ソルティはかた、かく語りき

首都圏に住まうオス猫ブロガー。 還暦まで生きて、もはやバケ猫化している。 本を読み、映画を観て、音楽を聴いて、神社仏閣に詣で、 旅に出て、山に登って、瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

稲垣浩

● 70年覚えてる 映画:『無法松の一生』(稲垣浩監督)

1958年東宝

 『無法松の一生』(原作は岩下俊作の小説)は、映画で4回、テレビで4回、制作されている。国民的人気のストーリーであり、無法松は愛されキャラなのである。村田英雄の歌でもよく知られている。
 が、ソルティはタイトルから森の石松みたいな任侠もの、あるいは子連れ狼みたいな殺陣中心の時代劇と勘違いしていたので、これまで食指が動かなかった。
 先日職場の老人ホームで利用者らとお茶を飲みながら雑談しているときに、なぜか和太鼓の話になった。と、90歳を超えた女性利用者Kさんが、「和太鼓と言えば、『無法松の一生』は素晴らしい映画だから、あなたぜひ観なさい」とおっしゃる。Kさんによれば、「若い頃に学校の先生に薦められ友人らと観に行って、とても感動した」のだそうだ。とすれば、1943年版(74年前)の阪妻主演の映画だろう。
 どうやらソルティの想像とは違い、人情物で‘忍ぶ恋’がテーマらしい。(だから、当時キャピキャピの女学生であったKさんは今もストーリーを空で言えるほど感動したのである)
 Kさんと同じ阪東妻三郎主演の1943年版を観たかったが、近所のTUTAYAには置いてなかった。同じ稲垣浩監督が撮ってベネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)に輝いた三船敏郎主演の1958年版を鑑賞した。

 4回の映画化における主要スタッフとキャストを並べてみよう。

1943年版(大映)
監督 稲垣浩
脚本 伊丹万作
音楽 西悟郎
撮影 宮川一夫
出演者
  • 無法松(富島松五郎) 阪東妻三郎
  • 奥さん(吉岡良子) 園井恵子
  • ボン(吉岡敏雄の少年時代) 沢村アキラ
  • ボンの父 永田靖
  • 結城重蔵 月形龍之介
上映時間 99分(現存78分)

 脚本の伊丹万作は、『お葬式』『マルサの女』の伊丹十三監督の父親である。宮川一夫は、言うまでもなく日本が世界に誇る名カメラマン。『羅生門』『雨月物語』『近松物語』『破戒』など手がけた傑作は枚挙の暇が無い。園井恵子は宝塚出身の女優。作品公開の2年後に広島で被爆して亡くなっている。ボンの沢村アキラは長じての長門裕之。地域の顔役・結城重蔵を演じる月形龍之介は、往年の時代劇スターだが、水戸黄門役でも名を馳せている。モノクロ撮影で、戦時下のため検閲により20分程度削除されている。(どうやら肝心の恋にまつわるシーンがカットされたらしい)
 阪東妻三郎主演の『破れ太鼓』(木下恵介監督、1949)は、この作品屈指の名シーンである‘祇園太鼓の暴れ打ち’のパロディーだったのだな。 

1958年版(東宝)
監督 稲垣浩
脚本 稲垣浩、伊丹万作
音楽 團伊玖磨
撮影 山田一夫
出演者
  • 無法松 三船敏郎
  • 奥さん 高峰秀子
  • ボン .松本薫
  • ボンの父 芥川比呂志
  • 結城重蔵 笠智衆
上映時間 104分

 三船敏郎の演技達者ぶりに感心する。どんな役でもこなせる俳優、すなわち名優だったのだと今さらながら痛感する。高峰秀子も同様。銀幕スターとしてはけっして美人なほうではないが、深く印象に刻まれる。最も田中絹代に近づいた女優は高峰秀子なのかもしれない。芥川比呂志は作家芥川龍之介の長男である。笠智衆の出演はソルティのような笠爺ファンにはうれしいサプライズ。

1963年版(東映)
監督 村山新治
脚本 伊藤大輔
音楽 三木稔
撮影 飯村雅彦
出演者
  • 無法松 三國連太郎
  • 奥さん 淡島千景
  • ボン 島村徹
  • ボンの父 中山昭二
  • 結城豊蔵 松本染升
上映時間 104分

 三國連太郎&淡島千景の「無法松」も非常に気になる。ナイーブな芸術家気質の三國は豪快で竹を割ったような性格の無法松には向かないと思うが、鬼のような演技力でどこまでカバーしているか見物である。淡島の奥さんははまり役だろう。中山昭二はむろんウルトラセブンの隊長である。

1965年版(大映)
監督 三隅研次
脚本 伊丹万作
音楽 伊福部昭
出演者
  • 無法松 勝新太郎
  • 奥さん 有馬稲子
  • ボン .松本薫
  • ボンの父 宇津井健
  • 結城重蔵 宮口精二
上映時間 96分

 伊福部昭がどんな音楽をつけているかが気になる。ゴジラのテーマで有名な人だが、『日本誕生』で見る(聴く)ように民族的なオーケストレイションが冴える作曲家である。勝新はまんま無法松だな。三隅研次のスタイリッシュな映像も気にかかる。

 大映、東宝、東映と当時の大手映画会社がこぞって手がけているところに、『無法松』の絶大な人気を感じる。松竹が撮っていないのは路線が違うからか? 

