1936年第一映画。

 1917年生まれの山田五十鈴は、いま95歳である。表舞台からは姿を消したが、どうしているのだろう? 
 自分の世代(40代後半)はテレビ時代劇『必殺』シリーズの三味線弾きのおりくの山田五十鈴が、人を殺める時のあの撥さばきと共に強烈な印象として残っている。舞台は残念ながら見ることがなかった。
 あとは、リバイバル上映で見た黒澤明の『蜘蛛巣城』の城主の奥方役、すなわちマクベス夫人の鬼気迫る演技。能を手本とした緊張をはらんだ緩やかな動きと、目だけで感情を表現する能面のような表情と、黄泉からの声とでも言いたいようなくぐもる声。マクベス夫人の勝ち気と野心と狂気と苦悩をあれほど巧みに演じたのは、おそらく、他にはマリア・カラスくらいであろう。

 ここにいるのは19歳の山田五十鈴である。美貌の新進女優として映画界で花開いたばかり。
 しかるに、十代の乙女に期待するような初々しさや可憐さはない。物語の筋や彼女の役柄(負けん気の強い一途な女)のせいではない。すでに19歳の時点で、山田五十鈴は初心とか清純とかアイドルとは遠い地点にいる。
 これは意外であった。吉永小百合や原節子は言うまでもないが、若尾文子も高峰秀子も田中絹代も大竹しのぶも浅丘ルリ子も松坂慶子も十代の頃は清純で売っていた。実生活がどうであろうと、清純で売れるだけの雰囲気を持っていた。以後、監督や作品との運命的出会いや実生活上の経験を経て、清純派を脱し大人の女優となっていったのである。
 山田五十鈴は十代にしてもう大人の女優の風情を醸している。別の言葉で言えば、すでに役者の顔をしている。
 彼女は日本の映画史上の三大美人女優の一人と言われる。あとの二人は、原節子と入江たか子である。
 が、あまり彼女の美貌について云々言われることがないのは、この役者魂の前では表層的な顔の美醜などを言い立てるのも愚か、という気になってしまうからではなかろうか。
 実際、流行の洋装姿の山田はグレタ・ガルボばりの美貌なのである。

 溝口監督の記念碑的作品でもある。転落していく女を描くというオリジナルテーマの追求は、ここから始まったのであろう。




評価: B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!