ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

温泉

● 奥多摩の大奥:蕎麦粒山(1473m)

 奥多摩町は東京都で一番大きな町であり、行政区画である。東京都全体のなんと1/10(225.63平方キロメートル)を占めている。94%が森林というから、いかに東京にまだ自然が、田舎が、残っているか分かるであろう。
 日原は奥多摩の最西端にある。北は埼玉県秩父に接し、西は山梨県丹波山村に接している。まさに、東京の大奥。
 奥多摩駅からここまで路線バスが走っている理由の一つは、日原鍾乳洞の存在が大きいだろう。都の天然記念物に指定され、関東随一の大きさを誇る自然の芸術は、奥多摩観光の目玉の一つになっている。鍾乳洞が発見されたのは1200年前(平安時代)で山岳信仰のメッカとして人を集めたと言う。(役の行者発見説もある) 
 江戸時代、日原は白箸(正月に使う白木のままの両細の箸)の産地として名を馳せた。第2次大戦後からは石灰石採掘が主産業となり、最盛期には社員寮やダンスホールが立ち並ぶ賑やかな光景が見られたらしい。今はかつてのような賑わいはなく、静かな山歩きを恋いもとめる自分のようなハイカーを積んだバスが到着する一瞬だけ、晴れやかなざわめきが山間に放たれる。


●歩いた日  10月8日(火)
●天気    晴れのちくもり
●タイムスケジュール
08:01 JR青梅線・奥多摩駅着
08:10 鍾乳洞行きバス乗車(西東京バス)
蕎麦粒山20131008 00908:37 東日原バス停着
08:45 歩行開始
11:15 一杯水避難小屋
11:50 三ツドッケ山頂
12:45 仙元峠
13:10 蕎麦粒山頂上
      昼食休憩
14:00 下山開始
15:00 一杯水避難小屋
17:25 東日原バス停着
      歩行終了
17:47 奥多摩駅行きバス乗車
18:14 奥多摩駅着
● 所要時間 8時間40分(歩行6時間40分+休憩2時間)


 終点の鍾乳洞の二つ手前に、蕎麦粒山登山口のある東日原停留所がある。
 バスを降りると、緑の山々に抱かれた山あいの集落の長閑でまったりとした朝の光景に、山登り前の無駄な気負いが抜けていく。日原川の渓流の奥に見えるきれいなおにぎりは六つ石山(1497m)だろうか。

蕎麦粒山20131008 002

蕎麦粒山20131008 003


 表示板にしたがって舗道から登山口へと入るが、いきなり迷ってしまった。山道を登っていくと、どうしても青い屋根の民家に突入してしまう。舗道に戻って別の入り口を探すが、舗道もまた行き止まりになる。
 おかしい。
 もう一度表示板のところから入る。やはり民家にぶちあたる。
 「ひょっとして・・・」と思いながら民家の軒先に侵入すると、そこから家の左側を回って後ろに抜ける道があった。裏手の崖に「一杯水→」という表示がある。
 ちょっとわかりにくいぞ。
 手持ちのガイドブックにも詳しく書かれていなかった。自分のように図図しくない人間は、なかなか人の家の軒先に勝手に入り込めないのである。
 これで約30分のロス。
 
 しばらく杉の植林の中をジグザグ登っていく。10月にしては暑い。あっという間に体は汗だくとなる。
 高度を上げていくと、杉林にカエデやブナが混じりだし、その割合が反転していく。目にやさしい広葉樹のみどりが朝の光をチラチラと反射し、涼やかな秋風を誘ってははぐらかす。「山に来た!」という喜びが湧き上がって来る。
 足元を見ると、一面のどんぐり。帽子をかぶったままなのもあって可愛い。
 日陰に入れば、秋の味覚、きのこ。いろいろな種類がある。

蕎麦粒山20131008 016


 蕎麦粒山20131008 005 蕎麦粒山20131008 004 蕎麦粒山20131008 017

 すわっ!
 数メートル先の木陰から何か黒いものが飛び出した。
 熊か?
 立ち止まって様子を伺う。
 すると、猿が二匹追いかけっこしていた。視界から消えたところで、逃げている一匹は捕まったらしく、大きな悲鳴をあげていた。
 猿でよかった。
 鈴を取りだしてリュックにつける。 

