ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

浅丘ルリ子

●  ルリ子、礼讃!! 映画:『愛の渇き』(蔵原惟繕監督)

 1967年日活。
 昭和キネマ横丁の一作。

 三島由紀夫の同名小説の映画化。
 『愛の渇き』は、三島文学の主要テーマである「愛の不毛」「関係の不可能性」を緊密な構成と過不足ない言語表現と渇いた文体のうちに端的に描き切った、三島の数多い小説の中でもっとも完成度の高いものと言える。
 蔵原監督は、適確な脚本と俯瞰撮影に見られるような奇抜なカメラワークとで、原作の持つ抑制された緊張感を映画に移管させることに成功している。
 映画化された三島の小説のうちでは一番良い出来と言っていいのではなかろうか。


 監督の意向に見事に応えたのが浅丘ルリ子である。
 こんなに浅丘ルリ子が凄い演技者だとは・・・迂闊であった。
 むろん、日活のアクション映画のヒロイン(添え物)として石原裕次郎らの相手役をしていたことで軽んじていたわけではない。寅さん映画のマドンナとして一番鮮烈な印象のあるリリーというキャラを作り上げた浅丘を凡庸な役者と思っていたわけではない。蜷川幸雄演出で泉鏡花の‘女’を演じることのできるゴージャスかつ幻惑的な女優は、そうそういない。最近では天願大介監督『デンデラ』で役者根性を見せてくれた。本当に素晴らしい女優である。
 しかし、『愛の渇き』の浅丘は、そういった数々の世に知られた代表作の影を薄くさせるほどの破壊力がある。
 見始める前、この小説の主役・悦子を演じるのは若尾文子か岡田茉莉子か小川真由美ならともかく、浅丘ではちょっと無理があるのではないだろうかという印象を持っていたのだが、なんとも複雑で三島特有の心理学的説明なしに理解し難しいこのキャラを、浅丘は驚くべき直感で肉体化しているのである。なんら過不足ない。

 もう一つ新鮮な驚きは、若き石立鉄男が出ている点である。
 石立と言えば、『パパと呼ばないで』の右京さん(「チーボウ!」)や『赤いシリーズ』でヒロインの前に突如出現する謎の狂言回しのイメージが強いのであるが、ブレークは70年放映の『おくさまは18歳』(主演:岡崎由紀)である。このときからアフロヘアの三枚目として石立はお茶の間の人気者になった。
 『愛の渇き』ではブレーク前の青春そのものの石立鉄男を見ることができる。
 なんとアフロでは、ない!!
 二枚目ではないが、素朴な作男を演じる石立は三島が要求するであろう‘無邪気な、犬のように単純な、健康な肉体性’を発現していて、ヒロイン悦子(=三島由紀夫)を懊悩させるに十分な‘非文学性’を体現している。
 石立は2007年に64歳という若さで世を去った。
 故ナンシー関もしばしば書いていたが、売れている度合いに比して正体の知れぬ不思議な役者であった。
 それだけに無名時代の石立のあどけなさの残る姿には、悦子ならぬともキュンとくるものがある。



評価:B-


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」     

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


●  がんばれ、宮崎吾郎! 映画:『デンデラ』(天願大介監督)

 2011年東映作品。

 「デンデラ」とは「蓮台(れんだい)」のなまったもので、墓地または死者を葬送するところの意である。
 『遠野物語』の舞台となった岩手県遠野市には、この名前のついた丘があり、その昔、60歳を超えた老人はここに遺棄されたと言われている。いわゆる「姥捨て伝説」である。

 60歳で捨てられるとは今の感覚からすれば、あまりに若すぎる。この作品では、70歳になった老女(浅丘ルリ子)が息子によって雪山に置き去りにされるシーンから始まる。
 まず、浅丘ルリ子が捨てられる老婆の役をやるということにビックリする。
 確かに実年齢でも撮影当時71歳(1940生まれ)である。どんな役でもそれなりにこなせる感性と演技力とを備えている女優だから、役不足というわけでは全然無い。
 ただ、自らを美しく見せることへのこだわりとプライドの高さゆえに、こんな老け役にして汚れ役を引き受けたことにビックリしたのである。
 タイトルは忘れたが、しばらく前にやったテレビドラマの中で、往年の人気女優の役を演じる浅丘が、ライバル女優と張り合って役者根性を示すために鏡の前でメークを拭い去るというシーンがあった。浅丘は本当にメークを拭き取り、すっぴんをテレビカメラ(視聴者)にさらしたのである。そのとき、「この人、変わったな」と思ったものである。石坂浩二との離婚が変化のきっかけになったのであろうか。(どうでもいいことだが・・・)

 実際のところ、昔話の70歳にしては浅丘は若すぎるし、美しすぎるし、バタ臭すぎる(瞳にブルーコンタクト入ってないか?)。『楢山節考』の主演女優達(田中絹代、飯田蝶子、坂本スミ子)に比べると、「リアリティにかなり欠ける」と思うのであるが、それでもノーメークで顔の皺も隠さず、方言にも果敢にチャレンジしている。同じ日活映画のヒロインだった吉永小百合を、これで完全に追い抜いたな、と思う。

