ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

藤野やまなみ温泉

● 春来襲!秋山二十六夜山(972m、山梨県上野原)

●歩いた日  3月9日(土)
●天気    晴
●タイムスケジュール
 8:28 中央本線「上野原」駅発、山梨急行バス乗車
秋山二十六夜山 002 9:13 「浜沢」バス停着
      まんじゅう屋「つるや」
 9:30 歩行開始
10:00 あずまや
10:30 眺めの良い露岩
11:20 登頂
      昼食・昼寝
13:00 下山開始
14:10 「下尾崎」バス停
14:20 「寺下」バス停
      歩行終了
14:48 山梨急行バス乗車
15:30 「上野原」駅着

●所要時間 4時間50分(歩行2時間30分+休憩2時間20分)

秋山二十六夜山 015


 なんともゆかしい名前の山である。
 二十六夜というのは新月(朔)から数えて26番目の夜のことである。古く(一説によると平安時代)から、この夜の月の出を待って山頂付近でまつりを行う慣習があったことから、この名が付いたらしい。
秋山二十六夜山 001 二十六夜の月は有明の月。夜明け前に月が昇ると、全員で月を拝みながら無病息災や農作物の豊作、養蚕の成功などを祈願したと伝えられている。この地域(秋山村)ではその名残である二十六夜碑あるいは十三夜碑をあちらこちらの路傍で見かけることができる。

 たまたまこの山に登ろうと思い立ったのであったが、あとから調べてみると、なんと3月9日はまさに二十六夜にあたっていた。しかも、旧暦の1月26日である。正月二十六夜の月を拝むと幸運が訪れるという。
 今回も山に呼ばれていたとしか言いようがない。

秋山二十六夜山 003 浜沢バス停で降りたのは自分を含めて4名。今日も静かな山歩きが楽しめそうだ。
 3人はさっさと近道を使って姿を消してしまったが、自分はバス停の近くのまんじゅう屋「つるや」に寄る。
 上野原は江戸時代から酒まんじゅうで有名である。「つるや」のまんじゅうは通常の3倍くらいの大きさ(150円)を誇る。素通りできるわけがない。店内を覗くと、立派な石の竈から勢いよく吹き上げる炎の上で、大きな鉄鍋がふつふつと湯気を上げている。店先の床几に腰掛け、地元の人の方言会話を聞きながらゆっくりと頬張る。程良い甘さの粒あんが美味しい。

秋山二十六夜山 004 エネルギーを充填し、歩行開始。
 バンガローが建ち並ぶキャンプ場を抜けて山道に取りつく。いきなりの急登、しかもほぼ直線である。これがずっと山頂近くまで続く。アキレス腱が痛くなった。途中途中で適宜に休憩を取るのが利口である。ちょうど良い具合に30分ごとに、気持ちの良い風が抜ける東屋、眺めの良い露岩と現れる。露岩からは、白峰三山(北岳、間ノ岳、農鳥岳)が望めた。

秋山二十六夜山 006


 途中、非常に危険なところがあった。
 右側は表面が滑らかな(つかみどころのない)大岩がせり出し、左側は急斜面の崖、その間を人一人やっと通れるくらいの幅の山道が3メートルほど続く。ただでさえ注意が必要な箇所なのに、なんと岩の影になっている道全体に厚い氷が張っている。試しに片足を置いてみると見事に滑る。普通に歩いたら間違いなく崖に落ちるだろう。
 どうやって向こう側に行くか?
 10分ほど呻吟し、まずリュックを下ろし向こう側にほうり投げ身を軽くしてから、抱きつくように岩に捕まって腰を低くし、一歩一歩足の置き位置を確かめカニ歩きしながら、どうにか脱出した。
 思い出したのは、小さい頃に見たジュール・ベルヌ原作の冒険映画『地底探検』の1シーンである。あのとき感じたハラハラドキドキが山登りの趣味につながっているのだな。