 木々の間から周囲の山々が見えてくると、足取りも軽くなる。
 陽が上り詰めた頃に、一杯水避難小屋に到着。
 
 立派な堅牢な山小屋で、板敷きの貼ってある中は広くて、まず清潔である。
 作業服を着た若いイケメンが二人、清掃作業をしていた。どうやら、小屋の管理を委託されている林業会社の社員らしい。こういう人たちのおかげで、快適安全な山歩きができるというものである。
 感謝。


蕎麦粒山20131008 006


蕎麦粒山20131008 007


 ここから最初の目的ピークである三ツドッケに向かう。
 小屋の入り口の脇にある表示にしたがって登っていく。
 なんだかわかりにくい道である。表示がないのはともかく、正しい道を示すために木に結びつけられている赤テープもない。
 踏み跡らしく見えるところを辿って、登り詰めたところは岩場であった。
 何の表示もない。
 ただ、「山」と刻まれたコンクリートの柱が土に埋まっているばかり。
 ここが山頂か?
 富士山まで望める眺望の良さとガイドブックにあるのに、木々にさえぎられてたいした眺望が得られない。
 不思議に思い、山頂を越えてもう少し先まで行くと、行き止まりであった。
 そこから視線を上げると、数十メートルほど先に、山頂になにやら柱が立っている山が見えた。斜面の一角が切り開かれて、眺めが良さそうだ。
・・・・・。
どうやら道を間違えたらしい。
三ツドッケの三つのピークのうち、主要でないものに登ってしまったようだ。 
ちゃんと道なりに来たつもりだったのに。


蕎麦粒山20131008 008


今さら再挑戦する体力も気力も起きない。
あきらめて、来た道を引き返す。
と、ここでまた道に迷ってしまった。
 さきほど登ってきた道を下りたつもりが、いつの間にか見覚えのない景色に取り囲まれている。
 困った!!

蕎麦粒山20131008 015

 
 原因は二つある。
 登りの時は目の前に続く道しか見えないが、下りの時は他のルートから上がってくる道も見えるから、もっともそれらしい道を選んだつもりでも、登りの時とは違うルートに入り込んでしまうのである。
 山道はどれも同じに見える。登ってきた時の風景をいくら記憶したところで、逆から辿るときは役に立たない。
そして、表示や赤テープがないこと。これは決定的だ。
 ・・・なんて理由を考えていても仕方がない。
 なんとか一杯水避難小屋に戻らなければ。
 とたんに、周囲の風景がよそよそしくなる。
 ちゃんとしたルートを辿ってきたときは、それがどんなに険しかろうが、きつかろうが、親しみ深いものと感じられていた山が、一瞬にして他人の顔になる。
 
 ああ、こんなふうにして人は山で迷い、遭難するんだ。
 こんな大奥では携帯のアンテナはもちろん立っていない。
 ここでもし遭難したら、誰がそれを知るだろう。
 今日、蕎麦粒山に登ることは誰にも話して来なかった。
 バスの運転手も、一緒に停留所を降りた2,3人の客たちも、自分の顔や恰好は覚えていまい。山道では誰とも会わなかった。
 頼りは、小屋で会った作業員二人だ。
 ああ、もしここで遭難して死ぬことになったら、何を一番後悔するだろう。
 
 ・・・なんてマイナスばかり考えていてはいけない。
 しっかりしなければ。
 こういうときは下り続けてはいけない。
 むしろ、さきほどの山頂までいったん戻ってやり直したほうがよかろう。
 そう決めた瞬間、前方数メートル下の草陰にT字型した表示板らしきが見えた。

 助かった!

 そのまま下ると、避難小屋と蕎麦粒山を結んでいる尾根道に出た。
 どうやらさきほどの山頂から斜めに下ってきたらしい。
 ワープして、時間を節約したってことか。


 ちょっと道に迷っただけではあったが、パニックにつながりかねない心細さには、納得ゆく理由がある。
 この周辺で、6月に行方不明者が出ているのである。
 高橋清さん(65)は、今年の6月4日に日原から山に入り、途中数回の目撃を最後に、消息を絶っている。青梅警察署の連絡先の書かれた手作りの看板が、山道のどの表示板にも吊り下げられていて、ふもとからずっとそれを見ながら登ってきたのであった。
 つまり、ここら一体は遭難しやすいのである。
 山(上り下り)を迂回するために山腹に付けられた道を「まき道」と言うが、この蕎麦粒山にいたる間のまき道は、結構険しい箇所が多い。片側が断崖絶壁で、道幅が狭く、しかも路肩が緩んでいる箇所がいくつもあった。
 つくづく過信は禁物である。