 出だしで感じたこのリアリティの欠如は、しかし、話が進んでくると気にならなくなってくる。それは、これまでに村の男達に捨てられた老婆達は、なんとか生き残って女だけの共同体(「デンデラ」と名づけている)を村人の来ない山向こうに築き、自給自足の暮らしを30年も続けていて、そこでは、新参者の浅丘ルリ子はたかが70歳の小娘に過ぎないのである。
 相対性のもたらす不思議というやつで、山のふもとの村の感覚では「70歳にしては若すぎる」浅丘の不自然な老婆姿も、最高齢100歳(草笛光子)のデンデラの中では「まだ70歳だから若く見えて当たり前」に映るのである。映画の終盤に向かうにつれ、浅丘はどんどん若くなっていくように見えるのであるが、100分近く老婆達の姿に付き合わされた視線には、もはやそんなこと気にならないのである。

 これはマジな話で、自分は老人ホームに勤めるようになって、これまで列車の中で見かけていた老人達が相対的に「若く」見えるようになった。
 老人ホームの住人の平均年齢は90歳以上なので、80歳で「やっと一人前」、70歳はまだ「青二才」、60歳なんか「ションベン臭い小娘」って感じである。40代の自分なんか彼等から見たら、「ケツの青い赤ん坊、人間未満」なのかもしれない。
 いやはや・・・。
 
 デンデラに住んでいる老婆達を、豪華女優陣が演じているのも見所である。
 共同体の創設者にしてリーダーの草笛光子の貫禄、それと張り合う片眼の倍賞美津子のいつもながら味のあるカッコイイ演技。若々しさと美貌とで売っていた点では、浅丘に勝るとも劣らない山本陽子も重要な役どころで出ているのだが、なんと自分は終わりのクレジットを見るまで「山本陽子」が出ていたことに気づかなかった。それくらい、普通の老婆になりきっているのである。

 『世界で一番美しい夜』でもそうだが、キャスティングの妙と役者の活かし方がすこぶる上手いのが、天願監督の第一の才能であろう。これは父親譲りの吸引力ゆえなのかもしれない。役者冥利に尽きる芝居をさせてくれるのである。

 あえて、偉大な父の代表作(カンヌグランプリ『楢山節考』)と同じテーマにチャンレジし、女だけの村という空間を撮ることでフェミニズム的視線も説教臭くなく取り入れ(逆に男だけの老人共同体を想像してほしい。しまいには権力闘争の揚げ句に全滅することだろう)、理想郷と見えたデンデラにも熊や雪崩といった自然の脅威は情け容赦なく襲い来る、人が生きることはどうにもこうにも「苦しみ」である、という仏教的視点を匂わせ、それでも「生きたい」という人間(生命)の性(さが)、あるいは業?を描く。
 志の高さと、現代の状況に対する鋭敏な視点と、深い洞察と、安易な結論の提示を拒否するテーマとの好ましい距離感の保持において、自分の中ではすでに今村昌平を超えた。

 本当に見事な才能である。
 代表作を撮る日も近いであろう。



評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


  
 
 
 
 
 


● 理想の四姉妹は? 映画:『細雪』(市川昆監督)

 1983年東宝。

 日本を代表する美しい女優達が目もあやな美しい着物を着て、日本の四季折々の美しい風景や家屋の中を歩く。観ているだけで幸福になれる映画である。この作品のために一着一着デザインし白地から染め上げたという着物の見事さに、日本の伝統技術のクオリティの高さをまざまざと知る。

 谷崎潤一郎のこの小説は、過去に3回映画化されているが、いつもその時々の最も人気のある、もっとも美しい女優達が四姉妹に選ばれ、妍を競ってきた。
 谷崎の夫人松子とその姉妹をモデルにしていると言われるが、姉妹それぞれの性格の違いが面白い。

長女、鶴子(30後半):強情でまっすぐな性格。激しやすいところがある。本家の格式を重んじる。 
次女、幸子(30過ぎ):姉妹思いで何かと気苦労が多い。姉妹の調整役を任じている。 
三女、雪子(30):奥ゆかしく引っ込み思案だが、自分の意志を貫き通す強さを持っている。
四女、妙子(25):現代風で、好きな男に惚れると飛び込んでしまう奔放な性格。

 この3回目の映画化では、次のような配役(当時の年齢)であった。
 長女:岸恵子(51)
 次女:佐久間良子(44)
 三女:吉永小百合(38)
 四女:古手川祐子(24)

 イメージ的にも性格的にもこのキャスティングは原作ピッタリだと思うけれど、四女役の古手川祐子をのぞくと年齢の点でちとみな年を取りすぎている。女優は実年齢より10歳は若く見えるから映像的には何ら問題はないのだが、年齢なりの落ち着きという部分はなかなか隠せないものがある。舞台は大阪であることだし、もっとキャピキャピした四姉妹なのではないかと想像する。

 さて、こういう作品を見ると、頭の中で自分なりにキャスティングを考えてしまうものである。
 私的「理想の細雪四姉妹」を発表する。もちろん、年齢はその女優がそれぞれの役と同じ年齢の時である。
 
 長女:京マチコ

 次女:小川真由美
 
 三女:原節子


 四女:浅丘ルリ子


 どうだろう?
 この四人が同じ画面に並ぶだけでくらくらしてきそうではないか。
 この四女優(姉妹)の中でいい思いをする男優(次女の夫・貞之助)は誰が適当だろう?
 石坂浩二はもう十分だ。
 三国連太郎あたりはどうだろう?

 
 ところで、映画の中で姉妹が交わすセリフにこんなのがあった。
 「音楽会の帰りに船場の吉兆でご飯食べましょう」


 時代は遠くなりにけり。




評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

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