秋山二十六夜山 008 山頂はそれほど広くない。木々に遮られて眺望もいま一つ。
 だが、春風の爽やかな陽当たりの良い、気持ちの良い空間である。
 反対側から登ってきた中高年の一団が賑やかであった。
 山頂近くに雑木林の広場がある。その一角に卵を立てたような形の二十六夜碑があった。この広場で昔の人は月の出を待って酒を飲み博打に興じたのであろう。
 その姿を思い浮かべつつ、誰もいない広場の片隅で昼食を広げる。
 今日は、おにぎり(しゃけと昆布)、ゆで卵、漬け物、イワシの缶詰、緑茶。
 腹がふくれたら、空を仰いで横になる。
 至福の時・・・。

秋山二十六夜山 010

秋山二十六夜山 007 秋山二十六夜山 009


 最近とある会合で知り合ったSの姿を思い浮かべる。
 結ばれる確率はゼロに近いが、思うのは勝手だからな~。と言うより、「勝手に思ってしまう」のだ。
 旧正月二十六夜詣での威力はどんなもんだろう?

 ぽかぽかの陽光にあたって一眠りしたら13時になっていた。
 1時間40分も山頂にいた。
 もっとも帰りのバスが午後は一本しかないので、早く降りすぎても仕方ない。

 下山はつづら折りが続き、登りほど急ではない。
 下りきったところに沢があるが、今は水が枯れている。
 というか付近一帯崖崩れか地滑りでもあったようで、崩れた岩や木の残骸で流れが断ち切られている。四方八方に枯枝が散乱し、森の中のあちこちに裸の岩が捨て置かれたように周囲との調和無く転がっている。
 全体に「山が崩壊している」という印象。無惨な光景であった。
 信仰が廃れると、こんな風になるのだろうか。


秋山二十六夜山 011


 バスの時刻まで時間があるので一区間歩く。
 寺下のバス停の前にも立派な二十六夜碑が建っていた。
 碑の下に座って、秋山村の日常風景を眺める。
 家の改築をしている男達の姿が目に入る。建築屋に頼まず自分たちの手で建て増ししているらしい。息子、父親、祖父、ご近所さん(?)、いろいろな世代の男達が上野原弁であれこれ言い合う姿が面白い。


秋山二十六夜山 016


秋山二十六夜山 017



 帰りは藤野駅で下車し、やまなみ温泉に浸かる。
 露天にいた3人の男が「会派がどうの」「地域活性化がどうの」「パーティーがどうの」と盛んに話していた。どうやら相模原の市会議員らしかった。
 聞いていると、「前の相模原」という言葉が会話のはしばしに出てくる。
 そう、1955年に誕生した藤野町は、2007年に相模原市に編入されたのであった。
 (風呂の入口にかけてある大きな凧はそのときの記念のものらしい。)

 風呂上がりの生ビールの一杯と共に、下界に降りてきたなあと感じた瞬間であった。

秋山二十六夜山 018



● 富士のお裾分け:倉見山(1256m、山梨県)

倉見山 1月14日に降った大雪(都会では)がまだ残っている可能性を考慮しながら、この時期に日帰りで登れる山を探す。冬は眺望がよいので富士山の見える山。できたら、未踏のところ。
 といった条件を設定し、数冊あるガイドブックをあれこれめくっている瞬間から、すでに山歩きは始まっている。心は山に行っている。

 倉見山は、富士急行線の3駅(東桂駅、三つ峠駅、寿駅)にまたがって線路とほぼ平行に、穏やかなたたずまいを見せて横たわっている。駅からスタートして駅をゴールにできるから、帰りのバスの時刻を気にしなくて良い。富士山との距離は約20キロ、間にはさむ山がない。
 つまり、杓子山や三ツ峠山や石割山と並んで最も富士山に近い山の一つである。眺望は推して知るべし。

倉見山 024●歩いた日  2月3日(日)

●天気    晴

●タイムスケジュール
 8:30 富士急行線・東桂駅
      歩行開始
 8:45 倉見山登山口
11:00 倉見山頂上
11:10 展望台
      昼食
12:00 下山開始
13:10 富士見台
13:40 下山(向原登山口)
14:00 富士急行線・寿駅
      歩行終了

●所要時間 5時間30分(歩行4時間+休憩1時間30分)

●歩数   18500歩


倉見山 001  東桂駅で下車した登山客は自分一人。今日も山独り占めか。
 駅舎は日当たりのいい場所に立つ可愛らしい小屋。日曜早朝ののどかな雰囲気に包まれている。駅前のベンチでは近所に住むらしい老人が朝日を浴びていた。自動販売機で買ったホットコーヒーを飲んで、いざ出発!

