ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

森一生

● 喜び:苦しみ=1:99 映画:『新源氏物語』(森一生監督)

 1961年大映。
 昭和キネマ横丁の一作。

 光源氏が須磨に流されるまでを描いたものである。
 華やかな都を離れての須磨・明石の蟄居生活は、光源氏の人生最大の挫折であり苦難の時であった。もっとも、こともあろうに天皇に嫁ぐべき姫を寝取ってしまい、しかもその姫は源氏の政敵の大臣の娘だったのが都落ちの直接の原因なのだから、助平源氏の自業自得なのである。
 政権が変わり、明石から戻った源氏は藤原道長もかくやと言うほどのこの世の春を迎えることになる。望月のときである。
 この映画は、光源氏の青春時代の女性遍歴を描いたものであり、テーマは「恋の苦しみ」と言えよう。

 美貌の人、諸芸の天才、男も女も虜にする魔力オーラーの持ち主。
 光源氏が、次から次へと狙った女性をものにし浮名を流していくさまは、まさに平安のプレイボーイ。彼はただ腕を広げて待っているだけでよかった。女性のほうからどんどん彼の香しい袂の中に飛び込んでくるのである。
 同じ男として「うらやましい、今畜生、エロ事師め」とやっかむところであろうが、この映画を見るとちょっと考えを改める。
 青年時代の光源氏の恋愛は必ずしも幸せなものではないのである。
 彼が一番愛した女性は、父帝の后(藤壺)であった。禁断の関係である。はじめから結ばれることは叶わない。断ち切れぬ思いに苦しみ続け、堪え切れずに夜這いして強引に契りを結んでしまう。欲望の叶えられた喜びもつかの間、あとは罪悪感といや増した恋しさとで二人は煉獄の火に焼かれることになる。
 彼の正妻である左大臣の娘(葵上)は、美しく上品で非の付けどころがない。しかし、プライド高くいつも取り澄ましていて源氏の必要とする安らぎを与えてくれない。
 源氏の派手な女遊びは、本当に欲するものが得られない苦しみがもたらした自堕落であり代償行為であることを、この映画は教えてくれる。(もちろん、若者の好奇心や征服欲や抑えきれない性欲もあろうが。)
 そして、彼が本当に欲していたものは、藤壺と瓜二つの桐壺、源氏を生んですぐ亡くなった実の母親だったのである。
 幼少の頃得られなかった母の愛を必死に取り戻そうとするマゾコン青年――それが光源氏だった。
 というのがこの映画の解釈である。

 であるから、さわやかで気品ある美貌の持ち主でありながらどこか憂愁の翳りを宿す雷蔵のプロフィールは、この源氏像にピッタリである。雷蔵も幼くして実母と別れていることが、この重なりをより濃いものにする。
 雷蔵源氏は決して心からの笑顔を見せない。
 恋はいつだって喜びより苦しみに軍配が上がる。
 
 源氏の憧れの人である桐壺=藤壺を演じるのは、高島忠夫の妻にして高嶋政宏、政伸の母である寿美花代。映画出演はとても少ないので貴重な映像といえるが、実に美しく麗しい。マゾコン源氏が求めるものを全身で体現する演技も見事である。
 
 葵上に若尾文子、朧月夜に中村玉緒、末摘花に水谷良重(現八重子)と役者をそろえているのも見物である。


 
評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」 

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!




● 雷さま、礼讃 !! 映画:『薄桜記』(森一生監督)

 1959年大映。

 60年代の時代劇映画黄金期の大映の二大看板、市川雷蔵と勝新太郎の共演、競演、狂演、凶演、響演、驚演--である。ほんと、ゴージャスな時代もあったもんだ。
 と言っても、撮影当時、雷蔵はすでに人気・実力兼ね備えた押しも押されぬトップスター。一方、勝新はまだ代名詞と言える「座頭市」に出会っておらず、鳴かず飛ばずの巣籠り状態にあった。間違いなく主役は市川雷蔵である。
 でありながら、当時のそんな様子を知らない人がこの作品を見ても、勝新が雷蔵と堂々と渡り合っていて、演技も存在感も魅力も只者ならぬものがあることを認めるだろう。二人が、その後「カツライス」と並び称される最強ライバルになる、その予兆をはらんだ作品と言えよう。
 勝新と雷蔵の関係は、「陽と陰、太陽と月、動と静、明と暗、火と水」みたいなものであろうか。勝新が浅田真央、雷蔵がキム・ヨナか。演技のタイプもそうかもしれない。勝新と真央は何を演じても勝新、何を演じても真央が前面に出てくる。個性の魅力が強すぎる。雷蔵とキム・ヨナは演じる役によって雰囲気や表情を多彩に変えることができる。大衆受けするのは勝新と真央、専門受けするのはキム・ヨナと雷蔵かもしれない。
 
 それにしても雷蔵はかっこいい。
 当たり役となった眠狂四郎で到達した「虚無感、ダンディズム、ニヒリズム」の演技は、雷蔵の地の部分(複雑な生い立ち)に由来するようだが、こうした翳りのあるイケメン役者を他に挙げるとしたら『羅生門』『雨月物語』の森雅之、最近では西島秀俊あたりか。清潔感では雷蔵が際立っている。やはり、元歌舞伎役者として立ち居振舞いの美しさと品格のせいであろうか。
 しばらく雷蔵を追うことになりそうだ。

 森一生の映画を観るのはもしかしたらこれが始めてかもしれないが、最後の雪の中の片手片足の立ち回りシーンは、映画史に残る凄さである。必見。



評価:B+


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」        

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
      
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

 
 
 

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