ソルティはかた、かく語りき

首都圏に住まうオス猫ブロガー。 還暦まで生きて、もはやバケ猫化している。 本を読み、映画を観て、音楽を聴いて、神社仏閣に詣で、 旅に出て、山に登って、瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

評価C+

● 映画:『パーフェクト・ルーム The Loft』(エリク・ヴァン・ローイ監督)

2014年アメリカ、ベルギー共同製作
上映時間 103分

 ベルギーで10人に1人が観たという大ヒット作『ロフト.』(2008年)のハリウッドリメイク版。
 豪華なロフト(アパートメント)のベッド上に無残な姿で横たわる女性の全裸死体をめぐるミステリーサスペンス。そのロフトこそ、5人の男たちが浮気目的のために妻に内緒で共同購入したのであった。
 市民良識にしたがって警察に届ければ、ロフトのことが、浮気のことが、妻たちにばれる。それはどうしても避けたい。だが、死体をうまく始末しようにも女性の片手がベッドポールに手錠でつながれているのでそれもできない。そのうえ、ロフトの鍵を持っているのは5人の男のみ。つまり、犯人は5人のうちの誰かである。
 ――という興味深いシチュエーションが緊張と謎を生み、ロフトを利用する男たちの自堕落で奔放な性生活の描写が退廃的かつエロティックな匂いを巻き散らす。
 結末はなかなか意外性に満ち、真相は残酷なものである。
 が、トリックとしてみた場合、ずいぶん苦しい。これでは仲間も警察もだませないだろう。もちろん妻たちも・・・。
 そもそも、男友達とつるんで秘密の部屋(ロフト)を共同購入するというのは、一見、浮気を隠すいいアイデアと思うかもしれない。ホテル代も浮くし、クレジッドカードの明細からホテル使用が妻にばれる心配もない。浮気相手とホテルへ出入りする際に知っている誰かに見つからないかとキョロキョロする必要もない。だが、浮気相手との関係がこじれたとき、一発でおじゃんになる。たとえば嫉妬に怒り狂った愛人が妻にたれこんだら、ロフトという証拠があるだけに嘘は隠し通せない。連座している男友達もみな道連れになろう。浮気していたことへの怒りに加えて、勝手にロフトを購入したことへの怒りも加わる。全然よいアイデアとは思われないんだが・・・。



評価:C+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!




● 映画:『鑓の権三』(篠田正浩監督)

1986年松竹
上映時間 126分

 池袋で買い物したあと、なんとはなしに新文芸坐を覗いたら、『ー表現舎50周年記念ー 映画監督篠田正浩と女優岩下志麻の映画人生をたどる』と題した10日間の企画をやっていた。
 「おっ、志麻姐さんだ! 今日のプログラムは何だろう?」
 入口の看板を見ると、『鑓の権三(やりのごんざ)』と『心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)』。
 どちらも近松門左衛門原作の密通ものである。どちらも未見である。
 タイムテーブルをみると、ちょうど前の回が終了したばかりであった。
 数年ぶりに新文芸坐にて二本立てを観ることになった。

 溝口健二監督の大傑作『近松物語』(1954年、原作は『大経師昔暦』)を挙げるまでもなく、近松の心中物は、封建制度・武家社会・儒教道徳の世で、結ばれてはならない間柄にある男女(あるいは男男)が道ならぬ恋におちいり、義理や体面や恥や道理といったしがらみにがんじがらめとなり、窮地に追い込まれて駆け落ちし、追っ手に捕らわれて処刑される、あるいは心中する、という筋書きを旨とする。その意味で、『ロミオとジュリエット』や『トリスタンとイゾルデ』や『アイーダ』と同系統の「社会(世間)V.S.個人」の物語ということができる。
 個人の自由と平等と権利とが尊重される近・現代社会では成立しづらくなった物語機構である。実際、近松作品の主人公たちの置かれている苦境の質を理解し共感するのは、現代人にはなかなか難しいものがある。
 一方、人を好きになる気持ちや恋愛の最中に発生する様々な複雑な感情はいつの世でもそう変わりがないので、そのあたりを演出家や演技者がうまく表現できれば、時代を超えた感動をもたらすことができる。
 残念ながら、篠田監督はその点で失敗しているように思われる。
  