 倉見山登山口は長泉院というお寺の墓地の中にある。手を合わせ慈悲の瞑想をしてから敷地に足を踏み入れる。
 東桂からの登山路は山の北斜面にあたる。思った通り、雪がまだ解けずに残っていた。道は雪に埋もれているが、前に登った人の足跡がついているので、それを辿れば迷うことはない。雪に足をとられることもない。ただし、滑らないよう注意する必要がある。一歩一歩足の置き場を確認しながら、ゆっくりと登っていく。大雪後に最初に登った人は大変だったろう。どこが山道だか分からない状態で新雪を踏むのは勇気が要る。
 高度を上げるにつれ、汗ばんできた。途中でノースフェイスのレインウェアを脱ぐ。

     倉見山 003 

     倉見山 005

 
 自分はいつも50分歩いて10分の休憩を取る。このペースだと、疲れを感じる前に体を休め、息を整えることができる。
 休憩する時はザックを下ろし、安定した場所に腰を下ろし、喉を潤し、できるだけ周囲の音に耳を傾ける。風の音、鳥の声、遠くの列車の音、自動車のクラクション、猟銃の発砲音・・・。山の中は意外と喧しいものである。けれど、その喧しさは不快ではない。かえって静謐が引き立つような喧しさである。
 そんなことを考えていたら、どこかからコンコンコンと木を叩くような音がする。
 なんだろう?
akagera5 音のする方に目を凝らしてみると、小鳥が木の幹にとまって嘴で木をつついている。双眼鏡を取り出して焦点を合わせる。
 アカゲラだ!
 官女の袴のごとき下腹の赤い色は間違いない。
 軽快にリズミカルに無我夢中で叩いている。天然の大工さん。
 気がつくと、森のあちらでもこちらでも同じ打音が響いていた。
 それによって静寂が一層高まったのだが、むしろそれは心の静寂なのかもしれない。


 山頂近くの木の間より三つ峠山のゴツゴツした天辺が望まれる。パラボラアンテナが立っているのは御巣鷹山だろう。数年前に見た山頂からの富士を思い出す。

倉見山 007


 頂上までの最後の一登り。
 急な上に、厚い雪が残っていて一苦労。ところどころロープが張ってあるのに助けられる。ロープと木の幹を頼りにどうにか滑らずにすんだ。

 倉見山に登るには、東桂駅下車で北斜面を登るコースと、寿駅下車で南斜面を登るコースの二つが一般である。それぞれ登頂後は、反対の斜面を下りて最初とは別の駅から帰りの列車に乗ることになる。
 今回北斜面を登りに取ったのは、自分の持っているガイドブック(実業之日本社発行『ブルーガイドハイカー中央線沿線の山々』)で紹介されている順路に従ったまでである。
 が、これは大正解であった。
 一つには、先に書いたように、残雪の多い北斜面を登りに取れたからである。同じ雪道ならば下りより登りの方が安全なのは言うまでもない。山頂で出会ったカップルは、寿駅側から登ってきて、自分が登ってきた北斜面を下る計画であると言う。難儀なことだ。思わず「気をつけて」と声がけした。
 もう一つの理由がでかい。
 倉見山は富士山の北にある。だから、北斜面を登りにすると山頂に着くまでまったく富士山が視界に入らないのである。三つ峠や杓子は左右に姿を見せるのに、富士山だけは見えない。
 だから、やっと山頂について、おもむろに目を上げた時に真正面に現れる富士山の圧倒的ないでたちに度肝を抜かれる。
「うわあ~、すごい!!!!」
 叫ぶこと間違いなし。
 山登りの醍醐味まさにここにあり。