蕎麦粒山20131008 013


 蕎麦粒山の山頂はごつごつした岩が立ち並ぶ、なんだか古代の祭祀場みたいな雰囲気であった。眺望は奥武蔵方面に開けているが、あいにく雲が湧き出してきて視界は冴えなかった。
 岩と岩に渡した板切れに座って遅い昼食をとる。
 静かさはこのうえない。
 紅葉シーズン前の平日とはいえ、山中で出会ったのはくだんの作業員を入れて5人ばかり。遭難リスクと背中合わせに手に入れたこの静寂に骨の髄まで浸る。

蕎麦粒山20131008 012


蕎麦粒山20131008 011


 手持ちのガイドブックに乗っている奥多摩の山はほぼ登り切り、蕎麦粒山だけが最後に残っていた。
 それは下山路――と言ってもUターンして往路を戻るのだが――が長いためである。
 自分は右膝に爆弾を抱えていて、登りは平気だが、下りが長く続くと痛みが出てくる。
 いったん発生すると、どんどん痛くなる一方で、速度も落ちる。日の短い季節なら、山中で日没を迎えることになってしまいかねない。
 そうした懸念から、後回しになっていたのであった。
 今回チャレンジしたのは、17時くらいまでは明るさが残る時期であり、膝の調子も悪くはなかったし、翌日も仕事休みだったからである。
 傾斜のゆるい一杯水避難小屋までの復路は問題なかった。
 そこから長い長いヨコスズ尾根を下っている途中で、疼き出した。
 山頂付近で拾った天然の杖とサポーターと途中休憩のおかげで、しばらくは速度も保てた。
 が、広葉樹林が杉林に移り変わるあたりで、あと1時間あまりでゴールという地点で、爆弾がはじけた。
 一足つくごとに痛みが増していく。
 もうこうなると速度を落として、膝を曲げないように歩くしかない。
 だんだんと空が暗くなって、風が冷たくなってくる。
 下山路の長いこと!
 こんなに延々と歩いてきただろうか。
 またしても道を違えたのではなかろうか。
 あるいは、時空に穴が開いていて、SFかホラーのように同じ区間を何度も歩かされているのではないか。
 そう思ってしまうほどに、延々と、延々と、同じような杉木立が続く。
 やっと、登山口にある民家の青い屋根が見えたときのうれしかったこと。
 
 登山口から舗道に降りて、高台から暮れなずむ日原の集落を見下ろす。
 薄暮のブルーに染められて、黒々とした谷の中にゆっくりと沈み込んでいくふうである。
 バス停に到着して10分経つと、あたりは闇に閉ざされた。 

蕎麦粒山20131008 018


蕎麦粒山20131008 021

 
 帰りに寄るつもりであった奥多摩温泉「もえぎの湯」は本日休業。
 青梅線の河辺(かべ)駅で降りて、駅前のタウンビル5階にある「河辺温泉・梅の湯」で疲れを癒す。
 なかなか良い泉質である。

蕎麦粒山20131008 001


● 瑞牆山(山梨県北部、2230m)と増富ラジウム温泉

●歩いた日  8月23日(金)、24日(土)
●天気    くもり
●タイムスケジュール
1日目
14:45 JR中央本線韮崎駅発「増富温泉」行きバス乗車(山梨峡北交通)
15:43 増富温泉峡着
130824_1552~01      歩行+車
17:00 みずがき山荘着
2日目      
07:10 みずがき山荘
      歩行開始
08:00 富士見平小屋
08:30 天鳥沢
10:00 瑞牆山頂上
      休憩
10:45 下山開始
11:40 天鳥沢
12:20 富士見平小屋
12:45 みずがき山荘
      歩行終了
12:55 韮崎駅行バス乗車
13:17 増富の湯
● 所要時間 5時間35分(歩行4時間+休憩1時間35分)
● 歩数 15,700歩

 広辞苑によると瑞牆(みずがき)とは「神霊の宿る山・森などの周囲に木をめぐらした垣」のこと。水垣、瑞籬とも書く。玉垣とも言う。
 瑞垣と聞くと、万葉集を思い出す。 

瑞垣の 久しき時ゆ 恋すれば 吾が帯緩ふ 朝宵ごとに 
  
ソルティ訳
神社の瑞垣が久しい昔からあるように、貴男を恋するようになって随分月日がたってしまったので、ズボンが緩くなってしまったよ。思い煩い日ごと痩せてしまったので。

