JR中央線の駅の構内に貼ってあった西沢渓谷のポスターに惹かれ、メモっておいた。「森林セラピー基地」と謳っているからには相当の‘気’の良さが期待できそう。
 気がかりは人混み・・・。
 平日を選んで、いざ出発!

●日程  8月1日(金)
●天気  晴れときどき曇り、のち雷雨
●標高  1390m(標高差290m)
●行程
10:21 JR中央本線山梨市駅・西沢渓谷入口行きバス乗車(山梨市営バス)
11:20 西沢渓谷入口着
      歩行開始
12:10 三重の滝
13:10 七ツ釜五段の滝
14:10 西沢渓谷終点
      トロッコ道
14:40 大展望台
      昼食休憩
16:15 西沢渓谷入口
      歩行終了
16:25 山梨厚生病院行バス乗車
17:23 JR山梨市駅着
●所要時間 4時間55分(歩行時間3時間55分+休憩時間1時間)

 山梨市駅発1便のバス(9:12)に乗ろうと計画していたのだが、中央線はダイヤが大幅に乱れていた。どこかの駅のホームから転落した人がいたとか。
 最近多いな。
 1便に間に合わないと判断し、特急列車(あずさ3号)をキャンセルして各駅停車でのんびり山梨市駅に向かう。ゆっくり読書ができた。
 山梨市駅はなんにもないところだ。
 ウエイトリフティングの大会があるらしく、駅前広場には案内所のテントが張られていた。そこの女性から西沢渓谷の案内パンフをもらう。

西沢渓谷 001


 2便のバスはガラガラ。終点の西沢渓谷で降りたのは自分一人だった。
 ポスターの効果があまり出ていないようである。
 もっとも、夏休みとはいえ土日やお盆でなければこんなものか。
 終点で降りるときに運転手が言った。
「雨具持って来たかい? 午後から雷雨になるから気をつけて。」
 ギクッ。
 天気予報では30%の降水確率。確かに山間部は雷雨やにわか雨の可能性とあった。
 今のところ真夏の強い日差しが降り注いでいるけれど、どうなることか。頭の中を昨年の瑞牆登山の冷たい記憶がよぎる。

西沢渓谷 002



紅葉の頃 西沢渓谷は秩父多摩甲斐国立公園内に位置し、国内屈指の渓谷美を誇る。笛吹川の上流にあって、毎年4月29日の昭和の日を山開きとし、新緑、避暑、紅葉で人を集め、11月末に通行止めとなる。昭和37年から人力によって開発が始まったというから、比較的新しい行楽地と言える。自分もポスターを見るまでは聞いたこともなかった。
 約4時間で一周できるように遊歩道や案内標識が整備され、大小さまさまな滝や周囲の山々の展望を楽しみながら森林浴できる。
 案内パンフによると、渓谷内のマイナスイオンの最高値は1立方センチあたり18000個(方丈橋付近)とある。都会の生活空間では100~200個、山梨の生活空間では500~1000個だから、抜群の癒し効果である。もっとも、マイナスイオンという物質は科学的に特定されておらず、人体への効果との因果関係も立証されておらず、「似非科学」という説もある。
 
 まずは、遊歩道を少し行ったところにある山の神に今日の無事安全を祈る。

西沢渓谷 003


 ブナ、トチノキ、ミズナラなどの緑が目にやさしい。日差しを遮ってくれて肌にもやさしい。
 人の姿はまばら。
 二俣吊り橋からの光景は、広々として気持ちいい。
 降るようには思えない。

西沢渓谷 004

西沢渓谷 005


 大久保の滝を遠くから眺める。

西沢渓谷 007


 渓流を目指して谷を下りていくと、底の方に緑に囲まれたコバルトブルーの池が出現する。心が沸き立つような色合いは、サファイヤか、はたまたエリザベス・テイラーの瞳のよう。
 三重の滝に到着。(マイナスイオン値17000)
 池のように見えたのは滝壺であった。

西沢渓谷 008


西沢渓谷 011


 ああ、来て良かった!

 一瞬にして、心も体も別次元に運ばれる‘気’の凄さ。
 これまで歩きながらも心を曇らす雑念(失恋の痛手と未練)に囚われていたのだが、一気に妄想が消えうせ、「今、ここ」に意識が集中する。
 マイナスイオンの効果云々は分からないけれど、自然の威力は科学的数値なんかで到底測れない。精神に及ぼす影響は主観的なものだから。
 
 木々の間から空を見上げると、片や入道雲が細胞分裂を繰り返すようにぐんぐんと膨れ上がり、片や黒い雲が流れてきた。
 バスの運転手の言ったことがどうやら当たりそうな気配。
 もうちょっと持ってほしいのだが。
 奥の手を出すか。
 慈悲の瞑想をし、念を空に放つ。
 しばらくすると、雲の合間から再び太陽が顔を覗かせた。
 
 ここからはずっと渓流沿いの歩きとなる。
 ごつごつした岩が並ぶ足元は、よそ見していると、意外に危ない。
 しかし、いくつもの滝と、思わず飛び込みたくなるほど美しく澄んだ滝壺と、軽快な調べを奏でる渓流の連続に、つい足元に注意を向けるのが疎かになる。一度濡れた岩に滑って尻餅をついてしまった。 

西沢渓谷 012


西沢渓谷 013


西沢渓谷 015


 マイナスイオン最高値の方丈橋を渡って、いよいよコース最大の目玉である七ツ釜五段の滝に対面する。
 いやあ。
 豪壮にして麗しく優美な姿は何にたとえよう。
 男性的であると同時に女性的な。
 リボンの騎士か。
 オスカルか。
 その名の通り、上部から五段の滝がそれぞれに美しい滝壺をつくりながら、最後の落差50メートルの瀑布へと連動している。
 日本の滝100選に選ばれるだけのことはある。

西沢渓谷 018


西沢渓谷 020



 渓谷歩きの最後は急な登りが待っている。
 ここで一挙に高度を上げて、山腹につけられたかつてのトロッコ道の址を行く。
 先程そばを通った滝壺を、今度は上空から見下ろす。
 緑とブルーの配色が爽やかで神秘的。

西沢渓谷 024


西沢渓谷 030


西沢渓谷 031

 

西沢渓谷 025


 渓谷めぐりと山歩きの両方が楽しめるとは贅沢このうえない。
 大展望台からは、鶏冠山(とさかやま、2,115m)、木賊山(とくさやま、2,468m)、破風山(はふさん、2,318m)などがよく見える。
 ここで遅い昼食とする。

西沢渓谷 026

 
 空はすでに一面雲に覆われているが、どういうわけか太陽のところだけぽっかりと穴が開いたように雲が途切れている。
 少し足を速めたほうがいいかもしれない。

西沢渓谷 032


 大岩の上に祀られた山の神を拝み、下りの近道をたどって、無事一周を終える。
 バス停到着は、発車時刻10分前だった。

 帰りのバス(乗客3名)に乗って5分もしないうちに、待ち構えていたように空は薄墨の雲で覆われて、路面は一瞬にして黒くなった。

ホントかよ。