1967年日活。
昭和キネマ横丁の一作。
三島由紀夫の同名小説の映画化。
『愛の渇き』は、三島文学の主要テーマである「愛の不毛」「関係の不可能性」を緊密な構成と過不足ない言語表現と渇いた文体のうちに端的に描き切った、三島の数多い小説の中でもっとも完成度の高いものと言える。
蔵原監督は、適確な脚本と俯瞰撮影に見られるような奇抜なカメラワークとで、原作の持つ抑制された緊張感を映画に移管させることに成功している。
映画化された三島の小説のうちでは一番良い出来と言っていいのではなかろうか。
監督の意向に見事に応えたのが浅丘ルリ子である。
こんなに浅丘ルリ子が凄い演技者だとは・・・迂闊であった。
むろん、日活のアクション映画のヒロイン(添え物)として石原裕次郎らの相手役をしていたことで軽んじていたわけではない。寅さん映画のマドンナとして一番鮮烈な印象のあるリリーというキャラを作り上げた浅丘を凡庸な役者と思っていたわけではない。蜷川幸雄演出で泉鏡花の‘女’を演じることのできるゴージャスかつ幻惑的な女優は、そうそういない。最近では天願大介監督『デンデラ』で役者根性を見せてくれた。本当に素晴らしい女優である。
しかし、『愛の渇き』の浅丘は、そういった数々の世に知られた代表作の影を薄くさせるほどの破壊力がある。
見始める前、この小説の主役・悦子を演じるのは若尾文子か岡田茉莉子か小川真由美ならともかく、浅丘ではちょっと無理があるのではないだろうかという印象を持っていたのだが、なんとも複雑で三島特有の心理学的説明なしに理解し難しいこのキャラを、浅丘は驚くべき直感で肉体化しているのである。なんら過不足ない。
もう一つ新鮮な驚きは、若き石立鉄男が出ている点である。
石立と言えば、『パパと呼ばないで』の右京さん(「チーボウ!」)や『赤いシリーズ』でヒロインの前に突如出現する謎の狂言回しのイメージが強いのであるが、ブレークは70年放映の『おくさまは18歳』(主演:岡崎由紀)である。このときからアフロヘアの三枚目として石立はお茶の間の人気者になった。
『愛の渇き』ではブレーク前の青春そのものの石立鉄男を見ることができる。
なんとアフロでは、ない!!
二枚目ではないが、素朴な作男を演じる石立は三島が要求するであろう‘無邪気な、犬のように単純な、健康な肉体性’を発現していて、ヒロイン悦子(=三島由紀夫)を懊悩させるに十分な‘非文学性’を体現している。
石立は2007年に64歳という若さで世を去った。
故ナンシー関もしばしば書いていたが、売れている度合いに比して正体の知れぬ不思議な役者であった。
それだけに無名時代の石立のあどけなさの残る姿には、悦子ならぬともキュンとくるものがある。
評価:B-
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
「スティング」「フライング・ハイ」
「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」
「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!