2006年公開。

 乙一の原作は読んでいないのだが、「原作(小説)と映画は別だ」ってことを確信させるレベルに達している映画である。

 だいたい120分を超える映画を観るのは、たとえ疲れたら画面を一時停止できる環境にある自宅であっても気合いが要るものである。ましてやホラーやアクションやコメディでないものは「物語」の中に入り込むまでに時間がかかる。身の回りを片付けて、飲み物と軽食の用意をして、ある程度部屋を暗くして、「さあ、見るぞ!」と再生ボタンを押すのである。それでも、最初の30分くらいはなかなか画面に集中できなかったりする。

 この作品。
 最初の10カットで引き込まれた。
 マジで。

 あ、映画がある・・・・・・と。

 それでもう十分である。
 原作がいかに素晴らしかろうが、ベストセラーであろうが、関係ない。
 なぜなら、物語が始まる前から、もうこちらは驚かされ、どぎまぎさせられ、これは純然たる映画だ、王道だ、と感服しているのだから。

 列車が撮れる、駅が撮れる、というのは、本物の映画監督かどうかを見分けるリトマス試験紙である。
 冒頭の駅のシーンで映画以外の何物でもない作品のクオリティに、まさにホームから突き落とされたかのような無抵抗に追いやられてしまった。

 小説の映画化、映像による「物語」のビジュアル化、なんて次元はとうに超えている。
 映像による「物語」からの逸脱、解放が、成し遂げられている。
 「読んでから観るか。観てから読むか。」なんて文句は完全にはずしている。

 ただ、ただ、映画である。

 主演の二人、盲目の少女役の田中麗奈も、胸がかきむしられるほど痛切な青春映画『藍色夏恋』(イー・ツーイェン監督、2002年)に出ていたイケメン青年チェン・ボーリンも、映画的時間と空間を体細胞に刻んでいるかのような的確な表現である。
 そのように演出した監督の手腕は言わずもがな。

 天願大介のこれまでの作品の中では一番だと思う。

 新作は、絶対「暗いところで(映画館)」で観るぞ。


評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!