
このシリーズもこれが最終巻。
永久保貴一の作品としては『カルラ舞う』に並ぶ代表作と言ってもいいのではなかろうか。それくらい面白かった。
『カルラ舞う』と一番違うのは、これがノン・フィクションであること。実在する密教僧・秋月慈童が、身の回りで起こる様々な不思議な現象や恐ろしい霊的事件を、生まれついての霊能力+厳しい修行で身につけた法力で快刀乱麻のごと解決していく。ここに描かれていることがすべて本当なら(わざわざ嘘つく必要もないと思うが)、世の中の見方を180度修正しなければなるまい。
今回も摩訶不思議な6つのエピソードが語られている。
一例をあげると、
- 永久保貴一の担当編集者であるA子さんは、パワースポットとして知られる××湖畔神社に行くが、昔その湖で亡くなった二人の女性の霊に憑りつかれる。A子さんは体調をくずす。
- 秋月慈童の夢枕に、A子さんが足しげく参詣している地元神社の祭神(氏神)が立つ。祭神は秋月に氏子であるA子さんを悪霊から救ってくれるよう頼み、A子さんの名前と顔を伝える。(A子さんと秋月は永久保が主宰する忘年会で過去に一度会っただけ。二人に日常的な交流はない)
- 秋月は永久保に連絡を取り、A子さんと会う算段をはかる。この時点では理由は告げていない。
- 永久保の家で秋月とA子さんは面会し、秋月は「A子さんが地元神社によく参詣すること。最近××湖畔神社に行ったこと。その後体調がおかしくなったこと」を言い当てる。驚くA子さんと永久保に詳しい説明を与えることなく、秋月はその場で除霊する。A子さんはとたんに復調する。
- 秋月はその足で寺に戻り、お持ち帰りした二人の女性の霊の成仏を祈念する。
- 後日、永久保と会った秋月は、「A子さんが、その昔××湖の生贄として村人たちに殺された二人の女性に憑りつかれていたこと。A子さんの氏神が自分の夢枕に立ったこと。除霊後に氏神から感謝の贈り物があったこと」を話す。
――といった具合である。
こうした話をどこまで信じるか、あるいはまったく信じないかは人それぞれであろう。
ソルティは年を取るにつれて迷信深くなったというか、目に見えないものの存在を否定しがたくなってきている。霊能力はないのであるが・・・。
ご利益や願望成就をもとめて自己努力もせずに神仏やグルや行者や易者にすがるのはどうかと思う。が一方、科学万能信仰や人類中心主義という傲慢から距離を置くために、あるいは「俺は自分一人の力で生きている!」という錯覚に陥らないために、神仏やら天狗やら龍やら物の怪やらを意識的に心に棲まわせておくのもありかなあ~、と思うのである。