 『鑓の権三』は近松門左衛門の浄瑠璃『鑓の権三重帷子(かさねかたびら)』を原作とする。鑓の名手であり三国一の伊達男である笹野権三(=郷ひろみ)と、その茶道師範・浅香市之進の妻おさゐ(=岩下志麻)との密通の一部始終を描いている。
 権三に郷ひろみを抜擢した篠田のキャスティングの才は讃えるべきものであろう。この映画の作られた1986年当時、日本で「水も滴るいい男」というにもっともふさわしいのは郷ひろみであった。“ヤング”を抜けた大人の落ち着きと今を盛りの男のフェロモンふんぷんたる伊達ぶりは、対・松田聖子と対・二谷友里恵の恋の狭間にあって、全日本女性のオナペットというにふさわしい存在であった。
 サムライ姿の郷ひろみは確かに凛々しくてカッコいい。美男である。女性なら誰でも見とれるであろう。演技は達者とは言えないが、美貌と適役ぶりに免じて大目に見ることはできる。
 が、残念なことに色気がないのである。
 これは郷ひろみのせいではない。明らかに篠田監督と撮影の宮川一夫のせいだろう。男を色っぽく撮ることができていない。ヘテロ監督ゆえなのか、それともヒロインであると同時に細君でもある岩下志麻に遠慮したせいなのか。せっかく郷ひろみという逸材を持ってきながら、その魅力(=セックスアピール)を十全に生かし切れていない。(権三の敵役で出演している日本芸能界のドン・ファンたる火野正平の魅力さえ画面に移し損ねている!)
 このドラマを成立させる肝は、そこにいるだけで女を濡らしてしまう鑓の権三の伊達ぶり如何にかかっている。なぜ自分の栄達にしか関心がないエゴイストの権三に周囲の女達が次々と虜にされていくかというと、黙っていても漂ってくる権三の色気、すなわち男性ホルモンゆえであろう。
 そこがフィルムに定着されなければ物語は回らないし、せっかくの志麻姐さんの高テンションの熱演も空回りするばかりである。その結果、おさゐが本当に権三に惚れ抜いているようには思えない。
 
 これが木下恵介監督だったら・・・と思わざるを得ない。



評価:C+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!






● 奇妙な味 映画 : 『ダークレイン』(イサーク・エスバン監督)

パラドクス原題 Los Parecidos
製作年 2015年
製作国 メキシコ
上映時間 90分

雨により感染する伝染病の恐怖を描き、シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭などで話題となったメキシコ発のパニックホラー。世界中を襲う豪雨によって外見も内面も変貌する伝染病が発生、雨の中に潜む何かを恐れ、理性を失っていく人々の姿を映し出す。(yahoo!映画「ダークレイン」解説より抜粋)


 奇妙な味の不条理映画『パラドクス』を撮った監督。
 原題のParecidosは「類似」の意。
 欧米とは異なる南米ホラーのタッチが興味深い。同じメキシコ(&スペイン共同)製作の『永遠のこどもたち』に通じるグロさと暗さと子供恐怖症が芬々と匂っている。
 子供というのは一般に「邪気なく、可愛く、希望を与えてくれる」存在と思われているだけに、そうでない正体が明かされると絶望にも似た恐ろしさをもたらす。その先鞭をつけたのは『オーメン』(1976、イギリス&アメリカ)、あるいは『ザ・チャイルド』(1976、スペイン)あたりか。どちらも1976年公開というのが興味深い。この頃を境に、世の大人たちは子供を理解できなくなってきたのだろうか? それとも「子供=純真」という固定観念から脱したのだろうか?
 
 ホラーサスペンスでありながら、コメディタッチのところもあってやっぱり奇妙な味。
 メキシカンのマチョイズム(男らしさ賛美)を前提に鑑賞すると、マッチョイズムを揶揄しているように思える部分があってそこは面白い。



評価:C+


A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!






