1948年アメリカ映画。
「映画って本当にいいもんですね~。」の水野晴郎氏が選んだ「DVDで観る世界名作映画」シリーズの一本。
ある朝目覚めたら、髪の毛がすっかり緑色になっていた戦災孤児のピーターは、周囲の好奇の目や差別、学校仲間からのいじめにも負けず、それを戦争の悲惨さを世界に伝えるために自分に課せられた使命ととらえ直し、誇りをもって明るく生きようとする。
しかし、育ての親はじめ周囲の大人たちの「髪を切れ」という圧力は強く、衆人環視の中、丸坊主にさせられてしまう。
すでに評価が定まっている通り、戦闘シーンのない反戦映画である。それで誤りはないのだろうが、それだけではない。
というのは、ジョセフ・ロージー監督は、この作品を取った数年後に「赤狩り」でアメリカを追われ、イギリスに亡命するからだ。世間から危険視され、迫害を受ける緑色の髪の少年の姿に、当時のアメリカ社会における共産主義者(と目された人々)、そしてロージー監督自身を重ね見ることは自然であろう。
そして、この作品は、「緑色の髪」という寓意的表現を用いることにより、共産主義者に限らず、あらゆる少数者、異端者に対する差別と迫害のありようを描き出すことに成功している。
少年が床屋の椅子の上で涙を流しながら丸坊主にされるシーンの残酷さは比類ないものである。
それは、社会の側から見れば、教育であり、矯正であり、脱洗脳であり、受容のための儀式であるが、個人の側から見れば、自由の剥奪であり、自己の放棄であり、魂の崩壊である。
長い目で見れば、個人の受けた損傷は、結局、その社会自体の損傷にほかならない。なぜなら、他人に許さないものを、人はおのれに与えることはできないからだ。
赤狩りの過去を持つアメリカが、新自由主義の行き過ぎを止めることができないのはそのせいだろう。
ジョセフ・ロージーの作品は、日本未公開のものが多く、レンタルショップでもほとんど見かけることがない。自分もオペラ映画である『ドン・ジョバンニ』くらいしか見ていない。(と思う)
なので、断言はできないのだけれど、どうもこの『緑色の髪の少年』には、同性愛者差別に対するプロテストが潜んでいるような気がする。髪が緑色になった原因を大人たちが追究するシーン(「牛乳のせいか、水のせいか」)や、少年が「自分がなりたくてなったんじゃない!」と叫ぶシーンなど、妙にブライアン・シンガー監督の『X-MEN』(明らかなゲイ映画)と呼応するようなダブルミーニングがある。
ほかの作品でも、ゲイという噂のあった男優ダーク・ボガートやヴィスコンティお気に入りのヘルムート・バーガーを使っているところ、リズ・テーラー主演の『夕なぎ』の原作はカミングアウトしていたゲイの戯曲家テネシー・ウィリアムズであること、未見であるが『召使』や『秘密の儀式』の同性愛的匂いのする筋書き、などから想像するに、どうもジョセフ・ロージーはゲイセクシュアリティを持っていたのではないだろうか?
だとすると、この『緑色の髪の少年』は、ヒッチコックの『ロープ』同様、もう一つ深い意味を持った、当時としてはかなり挑戦的な作品と言えるのかもしれない。それは、反戦思想よりも共産主義よりも反米的であったはずだ。両作品が同じ年に撮られているのは、どういう星のめぐり合わせか。
水野晴郎が選んだ「DVDで観る世界名作映画」シリーズの一本として販売されていた。
評価: B+
参考:
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」 「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」 「未来世紀ブラジル」 「シャイニング」 「未知との遭遇」 「父、帰る」 「フィールド・オブ・ドリームス」 「ベニスに死す」 「ザ・セル」 「スティング」 「フライング・ハイ」 「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」 「フィアレス」 ヒッチコックの作品たち
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」 「ポルターガイスト」 「コンタクト」 「ギャラクシークエスト」 「白いカラス」 「アメリカン・ビューティー」 「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」 「ハムナプトラ」 「マトリックス」 「アウトブレイク」 「タイタニック」 「アイデンティティ」 「CUBU」 「ボーイズ・ドント・クライ」 チャップリンの作品たち
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」 「ニューシネマパラダイス」 「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ~。不満が残る。
「お葬式」 「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」 「パッション」 「マディソン郡の橋」 「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!