ソルティはかた、かく語りき

首都圏に住まうオス猫ブロガー。 還暦まで生きて、もはやバケ猫化している。 本を読み、映画を観て、音楽を聴いて、神社仏閣に詣で、 旅に出て、山に登って、瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

橋本忍

● 武士道を‘斬る’! 映画:『切腹』(小林正樹監督)

1962年松竹。

 小林正樹作品は『怪談』(1965年)に次ぎ、二作目の鑑賞となる。
 やっぱり日本が世界に誇る名監督である。小津、黒澤、溝口、木下に並んで、もっと評価・称賛されても良いと思う。名前が平凡なのが割を食っている一因だろうか。
 
 この作品も一級のサスペンスドラマに仕上がっている。黒澤の『天国と地獄』に勝るとも劣らない。
 二人の男の会話の応酬を中心としながら、ラストの謎の解明と破壊的悲劇に向けて、次第に募りゆく圧倒的緊迫感。三國連太郎と仲代達矢の重厚にして凄みある演技。丹波哲郎の独特の風格。この役者は演技そのものは決して巧くないのだが、演出家が使いたくなるような‘何かもっている’人だ。霊的な‘何か’?
 何より称賛すべきは、脚本の巧みさ。謎の解明と同時に‘生きて’くる伏線をそれとなく張り巡らしながら、緊迫感を醸成するセリフや構成でドラマを形作っていく。さすが空前絶後の天才脚本家・橋本忍。橋本と小林が組んだ時点で、この作品の成功は決まったというべきだろう。 

 『怪談』で魅せた様式美はここでも健在である。
 武家屋敷の簡素で清潔な建築美。侍達の無駄のない振る舞いの美しさ。殺陣の美しさ。それらを十全に生かす演出と照明とカメラワーク。ウィキによると、小林監督は大学時代東洋美術を専攻していたらしい。美的センスは生来のものなのだろう。
 
 平和な江戸の世、仕官先を失い生活に窮した武士が、大名屋敷を訪れて「切腹したいから庭先を貸してくれ」と迫る。困った屋敷方は、彼に金子を与えて引き取り願う。これが世に広まって、引取り料目当ての狂言切腹が横行する。
 こうした世相の中、一人の武士津雲半四郎(仲代達矢)が名門井伊家を訪れて、庭先での切腹許可を申し出る。井伊家の家老斎藤勘解由(三國連太郎)は「その手には乗らず」と、本人の要望のままに切腹を許可する。
 だが、半四郎はただの金子目当ての狂言切腹ではなかった。
 いったい彼の目的は何か。
 
 謎が明かされるにしたがい、観る者は武家社会(封建制)の残酷さや本質的矛盾――武家社会が安定したら武士の存在(出番)は必要で無くなる――を察することになる。武士道の非情や‘張子の虎’のようなくだらないプライドばかりの上っ面加減を知ることになる。
 そしてまた、組織や制度というものが持つ人間性への抑圧を痛感することになる。
 社会のすべての矛盾の一番の犠牲となって苦しむのは常に弱者である。
 この映画では、出演者中ただ一人の女優であるうら若き岩下志麻(半四郎の娘の美保役)が、結核に侵され、乳飲み子と共にあばら家で死んでいく。美保の夫もまた井伊家の犠牲となった一人であった。
 単なる時代劇ではない。現代にも十分通用する社会派ドラマである。

 2011年に三池崇史監督が3Dで再映画化している。
 が、これほど最高のスタッフ陣を揃えた、これほど完成度の高い傑作を前に、はたしてその必要があったのだろうか。疑問である。


評価:A-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 

● 橋本忍礼讃! 映画:『霧の旗』(山田洋次監督)

 1965年松竹。

 松本清張のこの小説は、映画で2回、テレビドラマで数回、映像化されている。
 ミステリーとしては特段、推理部分で優れているわけでも、トリックがユニークなわけでもない。なんと言ったって、真犯人が捕まらないまま、真相が明らかにされないまま、ドラマは終わってしまうのだから、推理ドラマとしては不完全と言っていい。
 この作品の人気はひとえに主人公柳田桐子の特異なキャラクターにある。


 殺人容疑で捕まった兄・正夫を救うために、有名弁護士大塚欽三(=滝沢修)のもとを訪れた桐子(=倍賞千恵子)は、大塚が要求する弁護費用を支払えないため、大塚への依頼を断念せざるを得なくなる。正夫は死刑判決を受け、獄中で病死する。
 そこから桐子の大塚への復讐が始まる。


 という話なのだが、どう考えてみても、これは逆恨みである。
 桐子が本当に恨むべきは、無実の兄に自白強要した警察であり、何よりも真犯人であろう。大塚を恨むのは筋違いである。しかも、桐子の罠にはめられ窮地に陥った大塚は、真犯人を見つけ出して正夫の無実を証明することを桐子に約束さえするのだが、桐子はそれを拒否し、大塚の人生を破滅へと導くのである。
 貧乏なゆえに質の高い弁護が受けられず、愛する兄を殺されてしまった妹の心情に、最初のうち共感していた観る者も、しまいには桐子の性格異常にあきれることだろう。

 この鋼の強さと哀しみと屈折した心を秘めた若い女性を、その後「さくら」と言う日本の男たちにとっての理想の妹像を造り上げた倍賞千恵子が、実に存在感たっぷりに魅力的に演じている。昔のフランス映画に出てくる悪女を思わせる氷のような美しさと冷たさ。
 この倍賞と、途中でちょこっと出てくる三崎千恵子がいなければ、この映画を山田洋次の作品とは誰も思わないだろう。
 そのくらい『寅さん』をはじめとする他の山田作品とは毛色が違うし、雰囲気も違うし、出来も違う。
 その秘密は、脚本にある。
 あの『羅生門』『生きる』『七人の侍』『日本沈没』『砂の器』『八甲田山』『私は貝になりたい』ほかあまたの傑作映画を生み出した天才、橋本忍なのである。
 別記事『おとうと』で書いたように、山田監督の作品の多くは監督自身の脚本によるが、それが山田監督の映画作家としての質の低下を招いている。演出家としての腕は確かだし、ショットも素晴らしいのである。この『霧の旗』で証明されるように、光と影の交差でモノクロを生かす技術も見事なものである。正夫が老婆の死体を発見するシーンでの、家の外を通過する列車の影と音の入れ方など、思わず「う、うまい!」と呟かざるを得ない。
 脚本がいつも悪いのだ。
 こうして脚本を他人に、それも一流の脚本家に任せ、撮影と演出だけに能力を傾注させてみると、山田洋次が本当はすぐれた映画作家であることが判明する。

 専門家受けする映画作家であることよりも、大衆のためのエンターテイナーたることを、どこかで山田監督は自分に課したのかもしれない。

 


評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

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