 

● 赤いランプにご用心 映画:『インビテーション 不吉な招待状』(カリン・クサマ監督)

2015年アメリカ映画
上映時間100分


 シッチェス・カタロニア国際映画祭でグランプリに輝いたシチュエーションスリラー、あるいはミステリーサスペンス。
 監督のカリン・クサマは女性である。CGを多用せず、奇をてらわない落ち着いた演出による屋内ロケと役者たちの演技合戦をベースに、丁寧に作られている。演劇的な構成はそのまま舞台に乗っても面白いかもしれない。

 幼い息子の事故死で心に傷を負い離婚したウィル(=ローガン・マーシャル・グリーン)とイーデン(=タミー・ブランチャード)。イーデンはその後音信不通となる。
 2年後、ウィルの元に突然イーデンからディナーの招待状が届く。ウィルが現在の恋人と共にかつての我が家を訪れると、別人のように陽気になったイーデンと新しい恋人デビッドが歓迎してくれた。旧友たち(ゲイカップルを当たり前のように含めているのは女性監督ならではの‘大人らしさ’である)も集まって再会を喜びあうが、ウィルは次第にこの集まりに違和感を持ち始める。
 
 この映画のサスペンスの仕掛けは、ウィルが感じている違和感およびそこから来るゲストとして無作法な行為の数々が、子供を喪った男の解消されていないトラウマが引き起こす妄想のせいなのか、それとも本当にパーティーには何か不吉で禍々しい裏が隠されているのか、観る者には最後の最後まで分からないところにある。
 なのでここで結末は明かさないが、この仕掛けで最後まで引っ張っていく脚本の上手さと主要な役者たちの両義的(どっちにも取れる)演技の巧みさはなかなかのものである。
 特に、元妻イーデン役のタミー・ブランチャードの明るさの背後に透けて見える神経症的な演技と、役者名はわからないがカルト教団のグルを演じる男優の一見慈愛に満ちた引き込まれそうなカリスマ演技が印象に残る。




評価:C+


A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!





● エルム街のレオ 映画:『インセプション』(クリストファー・ノーラン監督)

公開:2010年
製作:アメリカ、イギリス
出演:
  • レオナルド・ディカプリオ
  • 渡辺謙
  • ジョゼフ・ゴードン=レヴィット
  • マリオン・コティヤール
  • エレン・ペイジ
  • トム・ハーディ
  • キリアン・マーフィー
  • トム・ベレンジャー
  • マイケル・ケイン

 『ダークナイト』(2008)や『インターステラー』(2014)のクリストファー・ノーラン監督作品である。ソルティはこれが3本目だが、基本的に‘好き’な監督と言える。単なる「勧善懲悪」あるいは「自己V.S.世界」といった二元性の物語を超えた領域に、最新のCG技術を用いてファンタスティック&リリカルな映像を紡ぎだすところに好感が持てる。欧米風より東洋風、キリスト教的より仏教的なのだ。
 この『インセプション』もかなり深い。
 主人公コブ(=レオナルド・ディカプリオ)は、他人の夢に侵入し、無意識領域にある情報(=本人の隠された欲望や目覚めているときには思い出せない記憶e.t.c)を読み取る能力を備えている。それを逆手にとって、「標的の無意識に新たな情報を埋め込んで(incept)くれ」という依頼を受ける。依頼主は日本人のサイトー(=渡辺謙)である。
 標的の無意識に、「自分は自分の意思によって父から譲り受けた企業をつぶす」という情報を植えつける。覚醒した本人は、まったくの自分の意思と思って「会社をつぶす」。それがライバル会社のトップであるサイトーの利益となる。
 このシチュエイションが、「人は自分の意思によって人生上・生活上のいろいろなことを選択・決定していると思っているが、ほんとうは無意識によってあらかじめ決定されたことを、あとから‘自己(=顕在意識)’によって、あたかも‘自分が決定したかのように’追認しているにすぎない」という前野隆司の「受動意識仮説」を想起させる。あるいは仏教の‘諸法無我’を――。
 
 それ以外は、大スターたちが縦横無尽に活躍する普通のSFアクションである。
 我らが渡辺謙の英語力がどの程度のものか、英語のセリフによる演技力がどの程度のものか、残念ながらソルティには判別つかない。ただ、存在感だけは主役のレオを食うものがある。
 さすがだ。

 夢に侵入し、現実に影響を及ぼす。
 このコンセプトの古典的傑作は『エルム街の悪夢』であろう。



評価:C+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!




