ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

石井聰亙

●  よしりんの予見 映画:『逆噴射家族』(石井聰互監督)

 1984年日本映画。

 『水の中の八月』が良かったので、石井監督の初期の作品を借りてみた。
  
 まず、役者達の個性が光っている。
 当時DJとして人気絶頂だった、というよりDJという職業を大衆に認知させた小林克也が、真面目で小心で思い込みの激しい父親役に見事にはまっている。母親役の倍賞美津子は上手い。息子役(有薗芳記)と娘役(工藤夕貴)も漫画チックなキャラクターを存分に愉快に演じている。祖父役に植木等を配して、完璧なペンタグラム(五角形)を成している。
 バランスのいい家族の間の死のバトル・ロワイヤル。

 戦闘前のサスペンス効果を盛り上げるのに、映像表現に依らずロック音楽に頼っている、肝心の戦闘部分の演出が雑で今ひとつ迫力に欠ける、など稚拙さは目立つけれど、家を失った一家が高速道路の高架下で食卓を囲む最後のシーンに見られる映画的時間と空間の幸福感には、石井監督の才能の曙光が紛れもなしに認められる。



 ところで、小林よしのり原案・脚本である。
 『東大一直線』『おぼっちゃまくん』『最終フェイス』など、自分は小林よしのりの漫画を楽しんできた。ファンであったと言ってもよい。それが『ゴーマニズム宣言』以降、楽しめなくなってきた。どんどんどんどん右傾化し、教条主義になり、今では彼がどのあたりにいるのか見当もつかない。もう二度と『おぼっちゃまくん』のように子供達に愛される作品は描けないだろう。残念である。
 だけど、小林よしのりが「変わった」「おかしくなった」というわけではなかろう。そう思うのはこちらの勝手な偏見と期待の押しつけで、もともとああいう狂気なところがある人なのだと思う。彼としては過去の人気少年漫画家時代の自分と今現在の自分との間に整合性はみているのだろう。彼の漫画の面白さは明らかに狂気と紙一重のところにある発想の天才性にある(あった)。
 そういう目で見ると、この映画の主人公・小林勝国(小林克也)が次第に精神を破綻させていく姿は、小林よしのりのその後の変貌に重なる。
 「自分の家族(国)はどこかおかしい」という正確な認識から始まって、「自分がなんとかしなければ」という(誰に頼まれたでもない)過剰な責任感を背負い、元軍人の父親の扱いに困り果て、その居場所作りのために買ったばかりのマイホーム(戦後民主主義)のリビングの床に穴を開ける。本来の生真面目さが目覚めた狂気を煽り立てる。愛する家族を守るためには家族を皆殺しするしかないという本末転倒に陥り、最後は家を全壊させる。

 あたかも84年の時点で、小林よしのりは今後の自分を予見していたかのようである。



評価:C+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」       

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

● 映画的愉楽とは 映画:『水の中の八月』(石井聰亙監督)

 1995年。

 石井聰亙、イシイソウゴと読む。
 改名して今は、石井岳龍(イシイガクリュウ)と名乗っているらしい。


 小さい頃、電車に乗るのが好きだった。
 座席を確保すると、すぐさま靴を脱いでシートに這い上がり、窓を向いて正座する。そうして、窓外を飛ぶように過ぎてゆく景色を見るのが何よりの歓びであった。目的地に着いて遊ぶことよりも楽しかったかもしれない。(最近、そういう子供を列車の中で見かけなくなった。)
 昭和40年代の首都圏は、山の手線沿線駅から私鉄で40分も行けば畑や草ぼうぼうの野原が広がっていて、地平線の向こうには晴れた日には富士山がくっきりと見えていた。子供には固くて重いガラス窓を開けると、プーンと肥やしの匂いが車内に入り込んできて、周囲の乗客の迷惑そうな顔にあわてて母親が窓を閉めたものである。「汽車ぽっぽ」の唄そのままに、畑も家も鉄橋も看板も踏み切りも踏み切り待ちの人も車も、目に映る何もかもが新鮮で、面白く、愉快であった。
 とりわけ興奮したのは、都心から来る下り列車とすれ違う瞬間である。
 窓ガラスを震わせる風圧と轟音、帯のように縞模様を作ってシュルシュルと眼前をすり抜けていく車体、列車が通り過ぎた瞬間にパッとよみがえる田園風景。まだ物の名前も意味も多くは知らなかった年頃、純粋に音と光と色彩と運動と速度とそのすべての変化を楽しんでいたのである。