 それこそ久しき昔から伝わる美しい日本語なのである。
 瑞牆山は山頂に花崗岩の巨岩が乱立している奇態な景観をした山である。神々しいいでたちの露岩を取り囲むように、九合目あたりまで瑞々しい白樺やミズナラや針葉樹に覆われている。まさに瑞牆という名にふさわしい。日本百名山の一つであり、フリークライミング発祥の地とも言われている。
 
130824_1202~01

 前日に登山口にある瑞牆山荘に泊まって、翌朝早めに登山開始という計画を立てた。日帰りでも行けないことはないが、久しぶりに山中の暗く静かな夜を味わいたい。

一日目

 韮崎に向かう列車の中、なぜか眠くて仕方ない。前日はたしかに遅番仕事で寝たのは夜12時過ぎだったが、6時間は寝ている。疲れがたまっているのか。鈍行列車ののんびりしたペース、心地よい揺れに心身はまどろむ。
 大月、山梨、石和温泉を夢見ごこちのうちに過ぎて、ふと気がつくと「しんぷう~、しんぷう~」とアナウンスが流れている。
 しんぷう~?
 新婦? 神父? 新風? 
 はっと目が覚めて車内の路線図に歩み寄ると、新府は韮崎の一つ先であった。
 しまった! 乗り過ごした。
 すばやく手荷物まとめてホームに下りると、民家と畑に囲まれた無人駅。
 向かいのホームに回って、上り列車を待つ。
 さほど待たずに列車は来たけれど、韮崎駅で降りたときには乗る予定だった山荘行きバスはすでに発車後。
 次のバスは・・・・
 嫌な予感は的中し、最終となる次のバスは平日はみずがき山荘まで行かず、途中の増富温泉どまりである。
 さて、どうしよう。
 増富温泉に泊まるか。温泉からタクシーを使うか。
 とりあえず山荘に電話する。
 事情を説明すると、宿の主人は言った。
「いっそ温泉から歩いてきたらどうですか」
「どのくらいかかりますか」
「2時間くらいです」
「道はわかりやすいですか」
「車道をずっと来れば着きます」
 2時間の歩きは長いけれど、温泉からは景観の良い渓谷沿い。夕飯までには宿に着く。
「じゃあ、そうします」
 これが災難のはじまりだった。
 増富温泉でバスを降りると雲行きが怪しくなってきた。一雨くるかもしれない。
 ノースフェイスのレインウェア上下を着て、リュックをビニール袋で覆う。
 渓谷の美を撮るためにレインウェアのポケットにデジカメを入れる。
 歩き出して10分たった頃に本降りになってきた。
 水溜りができる。
 瞬く間に、靴の中がぐっちょり。
 (防水じゃなかったのかよ~)
 15分たった頃、雷が閃き、どしゃぶりになった。
 ウェアの中まで水が浸み込んできた。
 (防水じゃなかったのかよ~)
 20分たつと、道路一面が冠水し、上り道ゆえ前方から自分のほうに濁流が押し寄せてきた。ゲリラ豪雨だ。
 もう道が見えない。
 目の前もよく見えない。
 雨宿りするようなところもどこにもない。
 止みそうな気配もない。
 このまま行軍を続けたらどうなるかわかったもんじゃない。
 温泉まで引き返すか。
 しかし、撤退は勇気が要るものだ。せっかくここまで来たのだから、と思ってしまうのだ。まだ半分も来ていないのに・・・。
 当然、前にも後ろにも人も車も見えない。
 参った。
 これはどういう業の報いなのだろう?
 それでも重い足を進めて30分たつと、左側に建物が見えてきた。
 助かった!
 リーゼンヒュッテという公営の宿泊施設である。
 フロントに回ると、男性職員がいた。
 「ちょっと雨宿りさせてください。トイレも貸してください」
 用を足しながら考えた。
 この雨ではとても山荘まで無事には行けないだろう。遭難はまぬがれても風邪をひくかもしれない。下手すりゃ肺炎になるやもしれない。
 職員に尋ねた。
 「今夜泊まれますか」
 「今日は団体客の研修があって満室なんです」
 天は我を見放したか。
 ふたたびレインウェアを来て、リュックを背負い、外に出る。
 先ほどより雨足が弱まっている。空も心なしか明るくなっている。
 今のうちに先を急ごう。
 車道に戻ろうと歩いていると背中から名前を呼ばれた。
 男性職員だ。
 「山荘に電話したら、ご主人が車で迎えに出たとのことですよ」
 ありがたい。
 車との出会いを待って車道を歩いていると、後ろからバンがやって来た。
 「あれ? どこにいました? 増富温泉まで行ったけど、途中で誰とも擦れ違わないから一体どうしたんだろう、と思いました」とご主人。
 標高1500mで連日30度を越す日照り続きで、こんなどしゃぶりはこの夏はじめてだと言う。
 話しているうちにも空は明るくなり、雨は小降りになってくる。
 結局、一番降りのひどいときに歩いていたのであった。
 宿に着いて、身の回りを点検する。
 体は別に異常なし。レインウェア、靴、靴下はぐっちょり。衣類も下着まで濡れている。リュックの中まで雨が入り込んで、タオルや財布がびっちょんこ。着替え一式はビニール袋に入れておいたので難を逃れた。
 濡れたものは乾かせばいい。
 が、レインウェアのポケットに入れてあったデジカメが動かない。
 液晶画面に水が入っている。
 (防水じゃなかったのかよ~)
 今回は携帯で撮影するしかない。 