● 映画:『骨董屋』(ケビン・コナー監督)

製作年 1995年
製作国 アメリカ
原作 チャールズ・ディケンズ
原題 THE OLD CURIOSITY SHOP
上映時間 181分
出演
  • ネルの祖父/ ピーター・ユスティノフ
  • ネル・トレント/ サリー・ウォルシュ
  • キット/ ウィリアム・マナリング
  • ダニエル・クウィルプ/ トム・コートネイ

 原作を読んだのははるか昔なので、筋はすっかり忘れていた。老人と孫娘との可哀想なストーリーということだけ覚えている。
 「忘れる」ってのは、もう一回新鮮な気持ちで楽しめるという点で必ずしも悪いことじゃない。物語の最後で思いもかけない展開に涙腺が緩んだ瞬間に、「ああ、昔もずいぶんこのラストに泣かされたんだった」と思い出した。そう、ハッピーエンドではないのである。

 ピーター・ユスティノフは、何といっても『ナイル殺人事件』(1978)を筆頭とするエルキュール・ポワロ役が印象に残る。孫娘の稼いだ金を盗んでまで賭博に溺れるギャンブル中毒の男の姿をリアリティ豊かに演じている。さすがだ。
 サリー・ウォルシュは、この作品以外にめぼしい出演作はないようだ。可憐で純粋な雰囲気がネルにぴったり。
 最優秀演技賞に値するのは、トム・コートネイ。この人は、『長距離ランナーの孤独』(1962)で映画デビューしたあと、『ドクトル・ジバゴ』(1965)、『イワン・デニーソヴィチの一日』(1971)、『ライラの冒険 黄金の羅針盤』 (2007)、『カルテット! 人生のオペラハウス』(2012)などに出ている。本作のクウィルプはディケンズらしい典型的な悪役であるが、観る者をして「憎らしい」と思わせると同時に妙に「魅力的」と感じさせる複雑なキャラクター、あえて言うなら母性本能をくすぐる不良キャラに仕立て上げている。英国の生んだ名優の一人であるのは間違いない。

 19世紀半ばのイギリスの町並みや家屋や風俗が丁寧に描かれ、ディケンズが居た時代を楽しみながら、たとえば雨の休日を費やすのに恰好の作品である。



評価:C+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!





● 映画:『チャイルド44 森に消えた子供たち』(ダニエル・エスピノーサ監督)

2015年アメリカ映画。

 原作はイギリス作家トム・ロブ・スミスのベストセラー『チャイルド44』。スターリン独裁政権下のソビエト連邦を舞台とするスリラーである。宝島社が主宰する「このミステリーがすごい!」海外編2009の1位に輝いている。
 原作は読んでいないので比較しようがないのだが、137分の長尺を飽きさせずに最後まで観させてしまう脚本と演出力と役者の演技は見事である。
 
 主演のMGB(ソ連国家保安省)の捜査官レオを演じるのはトム・ハーディ。『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』(スティーヴン・ナイト監督、2013年)での名演が記憶に新しい。ここでも「体制の手先として恐れられ、自らも体制に縛られながら、スパイ疑惑をかけられた妻をかばい、国家に命を狙われながら、少年少女連続猟奇殺人の犯人を追う」という、とうてい現実的とは言えないような難しい役柄を、それほど違和感を露呈させずに演じ通している。下手な役者なら、性格破綻者にしか見えないであろう。早い話、レオよ、お前この映画の中で一体何人の命を奪っている?
 妻ライーサを演じるノオミ・ラパスの熱演も光っている。
 猟奇殺人の解決に協力するネステロフ将軍役にゲイリー・オールドマンを配しているのは、ちょっとしたボーナスポイント。
 
