ソルティはかた、かく語りき

首都圏に住まうオス猫ブロガー。 還暦まで生きて、もはやバケ猫化している。 本を読み、映画を観て、音楽を聴いて、神社仏閣に詣で、 旅に出て、山に登って、瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

森雅之

● 三國連太郎は立派な男です 映画:『善魔』(木下惠介監督)

1951年松竹。

 昭和の名優三國連太郎のデビュー作。このときの役名がそのまま芸名になった。
 共演は、やはり名優にして暗き瞳のダンディな森雅之と、名優にしてコケティッシュな瞳が蠱惑的な淡島千景。そして、永遠の朴訥にして泰然自若たる笠智衆。
 この存在感抜群な4人の演技合戦が最大の見物である。物語自体は出来は良くないし、一瞬社会派ドラマあるいはドストエフスキーばりの形至上学を匂わせる「善魔」というテーマの描き方も不発で、木下恵介の得意とするのは喜劇や風刺劇や人情劇であっても社会派ドラマや不条理劇ではない、ということを改めて認識する。ちなみに、善魔とは「人は善を貫くために時に魔の心を必要とする」といった意味合いの造語である。
 
 4人の演技合戦と書いたが、勝負ははじめから明白である。森雅之と淡島千景が圧倒的にいい。演技は巧いし、滴るようなデカダンの魅力に終始惹きつけられる。
 新人の三國連太郎が演技下手なのは仕方ないが、驚くのは我らが笠智衆も匹敵するくらい下手なんである。まったく、この作品が小津安二郎『晩春』(1949年)のあとに撮られているとは信じられない。『晩春』における笠の名演がウソのよう。小津マジックによって‘名優’と勘違いされたのは、実は原節子以上に笠智衆なのだと思う。
 もちろんソルティは原節子も笠智衆も大好き。三國連太郎も。
 スターの一番の魅力とは、演技力でなくて、醸し出す雰囲気(=個性)にある。
 新人の三國連太郎がまれに見るスター性を有しているのを確認できること。それがこの作品を観る価値あるものにしている最大の理由である。



評価:B-
 
A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 
 
 

● 原節子の美の秘密 映画:『安城家の舞踏会』(吉村公三郎監督)

 1947年松竹。

 明治初期から日本国憲法制定までの約80年間続いた華族制度の終焉を描いた作品。
 楽しみどころはいろいろある。
 たとえば、同様のテーマを扱ったチェーホフの『桜の園』やヴィスコンティの『山猫』(1963年)と比較する愉しみ。西欧を真似た豪奢な屋敷や調度やファッションや上流ならではの流儀などを眩しく見る、あるいは猿真似と気恥ずかしく思う愉しみ。時代の波に翻弄され落ちぶれゆく者の悲哀を見る愉しみ。身分違いを乗り越えて結ばれる恋模様を見る愉しみ。絵に描いたような森雅之のデカダンスぶりに酔う愉しみ。
 だが、一番の愉しみはまぎれもない。令嬢敦子を演じるうら若き(当時27歳)原節子を見る愉しみ、歓びである。
 
原節子 ほんとうに、原節子だけは特別である。
 美しい女優、演技の達者な女優、品のある女優、スタイルのいい女優、笑顔の素敵な女優、セクシーな女優、頭のいい女優、本邦には素晴らしい女優がたくさんいた。が、原節子のような女優はあとにもさきにも存在しない。
 彼女を評した「永遠の処女」という言い方は、今となってみれば、えげつなくて、無礼で、はしたない。しかも差別的である。「永遠の処女・浅田真央」なんてフレーズが、フィギアスケートの試合中継で電波に乗ろうものなら、その解説者は袋叩きをまぬがれまい。時代は変わった。
 しかし、この映画の原節子を見ていると、なんのいやらしさも嘲笑もためらいもなく、「永遠の処女」という言葉が浮かんでくる。
 原節子の美しさは、たとえば顔の造詣とか、意外になまめかしい声の魅力とか、言葉遣いや所作の気品とか、喜怒哀楽一つ一つの表情のアルカイックな深みとか、圧倒的な清潔感、といったところに存するわけであるが、それ以上でもある。その秘密を一言で言うならば「両性的」。
 
 原節子の演じる「女」は、普通の女が持つ「女性性」、他の女優が体現する「女らしさ」、――いわゆる「おんな」を、どういうわけか感じさせない。希薄である。と言って「男っぽい」わけでもない。性別やジェンダーを超えたところにあって、輝いている。だから、彼女を評する「処女」という言葉は「性体験のない女」を意味するのではなく、「性を超越した存在」という意味合いなのである。
 彼女と比較すべき人物を探すなら、やっぱりグレタ・ガルボ。あるいは、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画に描かれた美女や美少年。
 この映画でも、ストーリーとはあまり関係ないところで、彼女がボーっと外の風景を眺めてたたずんでいるシーンがある。観る者は、ダ・ヴィンチの絵を彷彿とさせる一瞬の神秘的な美にドキッとさせられる。
 その不思議な色気にゲイであるはずの自分も惑溺するのである。

 
評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」      

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」 

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

 
 
 

● 田中絹代、絶賛!! 映画:『武蔵野夫人』(溝口健二監督)

1951年東宝。

 大岡昇平原作のメロドラマである。
 あらすじを簡単に言うなら、
「壊れた夫婦関係の中で、夫・忠雄は近所の派手な人妻と浮気して駆け落ち。残された妻・道子は、同居する年下の親類のイケメン・勉から熱い思いを寄せられる。貞淑を貫くべきか、真実の愛に生くるべきか。迷う道子の取った行動は、思い切った、驚くべきものであった・・・。」
 昼メロレベルのどうってことない陳腐なストーリーである。
 が、迷う人妻が田中絹代で、駆け落ちする夫が森雅之で、監督が溝口健二で、舞台が武蔵野の森と来れば、見事、文芸調に昇華される。

 とにかく田中絹代の演技が巧い。
 美人でないのに主役を張り続けられたのは、この演技力の賜物。
 駆け落ちした忠雄に家の権利書を持ち逃げされた道子は、両親から受け継いだ家屋敷を守るためには、自分が死ぬ以外にないことを知る。一方、勉の若々しい情熱に戸惑い、貞淑であり続けることに揺らぎを感じてもいる。
 思い悩む道子(=田中絹代)は、両親の墓の前で途方にくれる。
 この短いシーンの田中の演技が途轍もない。
 道子が、逡巡の末に自殺を決意するに至る過程を、刻一刻の表情と所作の変化を通して、観る者に伝えることに成功している。
 あまりの素晴らしさに、DVDプレイヤーを一時停止し、繰り返し見てしまった。

 武蔵野の自然も素晴らしい。
 舞台となるのは、国分寺の「はけ」と呼ばれる、崖線の下を野川が流れる地域である。散策する二人の会話から、どうやら今の中央線の武蔵小金井駅付近から国分寺、恋ヶ窪、東村山あたりの場景らしい。
 今ではすっかり住宅地になってしまったが、50年代初頭にはこんなに豊かで麗しい森と水圏が残っていたのだ。なんともったいない・・・。
 道子と勉が野川の水源を求めて散策するシーンがある。二人がたどり着いたのは、恋ヶ窪にある小さな美しい池であった。
 それは今、国分寺駅の近くの日立中央研究所の敷地内にあって、毎年、桜と紅葉の時期の2回、研究所の門が一般に開放されている。

 喪われた貞淑という徳を偲びながら、今度の休みは「はけの道」をたどってみようかな。



評価:B+


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」  

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」 

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


 

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