 天候のせいか山荘は空いていて、うれしいことに個室に通された。八畳の窓側に二畳ほどの板敷きがついている。落ち着ける部屋だ。食事は味噌汁が旨かった。お風呂は温泉ではないが、広くて気持ちいい。
 宿のドライヤーを借りて、必死に靴を乾かした。


二日目
 夜通し雨が降っていた。それもバケツをひっくり返したような、猫も犬も大騒ぎするような(It rains cats and dog.)どしゃぶり。
 朝起きると、曇ってはいるが雨は止んでいた。
 「きょうは持ちそうですよ」とご主人。
 寝る前に部屋の窓から夜空を見上げながら、慈悲の瞑想をして、逆雨乞いをしておいたのが効いたのだろうか。
 朝食をすませて出発する。

130824_1240~01


 ミズナラや白樺の気持ちいい森を通って、一登り、一汗かいたら富士見平に着く。水場で補給する。その名の通り、木々の合間から富士山が見える。してみると、ご主人が言ったように今日は晴れないまでも降らないだろう。考えてみると、30度を越す炎天よりも曇り空のほうがよいのかもしれない。
 小屋の周りには黄色いマルバダケブキ(丸葉岳蕗)がたくさん咲いていた。

130824_0755~01


130824_0754~01


130824_0751~01


 瑞牆へは小屋の左手から入る。
 下りついたところが天鳥沢。清流がさわやかだ。

130824_0837~01


 ここから一気に険しい岩登りとなる。
 水平距離1キロに対して高低差が400mだから40%勾配、傾斜角度は約22度。奥穂高岳の勾配が40.7%というから、かなりのきつさだと分かる。もっとも、前者は山頂まで90分、後者は7時間以上かけて登るのだが。(ちなみに東京の高尾山は勾配約10%を90分、筑波山は約30%を2時間)
 はしごやロープを頼りながらの岩から岩へのスリリングな登りが続き、一瞬たりとも気が抜けない。余計なことを考える余裕をいっさい許さない一歩一歩が、まさに「今ここ」に集中するヴィパッサナー瞑想である。山岳歩きが仏道修行となりうるのは、おそらくこのためなのだろう。
 頭上にのしかかるような大ヤスリ岩はまるでマツコデラックス。巨躯と存在感に圧倒される。

130824_0920~01


 樹林帯を抜けると、足元の岩に自分の影が落ちた。雲間から日が差してきた。
 一登りで山頂に立つ。

 花崗岩ばかりの山頂は、釈迦ガ岳弥三郎岳に似ている。岩の周囲が断崖絶壁となって、下を覗くとお尻のあたりがムズムズとしてくるところも。
 展望は言うことなし。
 ちょうど登頂したときに、霧が晴れた。
 金峰山、軽井沢、八ヶ岳、南アルプス、そして富士山のシルエットが、風に流れる雲の合間から見え隠れする。日も差したり翳ったり。
 あたりは2000メートルを超える山だけに許された神聖な気に満ちている。
 眼下に見えるのはノコギリ岩。鬱蒼とした緑の海からすくっと起立する様は巨大なモノリスか墓標のよう。または起立した男根か。
 「ああ、もう下界に帰りたくない」
 そばにいた中年親父グループが呟いた。