 共産主義独裁政権下の恐怖や悲劇、およびそこに翻弄される人間たちのドラマを描き出したいのか、それとも44人の子供を殺めた猟奇殺人犯の追跡を描きたいのか、両者の間で焦点がぼやけてしまっているのが最大の欠点。つまり、そもそものプロット(設定)に無理がある。
 数字が重要でないことは重々承知しているものの、スターリンが支配した1930年から1953年に80万人近くが反革命罪で処刑されたと言われる。保身のためなら家族や同僚さえ売るような、いわゆる「大粛清」の時代にあって、一人の精神異常者によって殺された44人の子供の死がいかほどのものであろうか、と観る者はつい思ってしまうのである。(しかもこの時代のソ連では何百万人もが飢饉によって餓死している!)
 国家が殺す何百万人には目をつぶって、一人が殺す44人にやっきになる。
 「いや、そこはやっぱり子供は人類の宝だから」と言う言葉はあまりにそらぞらしい。

 
評価:C+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!





 

● ゴシックとCGの微妙な関係  映画:『クリムゾン・ピーク』(ギレルモ・デル・トロ監督)

2015年アメリカ、カナダ製作。

 『パンズ・ラビリンス』(2006年)の魔術的映像で名を馳せたギレルモ・デル・トロ監督によるゴシックホラー。
 CG技術と撮影技術の高さ、シュールな色彩感覚が一番の見物である。ストーリーそのものは陳腐であり、ケイト・ベッキンセールの類まれなる美貌と裸体がまぶしい『月下の恋』(1995年)の二番煎じに過ぎない。
 役者では、主人公を陥れるシャープ家の姉ルシールを演じるジェシカ・チャステインの冷たく研ぎ澄まされた美貌と、正体がばれた後の憎悪と狂気の入り混じった鬼気迫る演技に圧倒される。『悪霊島』(1981年、篠田正浩監督)の岩下志麻を連想した。
 
 ゴシックロマンス(小説・映画)になくてはならない要素を上げると次のようになる。
1.古いお城、洋館、廃墟(やっぱりヨーロッパが本場)
2.超自然現象(怪奇現象、ミステリー)
3.過去の悲劇(因縁、宿命、情念)
4. キリスト教文化(神、悪魔、悪魔祓い、十字架等々)  
 
 ゴシックロマンスの先駆は、イギリスの小説家ホレス・ウォルポールの『オトラント城奇譚』(1764年)とされている。それから、アン・ラドクリフの『ユードルフォの秘密』、マシュー・ルイスの『マンク』など現在ではまず読まれない傑作を経て、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』(1818年)、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』(1897年)といった現在でも高い人気を誇るキャラを擁し繰り返し映像化される傑作の登場を待って、一つの分野として確立したと言うことができよう。
 ソルティは基本ゴシックロマンス愛好者である。が、上記に上げた小説は『ドラキュラ』以外は読んでいない。やはり、19世紀の小説は長くて描写が(情景も心理も)くどすぎて、読んでいて疲れる。テレビや映画の世紀に生まれた人間の生理的感覚ゆえだろう。
 ソルティがゴシックロマンスといって想起するのは、『アッシャー家の崩壊』をはじめとするポーの短編小説群、オペラ『ランメルモールのルチア』、ミステリー史上の大傑作『薔薇の名前』、ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』、そして、なんと言ってもわれらがモー様こと萩尾望都の漫画『ポーの一族』にとどめを刺す。
 とくに、『ポーの一族』には、ソルティがゴシックロマンスに求め期待するすべてが含まれている。上の4つに加えるならば、
 
5. 美しさと哀しみ
6. 失われたもの(人・場所・習慣・文化・時間・若さ・無垢など)への愛惜

 で、ゴシックロマンスととCG技術というのがどうにも相性が良くない。一方は過去志向、一方は未来志向――ベクトルが相反するように思う。
 この『クリムゾン・ピーク』には、ソルティが望む上記1~6の理想的なゴシックロマンスの条件のうち「4. キリスト教文化」と「6. 失われたものへの愛惜」が欠けている。「5.美しさと哀しみ」も不足している。その上に、CGだらけ。
 ゴシック映画というよりなんとなくSF映画のような気がしてしまうのは、ヒロインと死闘を演じるジェシカ・チャステインの姿がエイリアンかジェイソンのように思えてしまうのは、それゆえではないかと思う。(最後の最後ににもう一度蘇るかと思った。)

 いつの日か『ポーの一族』が映像化される折には、なるべくCGを多用しないでほしいものだ。


評価:C+


A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!