倉見山 012


倉見山 009


 これが、南斜面から入ると、最初から富士山が丸見えである。富士山を背にして、あるいは右手にしてずっと登ってくるのだが、途中でいくつもの展望スポットがある。頂上に着く頃には、もう富士山に飽いていることだろう。感動がない。
 倉見山は、絶対東桂から登るべきである。

倉見山 001 山頂でも携帯のアンテナは立つ。
 関西にいる山登り好きの知人に写メで「富士山のお裾分け」する。

 山頂から10分ほど歩いたところに展望台がある。凍りついた残雪に囲まれたテーブルとベンチがいくつか並んでいる。昼食には絶好のスペース。
 目の前に迫る富士山をおかずにしながらの贅沢なランチ。
 空は青々、陽はあたたかい。
 40分ほど独り占めすると、同じく東桂から登ってきた男性が到着した。おそらく、自分の一本後の電車だろう。

 山頂付近で出会ったのは4名。
 下山中は誰とも会わず。
 今日の倉見山は5人のものだった。


 展望台からやや向原方面に下ったところに、山頂や展望台以上の絶景ポイントがある。
 左手前方に聳え立つ富士山から北と西とに流れる長い裾野、右手後方の三つ峠から南へと連なるなだらかな尾根、そして北東側は倉見・杓子・鹿留の山々。その3つの稜線に囲まれた三角形の盆地が富士吉田市。住宅の密集する縁を中央自動車道が蛇のようにのたくっている。
 山に囲まれ、山に見守られ、山と運命を共にせざるをえない人々。
 ここに住む人たちにとって富士山とはどういう存在だろう?
 生まれた時から常に目の片隅にある、あまりに大きい、あまりに美しい、あまりに神々しい山。
 父のような存在だろうか。母のような存在だろうか。神のような存在だろうか。それとも無かったら困るけれど、普段は意識しない空気のような存在だろうか。
 右手の尾根の彼方には南アルプスがまばゆく輝く白頭を覗かせていた。


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 下山は、目の前に見え隠れする富士山を見ながら、なだらかな道を下る。
 子午線を通過した太陽からの光の反射、大気中の湿度、そして高度の変化によって刻々と姿を変えていく富士山。あとは下るだけという気楽な気分(本当は下りの方が事故りやすのであるが)を満喫しながら、富士山の七変化を楽しむことができるのが、南斜面を下りに取るべき3つめの理由。
 ブルーガイド、さすがだ。

           

倉見山 018



倉見山 016 自分の持っているブルーガイドは2002年発行。そこでは、富士見峠から向原峠を経て向原の集落に下りるルートが紹介されている。それだと、下山してから林道を1時間ばかり歩くことになっている。
 富士見峠から「寿駅→」の道標に従えば、山道をくだった最後に赤い鉄の階段を下りて、車道に降り立つ。すぐそばにシチズンの倉庫が建っている。ここから寿駅までは歩いて20分ほどである。
 このルートが紹介されていないのは、2002年にはまだ整備されていなかったからかもしれない。ガイドブックは新しいのに限る。
 それにしても、シチズン電子の本社がこんなところにあるとは知らなんだ。

      倉見山 019

      倉見山 021

 寿駅は無人駅。
 かつては「暮地(くれち)駅」という名だったのだが、「墓地」と間違われやすいので、改名したのだそうだ。たしかに・・・。

       倉見山 022

       倉見山 023


 中央線藤野駅で途中下車。バスで町営藤野やまなみ温泉に向かう。
 源泉水100%使用、露天あり。大人3時間800円。
 中央線沿線の山登り後によく利用する温泉の一つである。
 日曜の午後だけあって近隣からの家族連れで賑やかであった。
 地場産のそばかりんとうとビールで一日を締める。

倉見山 026





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