1960年アメリカ。
巨匠キューブリックの2作目の長編映画。
まず、完成度の高さに驚く。とても新人監督によるものとは思われない大胆な省略法がそこかしこに見られる。
一例を挙げると、デイビー(ジャミー・スミス)が知り合ったばかりのビンセント(フランク・シルヴェラ)に自らの過去を打ち明けるシーン。デイビーが父親と姉とにまつわる悲しい物語を語っている最中、画面に映るのはバレリーナであったデイビーの姉が客席の見えない暗い舞台で一人踊る姿ばかり。過去の物語の回想シーンを流すのでもなく、語っているデイビーの切なげな表情や聞いているビンセントが次第にデイビーに惹かれていく表情を映すのでもなく、二人がいる部屋の中や街路を映すのでもない。二人の主人公が惹かれあっていくという、ストーリー的にはもっとも重要な「おいしい」シーンをわざとはずしてしまう大胆さと通俗を嫌う作家性がすでに発揮されている。
キューブリックはアメリカ生まれ。この映画はアメリカで作られて、舞台はシカゴ。落ち目のボクサーとギャングに囲われた美女との恋愛と救出をめぐっての派手なアクション、といったいかにもアメリカ風のストーリーである。なのに、なぜだかアメリカ映画っぽい感じがしない。
この映画に限らず、キューブリックの作品はどれをとってもアメリカ映画っぽくない。『ロリータ』(1962年)以降はイギリスに移住しイギリスでの制作となったから、アメリカ映画っぽくないのも当然と思われるが、この作品を見て分かるように、実際にはアメリカで撮っている時分からすでにアメリカ映画っぽくないのだ。
なぜだろう?
永年の疑問であった。
では、いったいアメリカ映画っぽさとは何を指すのだろう。
自分の中のアメリカ映画のイメージを作り上げているものはなにか。
チャップリン、ジョン・フォードを筆頭とする西部劇、オーソン・ウェルズ、ヒッチコック、ミュージカル、スペクタクル映画、マイホーム至上主義、コッポラ、スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、スーパーマンからブルース・ウィリスに至る一連のヒーローたち・・・。
これらの共通項は何かといえば、「娯楽」と「善に対する信頼」である。
商業主義であるが故になにより大衆に受けることを優先とする。制作者の視線は大衆をこそ向いていなければならない。ジョークにさえなっている「全米」大ヒットなどという文句はまさにそれを裏付けている。
そして、全米=大衆が望むものは常に「善」の勝利なのである。たとえ、映画の最後で善が負けるときでも、それは物語全体が悲劇か不条理劇かの体をなしていなければ許されないのである。
おそらく、アメリカ人の感性にとって、もっとも耐えられない日本の物語は永井豪の『デビルマン』であろう。そこでは、善を代表するデビルマンこと不動明が、悲劇でもなく不条理劇でもなく、サタンの化身である飛鳥了に打ち負かされていく。(その上に飛鳥了は同性愛的感情を不動明に抱いているのだ!)
キューブリックの作品は、この「娯楽」と「善への信頼」という二つを欠いている。
もちろん、『非情の罠』にしろ、『シャイニング』や『2001年宇宙の旅』にしろ、観る者を飽きさせない語りのテクニックはふんだんにある。面白くないわけがない。
しかし、キューブリックの視線は大衆に向いているというより、過去の偉大な監督たち、あるいは同時代のライバルと目される監督たちに向いているような気がする。つまり、プロのための映画という感じが強い。
愛されることより評価されることを望んでいたのかもしれない。
そして、「善への信頼」。これは『フルメタル・ジャケット』や『博士の異常な愛情』を持ち出すまでもなく、キューブリックには皆無といっていい。一説によると、キューブリックは無神論者であったとか・・・。
キューブリックが最も敬愛する作家はチャップリンだったという。チャップリンこそは「娯楽」と「善への信頼」の最大信奉者にして表現者であったことを思うと、これは面白い矛盾だなあと思う。撮影技術や演出上のテクニックは別にして、キューブリックの作品のどこをどう探したらチャップリン的なものが見られるのだろう?
自分にはないものだからこそ愛していたのだろうか?
チャップリンはユダヤ人であった。
キューブリックの両親もユダヤ人であった。
キューブリック自身は無神論者であった。つまり、ユダヤ人ではない。
興味深いことである。
評価:B-
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
「スティング」「フライング・ハイ」
「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
ヒッチコックの作品たち
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」
「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
「ボーイズ・ドント・クライ」
チャップリンの作品たち
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!