130824_1019~01


130824_1024~01


130824_1015~02


130824_1009~01


130824_1024~02


130824_0959~01

130824_1015~01


130824_1025~01


 下山は来た道を戻る。
 急勾配だけにスピードが出る。行きに3時間かかったのに、帰りは2時間。
 バスの発車時刻10分前に山荘に帰還した。


130824_1320~01 途中下車して増富の湯に寄る。
 ここはラジウム含有量世界一と言われる。
 ラジウム温泉とは「ラドン元素とトロン元素を一定量以上含む温泉」と定義されている。
 いろいろな温度に設定された源泉かけ流しの柿色の湯がいくつもある。ぬるま湯に長く浸かるのがいいらしい。

 ラジウムは自立神経系の病いによく効くらしい。
 そう言えば、昨晩静かな山荘のクーラーや冷蔵庫の音がしない部屋の中で、左耳の耳鳴りに気づいたのであった。
 ストレスは仕事のためか。
 それとも「瑞牆の君」ゆえか。

 


● 芭蕉月待ちの湯:今倉山(1470m)、道志二十六夜山(1297m)

●歩いた日  4月27日(土)
●天気     晴
●タイムスケジュール
 8:10 富士急行線「都留市駅」発・道坂隧道行バス乗車(富士急山梨バス)
道志二十六夜山 035 8:40 道坂隧道着
 8:50 歩行開始
 9:50 今倉山東峰
10:10 西峯(御座入山)
10:40 赤岩(松山)
11:50 二十六夜山頂上
      昼食休憩(40分)
12:30 下山開始      
14:20 芭蕉月待ちの湯
      歩行終了
15:54 富士急山梨バス乗車
16:25 富士急行線「都留市駅」
● 所要時間 5時間30分(歩行4時間15分+休憩1時間15分)
● 歩数   約22,800歩

 GW初日。晴天。案の定、早朝の下り列車は登山客でいっぱい。帰省客のラッシュはこれからか。
 どこも名の知れた山は混雑必至と思い、知られざる山をピックアップした。

 道志二十六夜山は、山梨県の最東端、神奈川県との境に位置する道志村にある。お隣の上野原市には秋山二十六夜山がある。このあたり一帯に月待ち信仰があった名残である。
 ちなみに道志村の面積は約80キロ平方、人口約1900人、人口密度は1キロ平方あたり約24人である。これは山梨県では4番目の「ゆとりあるまち」ということになる。(2010年国勢調査によると、日本で一番人口密度が小さいのは福島県檜枝岐村の1.6人、一番大きいのは東京都豊島区の21881.5人)

道志二十六夜山 001 都留市駅からのバスは山道をぐんぐん登ってきて道坂隧道を終点とする。
 今倉山は標高1470mの結構高い山であるが、バスが稼いでくれるので実際に歩く標高差は460mくらい。高尾山(標高差410m)とさほど変わりない。
 一緒にバスを降りたのは20名ほどか。団体客が多い。
 空は晴れているが風が強いので、立ち止まっていると寒くなる。
 隧道の脇から登山道に入る。

 同じ月待ち信仰があったせいだろうか、登山道の雰囲気は秋山二十六夜山とよく似ている。尾根まで続く急な直線の幅広い道。二十六夜のお祭りのために提灯やロウソクを手にした村人達が、列をなして山頂目指して登った姿が思い浮かぶ。秋山と異なるのは、背後に大きくわだかまる御正体山、そして高度を上げるに連れてその背後から徐々にせり出してくる、白いペンキを乱雑に塗りたくったような富士の頂き。

道志二十六夜山 002


道志二十六夜山 003


 今倉山の東峰まできっかり1時間。
 周囲は木立に囲まれている。まだ葉が生い茂っていないので木々の間から富士山はもとより、北側にひろがる山脈も垣間見える。あと少ししたら展望はなくなるだろう。
 山頂からは菜畑山、朝日山に向かう道もある。反対方向に10分ほど進み、西峯(御座入山)に到達。朽ちた標識もさびしい地味な山頂。ここで立ちションする。

 少し下りたところで前方の視界が開け、御正体山と杓子・鹿留山とにはさまれた富士山が大きく現れる。強い風が幸いし、抜群の展望だ。シャッターチャンスとばかり、デジカメを構えたけれど、本当のシャッターチャンスはまだこの先であった。

