2005年発行。
原始仏教を研究する著者が、仏教における福祉及びターミナルケアの概念とはどのようなものかを、ブッダ最後の旅の様子を誌した『大パリニッバーナ経』を手がかりに概観している本である。
と書くと、難解な専門的、学術的な内容を想像してしまうかもしれないが、著者のどこかでの講演録に手を加えたものなので、平明でわかりやすく、さらさらと読める。
逆に言うと、上記のテーマを十分に展開し論じるには、ちょっと(かなり?)紙幅が足りない感がある。(小林元の装幀が素晴らしい。)
・・・・・と思ったのだが、わざわざテーマ立てて論じるまでもなく、仏教は人の幸せのためにあるのであるから、誰が何と言おうと「福祉」である。
また、原始仏教の究極の目的は、解脱すなわち「今生きている生を最後の生とせよ。そうなるような生き方をせよ。」というところにあるわけだから、仏教そのものがずばりターミナルケアなのであった。
過去から数え切れないほど繰り返されてきた輪廻の最終局面、それが仏教を学ぶ者にとっての「今生」であり「今」なのである。
もろもろの事象は過ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成なさい。
ターミナルにあったブッダの遺言は、はじめも真ん中も終わりもなく、仏教が常に『今この瞬間に死ぬ』ことを目するものであることを告げている。
そのことを端的に表している経典が『日々是好日経』であろう。
過去を追いゆくことなく
また未来を願いゆくことなし
過去はすでに過ぎ去りしもの
未来は未だ来ぬものゆえに
現に存在している現象を
その場その場で観察し
揺らぐことなく動じることなく
智者はそを修するがよい
今日こそ努め励むべきなり
誰が明日の死を知ろう
されば死の大軍に
我ら煩うことなし
昼夜怠ることなく かように住み、励む
こはまさに「日々是好日」と
寂静者なる牟尼は説く
仏教にあっては、毎日毎日、瞬間瞬間がターミナルなのである。