 自分にとって映画的愉楽とはそのようなものである。

 人が「物語」を持つ前に出会ったはずの「世界」との遭遇、その驚き。
 分節化され、定義され、価値づけられ、体系化されてしまった「世界」の見方を身につける過程において、見失ってしまった「世界」のありのままの姿、その豊饒。
 それは、たとえば好奇心から知らない路地に踏み込んで方向を失い、途方にくれて夕暮れの街をさまよっているときに、突如として、そこが普段自分が仕事で往来している通りであったことに気づき、その瞬間、周囲の事物が脳内で定石通りに組み立てられていく際に感じる惑乱のような感覚である。

 映画的愉楽は、しかし、幼子の見る「世界」とは違う。
 なぜなら、観る者はすでに「物語」を知り、多かれ少なかれ、それに縛られているからである。
 大人になるとは「物語」を持つことである。それがどんな類いのものであれ。

 観る者は何らかの「物語」を期待して映画を見る。恋愛物語、冒険物語、戦闘物語、成長物語、プロパガンダ、家族愛、人類愛、動物愛・・・e.t.c.
 そうした「物語」なしの映像などはほとんど考えられない。どんな映像美が用意されていようと、それだけでは数分もすれば飽きてしまうだろう。万華鏡を2時間も覗いていられるだろうか。
 人は「物語」によるカタルシスを求めて映画を見る。
 それは映画芸術のなくてはならない、無視できない一面である。
 映画とは、ショットの連鎖により意味を発生させることで「物語」を語る形式である。

 しかし、映画芸術は「物語」を語るだけではない。それなら、小説で十分ではないか。テレビドラマで十分ではないか。ラジオドラマで十分ではないか。
 ショットの連鎖が「物語」と同時にはからずも産み落とす、光と影と色彩と運動とリズムとそのすべての変化、肌触り。それこそが、他の芸術形式には見られない映画ならではの表現領野である。観る者が、世界をも自分をも覆い尽している「物語」から、ほんの一瞬解放されて、幼子の頃に親しんだナマの「世界」と邂逅する瞬間である。
 そのこと自体が目くるめく体験であるが、それによってはじめて「物語」が相対化され、観る者は、人が「物語」を生きることの喜びと哀しみと切なさと愚かさと不自由とを感得するのである。
 それは、人が「大人」になってしまった苦さであり、同時に、ボケない限り「大人」を越えられない悲しみである。


 文句なく、この作品は映画的愉楽に満ちている。

 物語そのものはどうでもいいし、どうってことはない。『時をかける少女』同様、少年少女の淡い恋を描いたSFファンタジーとして見てもいいし、『ほしのこえ』(新海誠監督)など2000年代のセカイ系作品群の登場を予告する映画と見てもいい。
 味わってほしいのは、「物語」と関係なく画面に現れ消えていく乗り物たちの運動。バス、オートバイ、飛行機、祭りの山車、遠くの高速を流れる車。「物語」と関係なく差し挟まれるショット。路地、雲、水しぶき、校庭、扇風機。文物の表情と豊饒をこそ愉しんでほしい。

 主役の少女・葉月泉を演じる小嶺麗奈は、涼やかなまなざしが印象的である。
 友人の美樹役、顔立ちといい抜群のスタイルといい、ずっと若くて元気な頃の宮沢りえかと思って観ていたが、松尾れい子という名の別の女優であった。

 惜しむらくは、ちょっと長い。
 117分は要らない。90分におさめたら傑作になったであろう。

 
 
評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


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