道志二十六夜山 004


道志二十六夜山 005


道志二十六夜山 006


 どこから見ても見間違いようのないお馴染み三つ峠を正面にして、しばらく下って登りきったところが赤岩である。
「すんばらすぃ~い!!」

 思わず叫ぶ。
 360度の「視界は良好、わたしは亮子」(って知っている人いるのか?)
 額に入れて浴室に飾りたいほど見事な富士山。
 南アルプス(聖岳、赤石岳、悪沢岳、仙丈岳、鳳凰三山、甲斐駒ヶ岳)、北アルプス、八ヶ岳、朝日岳、金峰山、妙義山、大菩薩嶺、東京で一番高い雲取山、筑波山、陣馬・景信の彼方にうっすらと見える都心とスカイツリー、下りてきた今倉山をはさんで、丹沢山塊、相模湾、箱根の山々(明神ガ岳、金時山)。これらを外周とする円の中に、形・大きさ・色さまざまな中央線沿線の山々を一望にできる。

道志二十六夜山 012

道志二十六夜山 016

道志二十六夜山 013

道志二十六夜山 012

道志二十六夜山 020

 赤岩からのすんばらすぃい展望は山座同定含め下記のサイトで見ることができる。感謝。
 http://www.kei-zu.com/main/akaiwa/akaiwa.html
 この光景をいったん生で見たら、山登りは到底止められるものでない。


 赤岩から林道をまたいで1時間ほどで道志二十六夜山に到達。
 ここも素晴らしい景色である。
 二十六夜碑をカメラにおさめて昼食とする。
 今日一日、後になり先になり一緒に歩いてきた人々が座して富士山を見ている。
 背後の中年男性グループは缶ビールを開けている。
 (山をなめちゃいかんぞ~)


道志二十六夜山 019


道志二十六夜山 025


道志二十六夜山 022


 下りは緑の多い気持ち良い道が続く。
 途中で仙人水という湧き水で顔を洗い水筒につめる。やわらかい水。

 下りきったところに沢がある。これもまた秋山二十六夜山と同じだが、あちらは荒れていて山が崩壊している感じであった。こちらは昔ながらの清浄な気が一帯に満ちていて、身も心も癒される。

道志二十六夜山 027


道志二十六夜山 029


道志二十六夜山 030


 山道から車道に出る。歩いて15分ほどのところに「芭蕉月待ちの湯」がある。
 アルカリ性単純温泉。源泉35.4度というぬるま湯に長々と浸かっていると体の感覚が無くなるかのような不思議な心地がしてくる。

道志二十六夜山 033


 松尾芭蕉がこの地に立ち寄って一句詠んだと言う。

  名月の 夜やさぞかしの 宝池山


 宝地山とはこの近くにある正蓮寺の山号だそうだ。
 新緑と小鳥の声に囲まれた露天風呂に浸かれば、芭蕉ならずとも一句詠みたくなる極楽気分。
 
 名月を 待たず楽しむ けふの山  


● 登山:大霧山(767m)~奥武蔵

120715_1243~01●7月15日(日)曇り、時々雨

●ルートとタイムスケジュール
08:11 西武線・西武秩父駅着
08:32 西武観光バス乗車
09:00 定峰バス停着
      歩行開始 
      定岳寺~旧定峰峠~檜平
11:15 大霧山頂上着
      昼ごはん
11:50 下山開始
13:00 橋場バス停着
      歩行終了
13:10 イーグルバス乗車
13:40 小川町駅着~おがわ温泉「花和楽の湯」

●所要時間 4時間(=歩行3時間+休憩1時間)


 朝起きたとき喉に痛みを感じ体は重かった。リュックの準備は整っているが、行くべきか行かざるべきか? 天気は曇り、午後から晴れると言っている。
 「体を休めろ」というささやきを振り払って、出かけることにする。寝ているより山に行ったほうが、むしろ良くなることもある。第一、目覚ましもかけずに6時前に自然と起きたのは、無意識が許可している証拠であろう。

 西武秩父行きの列車は登山客でいっぱい。どの駅で降りるかでどの山に登るか推測がつく。
 思えば、自分の山歩きも趣味と言えるようになってから7年目を迎え、中央線の大月駅までと青梅線沿い、西武線秩父線沿いのガイドブックに載っているような山々はほとんど踏破した。これからは富士急行大月線沿いか、はたまた丹沢か・・・。良かった山々をもう一巡するのも良いかもしれない。
 健康と健脚と休日に感謝。

