られるほど素晴らしい。つまり、山本富士子は「おぼこ娘」を演じていたのである。
 この変化(へんげ)は、自身女形だった衣笠の演出の腕が冴えていることももちろんだが、それに応えてオーラーを自在に開花させることのできる山本富士子はやはり単なる美人女優ではない。

 原作は泉鏡花の同名小説。
 だから、ハッピーエンドに終わるのにケチはつけられないものの、もし悲劇的結末が用意されていたら、「A+」をつけてしまったかも。




評価:A-



A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」    

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
        
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

● 日本映画最良の布陣 映画:『破戒』(市川昆監督)

 1962年、大映制作。

 キャスト・スタッフの顔ぶれがすごい。
 主演の市川雷蔵は、生真面目な暗い眼差しが被差別部落出身の負い目を持つ瀬川丑松に過不足なくはまっている。正義感あふれる友人の土屋銀之助役に若き長門裕之。なるほどサザンの桑田そっくりだ。解放運動家・猪子蓮太郎役に三國連太郎。白黒の画面に映える洋風な凛々しい風貌が印象的。後年、三國は自らの出自(養父が非人であった)をカミングアウトしたが、抑制されたうちにも思いの籠もった品格ある演技である。中村鴈治郎、岸田今日子、杉村春子、『砂の器』ではハンセン病患者を名演した加藤嘉、落ちぶれた士族になりきった船越英二、この映画が女優デビューとなった初々しい藤村志保(原作者の島崎「藤村」+役名「志保」が芸名の由来だそうだ)。錚々たる役者たちの素晴らしい演技合戦が堪能できる。
 脚本(和田夏十)も素晴らしい。音楽はやはり『砂の器』の芥川也寸志。
 そして、そして、なんと言ってもこの映画を傑作に仕立て上げた最大の立役者は、撮影
の宮川一夫である。

 市川昆の映画というより、宮川一夫の映画と言ってもいいんじゃないかと思うほど、カメラが圧倒的に素晴らしい。この撮影手腕を見るだけでも、この映画は観る価値がある。
 下手に映像が良すぎると物語や演技を食ってしまい、全体としてバランスを欠いた残念なものになってしまうケースがおいおいにしてある。が、この作品の場合、もともとのストーリが強烈である上に、役者達の演技も素晴らしいので、見事に映像と物語が釣り合っている。丑松が生徒たちに自らの出自を告白するシーンなど、白黒のくっきり際立つ教室空間で丑松の背後に見える窓の格子が、まるで十字架のようにせりあがって見え、象徴的表現の深みにまで達しているかのようだ。
 市川昆監督が狙った以上のものを、宮川カメラマンが到達して表現してしまったのではないかという気さえする。


 「丑松思想」の悪名高き原作の結末を、いったいどう処理するのだろうと懸念していたら、やはり大きく変えていた。
 原作では、丑松は自分の教え子の前で出自を隠していたことを土下座し、アメリカに発つ。いわば日本から避げるのである。悪いことをしたわけでもないのに習俗ゆえに厳しい差別を受けてきた人間が、なぜ謝らなければならないのか。なぜ逃げなくてはならないのか。藤村の書いた結末は、当時としては現実的なものだったのかもしれないが、当事者にとってみれば希望の持てるものではない。

 時代は変わった。生徒の前で土下座するシーンこそ残されているが、友人である土屋が自らの偏見を反省し丑松への変わらぬ友情を表明するシーン、東京へ去っていく丑松を生徒たちが変わらぬ敬慕の眼差しで見送るシーン、丑松が猪子蓮太郎の遺志を継ぎ部落開放運動に飛び込む決心をするシーンなど、新たに作られた場面は感動的であると同時に、希望を感じさせる。

 差別する人々、無理解な人々がいかに沢山いようとも、理解し励まし一緒に声を上げてくれる一握りの仲間がいれば、人はどん底からでも這い上がり、前に向かって歩くことができる。
 そのメッセージが心を打つ。 
 



評価: A-

参考: 

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 

「東京物語」 「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。

「風と共に去りぬ」 「未来世紀ブラジル」 「シャイニング」 「未知との遭遇」 「父、帰る」 「フィールド・オブ・ドリームス」 「ベニスに死す」 「ザ・セル」 「スティング」 「フライング・ハイ」 「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」 「フィアレス」 ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。

「アザーズ」 「ポルターガイスト」 「コンタクト」 「ギャラクシークエスト」 「白いカラス」 「アメリカン・ビューティー」 「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。

「グラディエーター」 「ハムナプトラ」 「マトリックス」 「アウトブレイク」 「タイタニック」 「アイデンティティ」 「CUBU」 「ボーイズ・ドント・クライ」 チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)

「アルマゲドン」 「ニューシネマパラダイス」 「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ~。不満が残る。

「お葬式」 「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった

「レオン」 「パッション」 「マディソン郡の橋」 「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


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