● その愚かさ、無限・・・。 映画:『インフィニINFINI』(シェーン・アベス監督)

2015年オーストラリア映画。

 Infiniはフランス語で「無限」の意。「アンフィニ」と読むのが正しかろう。
 謎のウィルス――感染した人間たちの獣性を引き出して互いに殺し合いをさせる――が蔓延した惑星インフィニに降り立ったクルーの運命を描いたSFスリラー。
 人間の隠された獣性を引き出して‘朱血肉林’の凄惨な殺戮シーンを現出させるという点では、すでに伝説的なB級オカルトスプラッタSF『イベント・ホライズン』(ポール・アンダーソン監督、1997年)を思わせる。あのグロテスク極まる映画の前日譚がこの作品ではないかと思うほどの地獄絵図が展開される。
 最後には、獣性と対峙する人間の聖性(=愛)が勝利をおさめ、謎のウイルス自身の持つ奇跡的な能力によって、死んだはずのクルー全員が生き返り、無事地球への帰還を果たす。
 ――という、なんとも安直でご都合主義のハッピーエンド。
 気が抜けた。
 
 一つ面白いなと思ったのは、人間を遠くの惑星まで瞬時に転送させる「スリップストリーム」という未来社会の革新的技術。これで、大宇宙をスペースシップに乗って危険な航行する必要も、苦しい物理法則を駆使してA地点からB地点へワープする必要もなくなった。制作サイドからすれば、物語を一気に核心であるインフィニに進めることができるし、スペースシップがらみの手間のかかるシーンを撮る必要がないので予算も削減できる。ご都合主義もここまで来れば、かえってどうでもよくなる。
 この夢のような驚異的技術を使って未来社会の人類がやっているのは、膨大な数の低所得者を他惑星に派遣して地球のエネルギー源を開発・転送させる3K(危険・きつい・気違い沙汰)仕事。いわば、大宇宙を舞台にした炭鉱堀り。
 スリップストリームという技術自体の不安定性(=危険度)に加え、地球とはまったく環境の異なる未知の惑星でのストレスフルな仕事。命懸けと言えばカッコいいが、例えてみれば、廃炉になった福島第一原発で残っているウランを取り出す作業のようなもの。
 なぜ未曾有の科学力を全人類が幸福になる方向に使えないのか?
 
 ああ、そうか。人類の愚かさの無限(アンフィニ)を揶揄しているのか。


評価:C+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 


 

● 時を駆ける女たち 映画:『はじまりのみち』(原恵一監督)

2013年松竹映画。

 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001年)、『カラフル』(2010年)という傑作アニメ映画を作った原恵一監督の初の実写作品、しかも題材が若い日の木下恵介の実話ということで、期待を込めて鑑賞した。
 
 時は戦時下。木下監督がかの有名な『陸軍』を撮影し、そのラストシーンが陸軍省の反感を買い、次の仕事を干されたところから始まる。監督業に絶望した木下は、寝たきりの母のいる浜松の実家に帰る。空襲が激しくなり、家族は山間の親戚の家に疎開を決める。そこまで行くには暑い盛りを山越えしなければならない。病気の母の安静を保つために、木下は兄とともにリヤカーで運ぶことにする。
 
