2007年アメリカ映画。

 お気に入りのニコール・キッドマンが主演しているのでレンタルしたはいいが、「もしかしたら前に借りているかも・・・」という一抹の不安。
 最近はこれが多くて困る。途中まで観て気づくことも多い。同じ作品を4回レンタルしたこともある。ブログをはじめたのも、実は記録の必要性を感じたことが大きい。年のせいもあるが、一方で、SFやオカルトやホラーでは、おんなじような趣向の作品が多いってのも事実。
 見始めたら、どうやら未見のようだったので安堵した。(すっかり忘れているだけなのかもしれないが。)

 
 二コールは現在最も美しい女優であるばかりか、演技も上手い。賢いのは確かだが、ジョディ・フォスターのように男勝りの感じはおくびにも出さず、あくまで女らしく、たおやかである。コバルトブルーの切なげな瞳と耳元に甘くささやきかけるような発声に秘密があるのだろう。
 彼女の頭の良さは出演作の選び方を見れば一目瞭然。凡庸な作品、ヒットだけを狙った空疎な作品がない。文芸、オカルト、ミュージカル、コメディ、サスペンス・・・いろいろなジャンルに果敢にチャレンジしている。タッグを組む監督(キューブリック、ラース・フォン・トリア)や男優(ジュード・ロウ、アンソニー・ホプキンズ)も彼女の新しい魅力を引き出す人ばかり。
 彼女の出る作品は、たとえ興行的には失敗しても「なにか光るもの」「なにか新しいもの」がある。『アザーズ』や『白いカラス』など、長く心に余韻を残すものも多い。

 なので、なぜニコールが『インベージョン』に出演したのか、最初不思議な気がした。
 SF小説『盗まれた街』の4度目の映画化(リ・リ・リメイク!)である。同様の設定(人間に寄生し地球人のふりをしながら仲間を増やしていく宇宙人)は、今では掃いて捨てるほどある。ダニエル・クレイグとの共演は確かに魅力的だろうが、いまさらこんな王道の物語をニコールが演らなくても・・・。

 もちろん、原作を現代風にアレンジしているので、宇宙人と言っても人の姿はしていない。飛沫感染で増える未知のウイルスである。感染すると、人間としての外見はそのままで、中身だけ変わってしまう。当人の考え方や記憶や能力や癖はそのまま残り、感情部分だけを喪失する。だから、感染した人間は一様に無表情になる。姿かたちは昨日と同じ家族・友人なのに、どこか変だ。その違和感の広がっていく様子が前半のサスペンスを醸成する。
 ちょっと工夫しているのは、このウイルスは人間のREM睡眠中の分泌物と化学反応を起こすことで発現するところ。前の夫タッカーから感染してしまったキャロル(ニコール)は、『エルム街の悪夢』のナンシーさながら、襲い来る睡魔との闘いに投げ込まれてしまう。(これはつらいよな)
 後半は、スリルとアクションの出番。タッカーに息子オリバーを奪われたキャロルは、同僚で恋人のベン(ダニエル・クレイグ)らと共に追跡捜査をする。キャロルの母性愛全開。実生活でも四児の母(うち二人は養子)であるニコールのリアルな演技も全開である。
 「ああ、ニコールってば母性を演じたかったんだな~」
と、ここで納得する。
 ゾンビのように増殖し、街を占拠する無表情人間。次から次へとキャロルに振りかかるピンチ。やっと愛する息子を取り戻し、ドラッグストアに立て籠もるキャロルの前に救いの神のごとく現れたベン。ほっとしたのもつかの間、ベンは感染・発症し、すでに別人に変貌していたのである。
 ベンは語る。
「我々が何をもたらしたかわかるだろう? 戦争のない世界、そして貧困も殺人もレイプもなく、苦しみのない世界だ。我々の世界は、お互いに傷つけあったり、奪い合ったり、破壊しあったりしない。他人というものがないからだ。それが正しい世界だ。
 一瞬、ためらうキャロル。
 (ベンの言うことが正しいのかもしれない・・・・)
 しかし、そのためにはウイルスに対して免疫力を持つオリバーは殺されなければならない。オリバーの抗体をもとにウイルスを無力化するワクチンが作られてしまうからだ。
 キャロルは拒絶し、死に物狂いの逃走を再開する。
 最終的には、キャロルとオリバーは助かって、ワクチンは出来あがって、人々は回復し、世界は元通りになる・・・。
 めでたしめでたし。

 最後のシーンは、キャロルの家の朝食風景。
 オリバーとベン(結婚した)との平和な日常を取り戻したキャロルの頭に、ふと、いつかパーティーで出会ったロシアの外交官の言葉が甦る。
 「犯罪も戦争もない世界では、人間はもはや人間ではなくなるだろう。」
 食卓からキャロルに微笑みかけるベンの手には、世界のいたるところで連日起きている殺人や戦争を伝える新聞がある。


 4度目のリメイクの肝がここで明らかになる。
 これまでの映画では宇宙人のインベージョン(侵略)を防ぐことは善であり、自明の理であった。結末で元通りの日常がよみがえってハッピーエンドだったのである。
 しかし、今回は必ずしも手放しで喜べない。なぜなら、もし人類すべてがこのウイルスに感染してしまえば、戦争も犯罪もない「理想の」世界が訪れていたかもしれないからだ。環境問題も飢餓も解決し、地球は人類だけでなく、ほかの生命にとっても素晴らしい惑星になっていたかもしれないのだ。その代償として人類が支払うのは、感情の喪失だけで良かったのだ。
 そのことが、人間という種の地球上での存在価値を逆から照射する。
 地球にとって、誰が「侵略者」か。
 「人間が人間である限り、平和も共存もありえない。」という苦い現実を観る者につきつけて、映画は終わる。
 
 やっぱり、ニコールの出る映画は、一筋縄ではいかない。


評価:B-

参考: 

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
         「東京物語」 「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
         「風と共に去りぬ」 「未来世紀ブラジル」 「シャイニング」 「未知との遭遇」 
         「父、帰る」 「フィールド・オブ・ドリームス」 「ベニスに死す」 「ザ・セル」
         「スティング」 「フライング・ハイ」 「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」
         「フィアレス」 ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
         「アザーズ」 「ポルターガイスト」 「コンタクト」 「ギャラクシークエスト」 「白いカラス」 
         「アメリカン・ビューティー」 「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
         「グラディエーター」 「ハムナプトラ」 「マトリックス」 「アウトブレイク」
         「タイタニック」 「アイデンティティ」 「CUBU」 「ボーイズ・ドント・クライ」 
         チャップリンの作品たち   


C+ ・・・・・ 退屈しのぎにはちょうどよい。レンタルで十分。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
         「アルマゲドン」 「ニューシネマパラダイス」 「アナコンダ」 「ロッキー・シリーズ」

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ~。不満が残る。 「お葬式」 「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
         「レオン」 「パッション」 「マディソン郡の橋」 「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。もう二度とこの監督にはつかまらない。金返せ~!!