 無法松のような男が、いまいったい日本のどこにいるんだろう?
 無法松が奥さんに抱いたような献身的な秘めたる恋が、どこを探せばあるんだろう?

 なんだか胸が痛くなるような切ない映画で、Kさんが70年間忘れずにいたことに納得した。
 ソルティは今から40年後、覚えている映画があるだろうか?
 そもそもそこまで生きているだろうか? 


 
評価:A-
 
A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!




● 神々しき人、原節子 映画:『日本誕生』(稲垣浩監督)

 1959年東宝。

 神社巡りが続いているせいか、日本神話への関心が高まっている。
 その昔、ポプラ社の古典文学全集『古事記物語』(高橋正巳著)を読んだので、大体の有名なエピソードは頭に入っているが、なにしろ子供向けなので性愛描写はとんと記憶にない。ギリシャ神話の例に見るように、神々のまぐわい(性愛)は神話の核である。とりわけ、多産を言祝ぐ日本神道にあって性は重要である。
 そんなことを思いながら、気になっていた『日本誕生』をレンタルした。182分あるこの映画をテレビ用に編集したものを昔観たような覚えがある。

 CG全盛の現代で、一昔前の特撮技術はきっとちゃっちく見えて笑ってしまうだろうと思っていたのだが、なんのなんの、改めて日本の特撮技術のクオリティの高さを思い知った。ゴジラやウルトラマンを生んだ円谷英二が全面協力しているのだから当然である。手間ひまかけて、創意工夫を凝らして作り上げたのだという心意気に何より感動してしまう。
 それに、特撮やセットを生かすも殺すも監督の腕と役者の力量次第なのだということが良く分かる。どんなにCG技術が向上して臨場感ある迫力ある映像が生み出されようが、演出と演技のレベルが低ければドラマとしてのリアリティはまったく備わらない。それは、評判の芳しくない昨今のNHK大河ドラマを見れば歴然である。


 とにかく役者の顔ぶれが凄い。東宝映画1000本目の威信をかけただけある。
 ざっと挙げるだけでも、三船敏郎、田中絹代、原節子、杉村春子、司葉子、中村鴈治郎、東野英治郎、宝田明、志村喬、鶴田浩二、左卜全、乙羽信子、エノケン、三木のり平、天本英世・・・・。どこに誰が何の役で出てくるかを確かめるだけでも存分面白い。
 しかも、重要な役どころを、三船敏郎(ヤマトタケル、スサノオの二役)、杉村春子(神話の語り部の老婆)、田中絹代(タケルの叔母で伊勢神宮の斎王)、原節子(アマテラス)、司葉子(タケルの妻)、東野英治郎(タケルの敵方の大伴一族の長)という華のある演技派が押さえているので、話がしまること。ドラマにリアリティをもたらすのは役者なのだとつくづく思う。


 音楽もまた素晴らしい。
 子供の頃からゴジラや大魔神で聞き馴染んでいる伊福部昭だが、古代という舞台に似つわかしい曲を、ヤマト、熊襲(中国・朝鮮風)、東国(アイヌ風)と民族ごとにふさわしい調子で書き分けて、物語に燦然たる効果を与えている。


 『日本誕生』というタイトルに内容的に誤りはないが、本筋は日本古代の英雄ヤマトタケルの物語である。
 父王に遠ざけられ、熊襲征伐や東国征伐を命じられ、最後は大和に帰る途上で客死し、白鳥になったこの英雄のドラマチックな逸話を中心に、ところどころに日本神話の有名なエピソード(イザナミ・イザナギの国産み、天の岩戸、スサノオのヤマタノオロチ退治など)をはさんでいく構成は、長尺を飽きさせない工夫が見られる。
 とりわけ、原節子がアマテラスを演じる天岩戸シーンが魅力的。この役にこれほどピッタリ合う女優は、日本の女優の歴史を見渡しても他に見つかるまい。吉永小百合では威厳に欠ける。岩下志麻では幻想性に欠ける。京マチ子では気品に欠ける。山田五十鈴では明るさに欠ける。次点で山本富士子、別次元で坂東玉三郎、美輪明宏か。「神々しさ」を演じるのは、美貌と演技力だけでは無理なのだということが分かる。
 岩屋の前で踊り狂うアメノウズメを乙羽信子が、岩戸を開くタズカラノミコトを第46代横綱の朝潮太郎が演じているのも見所である。


 ヤマトタケルの物語には、日本男児の理想が描かれている。それは、いわゆる近代的な「男らしさ」とは微妙に異なる。
 たとえば、タケルは父親に愛されないことを悲しみ人目もはばからず大きな声で泣き喚く。熊襲征伐に際しては女装する。妻に対しては実に細やかな愛情を振り向ける。
 この魅力的なヤマトタケルを世界の三船がこれまた魅力的に演じている。大らかな感情表現、部下たちへの深い愛情、高いこころざし、平等を愛する心、あくまで正直であくまで潔い。そのうえ剣さばきの見事なこと。こんなふうに日本男児を演じられる風格と技量のある俳優がいまでは思いつかない。
 
 人と人とが嫉妬し差別し争いあう世の中に、ヤマトタケルは慨嘆する。
「今の世の中では思いを音にしたらみな哀しい調べとなる。天岩戸を開いたような、あの大らかな笑いに満ちた高天原の調べがこの地上には必要だ。それが日本人本来の心なのだ。」


 これがこの大作にかけた制作陣の心からの思いなのであろう。
 1959年、今から50年以上も前の願いである。



評価: B-



A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」 
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


 


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