 まずは松竹の良心とでも言うべきか、役者陣は手堅いところを押さえている。
 木下恵介役の加瀬亮は、シスターボーイ風の美青年だった木下を髣髴とさせる。演技も合格点。おそらく実物はもっとフェミニンな匂いを醸していたのではないかと思われるが、まあそこは映画だから・・・。
 母親木下たま役の田中裕子。松竹「ここぞ」という時の最強の切り札であろう。セリフのほとんどない病人役にもかかわらず、存在感たるや随一である。脳溢血による片麻痺という設定だと思うが、片麻痺の母が頑張って息子(恵介)に喋ろうとする有りさまが、日々老人ホームの仕事で実際の患者に接しているソルティから見ても真に迫るものであった。田中裕子が峠を越えるのはこれで2回目だろうか。
 兄敏三役のユースケ・サンタマリアは個人的には好きな役者でないが、この映画に限っては渋い控えめな演技で通していて及第点を与えられる。実際には木下は8人兄弟の4男だった。この映画には敏三、恵介を含む4人の兄弟姉妹しか出てこない。実の弟の忠司(4つ下)は作曲家として活躍し木下作品の音楽も担当している。名前すら出てこないのには理由があるのか? このあたりの家族関係の処理がいい加減な気がした。
 兄弟と一緒に家財道具を引いて峠を越える羽目になる便利屋役の濱田岳。auのCMに出てくる金太郎である。愛嬌ある顔立ち体つきで、ユニークで憎めない個性が光る。いま魔夜峰央のギャグ漫画『パタリロ』の舞台化で、加藤諒が主役パタリロに抜擢され話題となっている。濱田岳のほうが良かったんじゃないか。

 全体に丁寧に品良く作られた作品と言える。原恵一の才気はむしろ控えめである。最初は意外な気もしたが、木下恵介へのオマージュである作品で、別の監督の個性が目立つのはうざったいだけだろう。これで良いのかもしれない。
 ただ、全般に画面の奥行きが乏しく、リアルな空気感(とくに戸外の)に欠いている感はあった。それをアニメ(2次元)映画のプロとしての原監督の出自のせいとするか、松竹の予算や撮影時間の縛りのせいとするか。それこそ同じ峠越えを描いた松竹の『天城越え』(1983年、三村晴彦監督)と比すれば差は歴然としよう。『はじまりのみち』では蝉の声すら聞かなかったような・・・。
 
 木下監督へのオマージュとして、有名な木下作品が次々と引用される。
 監督デビュー作である『花咲く港』をはじめ、問題となった『陸軍』、『わが恋せし乙女』、『お嬢さん乾杯!』、『破れ太鼓』、『カルメン故郷に帰る』、『日本の悲劇』、『二十四の瞳』、『野菊の如き君なりき』、『喜びも悲しみも幾歳月』、『楢山節考』、『笛吹川』、『永遠の人』、『香華』、『新・喜びも悲しみも幾歳月』。
 コメディあり、恋愛ドラマあり、家族ドラマあり、人情物あり、文芸作品あり、時代劇あり、社会派ドラマあり。本当に素晴らしい作品をたくさん作ったんだなあと感嘆する。

 引用された映画の断片をずっと観ていて、一つのことに気がついた。

「木下映画とは、女性が一人、駆ける映画である」
 
 多くの作品で、主人公の女性が画面に大きく映し出されて、戸外を一人で駆け回るシーンが思い出される。街中であったり、因習強い田舎の野良道であったり、大自然の中であったり、と舞台はさまざまであるが、女たちは何かから逃げるように、あるいは何か重いものを脱ぎ捨てるように、あるいは一心に思いつめた表情で、あるいは晴れ晴れと人生を謳歌するように、駆け回っている。
 そのはじまりの一歩が『陸軍』ラストシーンの田中絹代だったんじゃないだろうか。
 そして、その走りは現代の『アナと雪の女王』において、凍てつく道なき雪原を一人進むエルサまで続いているんじゃないだろうか。
 
「自分の息子に『立派に死んで来い』なんて言う母親はいない』
 木下恵介は、昭和という時代を通して、‘声なき女たち’の代弁者だったのではないかと思うのである。

 最後に一つ。
 やっぱり、お母さんはバスで行ったほうが楽だったと思う。
 


評価:C+
 
A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!




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