オオギリ山2 定峰バス停からの登山口がわかりにくい。バス停から来た道を少し戻ったところに、定峰神社への登り口があるらしいのだが、わからずに定峰川沿いの車道をゆっくり登る遠回りのコースをとる。まあ、足を慣らすにはちょうど良い。
オオギリ山 定岳寺を経て、里山ののどかな風景を楽しみながら、山道に入る。
 雨がパラパラと降ってくるが、木々が蔽いになり、体には届かない。その木々も広葉樹から、いつの間にか針葉樹に変わる。雨に湿った杉の樹皮の香りが鼻腔をくすぐる。
 道は歩きやすい。

 ダイダラ坊の標識がある旧定峰峠で、周囲は開けて明るくなってくる。
 
120715_1023~01 ダイダラ坊と言えば、ダイダラボッチ。宮崎駿監督の『もののけ姫』に出てきた心やさしい巨人である。
 全国各地にこの大男の伝承が残されている。
 ここ大霧山の伝承では、「腹が減ってお粥を煮たのが粥仁田峠(かいにたとうげ)、使った釜を伏せたのが釜伏山(かまぶせやま)、箸を地面に刺したのが二本木峠(にほんぎとうげ)、荒川の水を口に含んで吹いたのが大霧山」とある。

 休んでいた60代くらいの地元の男性としばし会話する。トレーニングでこのあたりの山をよく歩き回るのだそうだ。大霧山は「夏も涼しくて、気持ちがよい」と言っていた。


 登りで出会ったのは、この男性と若いカップル一組のみであった。他に山頂で10名、下りで12名だから、この日大霧山に登ったのは30名弱になる。

120715_1100~01 檜平を経て、最後の登り。右手に牧場が広がっている。
 山の上の牧場とはなんとも気持ちいい。なんだかアルプスのようではないか。
 と思っていたら遠くからヨーデルが・・・。
 『アルプスの少女ハイジ』のテーマ曲が聞こえてきた。
 牧場で流しているらしい。
 ただ、牛の姿は見えなかった。

 山頂に到達


120715_1115~01 残念ながら、雲でまったく景色は見えない。
 晴れていたら抜群の展望が開けているはずなのだが。
 「大霧山」という名だけのことはある。
 次回、また来よう。

 ここで昼食。
 おにぎり2個(シャケ、こんぶ)、サンマの缶詰、お新香盛り合わせ。
 次々と人が到着し、あっという間に山頂のベンチは満員となる。
 と同時に、霧が山頂にうっすらと漂い始めた。まさに霧の山。雰囲気があって良い。

120715_1157~01 霧にけぶる森の中を下山する。ちょっと幻想的。
 
 山道が終わり、車道に出てから「橋場バス停」までが意外と遠い。標識に従って行ったら、途中でまた山道に入り込む。だまされているんじゃないかとちょっと不安を感じつつ、ようやく車道に舞い戻る。(どうやら車道と車道をつなぐ近道だったらしい。)
 発車10分前にバス停に着いた。
 汗ぐっしょり・・・・


120715_1628~01 小川町駅から歩いて8分のおがわ温泉「花和楽(かわら)の湯」へ。
 ここはもともと瓦工場があったらしい。今の社長(5代目)が一大決心して平成15年に開業したとのこと。古民家風の落ち着いたデザインが湯上りのリラックス度を高めてくれる。使われている瓦は、伝統と誇りの表れであろう。
 露天あり、炭酸泉あり、蒸し風呂あり、地元の特産を使った食べ物も充実、家族で半日楽しめる贅沢な施設である。
(ホームページ→http://www.kawarano-yu.com/index.html) 
 いくつかある駐車場が満車の大賑わいであった。

120715_1536~01 もちろん、自分の目的は湯上り後のビールにある。

 やっぱり来てよかった~!

 山登り+温泉+生ビール=ストレス完全解消

 の方程式は鉄板である。

 小川町駅への道の途中にあった居酒屋のポスターが面白かった。
 ダイダラボッチの「でいだら棒」?
 この色、この形。
 女性に大人気って、あなた、涎まで出して(笑)。
                   

120715_1644~01


 


 


 
 
 
 
 
 



 


 



 

記事検索
最新記事
月別アーカイブ
最新コメント
ソルティはかたへのメッセージ

ブログ管理者に非公開のメッセージが届きます。ブログへの掲載はいたしません。★★★

名前
メール
本文