スペインでは雨は主に平野に降る。
 屋久島では一月に35日雨が降る。

 屋久島といえば縄文杉である、世界遺産である、海がめの産卵である、もののけ姫である・・・・と言いたい向きもあろうが、自分のイメージでは「屋久島=雨」だ。
 そのイメージの形成にあずかっているのは、成瀬巳喜男監督の映画『浮雲』(1955年)である。冒頭の「屋久島では一月に・・・」は、この映画の原作である林芙美子の同名の小説に出てくる文句で、屋久島を紹介するパンフレットや本の中で必ずと言っていいほど紹介され、屋久島の天候を語る枕詞とされる。「屋久島=雨」を世間に知らしめた名文句であろう。(「スペインでは・・・」の出典はミュージカル『マイフェアレディ』)
 が、自分の場合、なによりも映画『浮雲』に出てきた雨に煙る屋久島の情景が強く心に残っている。それはおそらく、映画の中の恋人たち(高峰秀子と森雅之演じる)のどうしようもなくやさぐれた姿、切っても切れない間柄と言えば聞こえはいいが実のところは共依存の果てのぬかるみにはまり込んだ自暴自棄の男女の姿が、屋久島の暗い森にやむ気配なく降り続ける雨に朽ちていく二人の愛の巣(あばら家)の姿とあいまって、自分の中に強烈な「屋久島観」を形成しているからである。
 そう、映画では屋久島は社会から放擲された男が流される僻地であった。いや、元来、島とはそういうところであったろう。佐渡しかり、壱岐しかり、オーストラリアしかり。
 それが今では、世界遺産であり、国内有数な観光地であり、登山やダイビングする人々の憧れの地であり、スピリチュアル信者がこぞって訪れるパワースポットである。
 とりわけ世界遺産に登録されてからの屋久島は、365日訪問者の途切れることがない。ゴールデンウィークや夏休みの縄文杉登山などは、11キロに及ぶ長いトロッコ道と登山道がほとんど数珠繋ぎであるという。
 世界遺産登録前に訪れておけば良かった、と思ってももう遅い。
 雨と混雑。この二つにわずらわせられることなく屋久島旅行できる人は、かなりの強運の持ち主ではないだろうか。(それは私)

 3月12日~19日までの8日間、わが国最大級のパワースポットである屋久島と高千穂とを旅した。

日程は以下のとおり。


1日目(3/12)東京→鹿児島(飛行機)
2日目(3/13)フェリーで屋久島到着、バスで島巡り(北部)    
3日目(3/14)縄文杉登山
4日目(3/15)白谷雲水峡ハイキング
5日目(3/16)バスで島巡り(南部)
6日目(3/17)屋久島出発~延岡(宮崎県)到着(高速船とJR)
7日目(3/18)延岡~高千穂~熊本(バス)
8日目(3/19)熊本~久留米~博多(福岡空港)→東京(JRと飛行機)

 交通手段は、飛行機・バス・路面電車・フェリー・高速船・電車・モノレール・タクシー・徒歩と多岐に及んだが、なにせペーパードライバーである。レンタカーだけはなかった。いつもながら、車に頼らなくてもこれだけ移動できて楽しめるという証明のような旅であった。時刻表を研究してバスを上手に使うことがコツである。あとは健脚。

 全体の予算は、おおむね以下の通り。

交通費  70000円(往復飛行機、バス、フェリー、高速船、電車)
宿泊費  26000円(7泊)
飲食代  12000円
その他  12000円(土産代、入場料、ステッキレンタル代ほか) 
合計  120000円

 一から自分で組み立てたプランだったのだが、オリオンツアーという屋久島に強い旅行会社(エイチ・アイ・エス系列)が企画しているプランを利用すれば、もっと安くなったかもしれない。が、その場合、かなり前から申し込む必要があるから、天気が読めない。これは屋久島行きの場合、大きなネックである。雨の屋久島も風情があって緑も生き生きして良いのかもしれないが、デビューは印象良く行きたいところである。でなくても、やさぐれた男女のイメージが頭の片隅にあるのだから。
 まず屋久島地方の向こう一週間の天気を調べて、なんとか晴れそうだという日を縄文杉登山の日と決めてから、それに合わせて他のスケジュールを組み、飛行機や宿の手配をしたのであった。(それができるのが無職の特権)

 しからば、屋久島&高千穂スピリチュアルツアーにいざ出発!

1日目(3/12)東京→鹿児島
 15:10羽田空港  ~ 17:10鹿児島空港(スカイマーク)
 17:30鹿児島空港 ~ 18:30鹿児島市内(バス)
 市内サウナ泊


山形屋 久しぶりの鹿児島。
 路面電車も瀟洒な山形屋デパートも懐かしい。
 フランシスコ・ザビエルも懐かしい。
 この3月に新幹線が開通した鹿児島中央駅は、すっかり建物が新しく立派になって賑やかであった。東京の主要駅とまったく変わらない雰囲気。スタバなんかも入っている。グローバル化の波も新幹線と共にやってきた。ザビエル像
 忘れちゃいけない。雄々しい桜島も懐かしい。この日、歓迎の雄叫び(噴火)を上げてくれた。
 
 夜、鹿児島中央駅近くの路地で見つけた「和田屋」でラーメンを食べる。あっさりした豚骨スープ。うまい!


2に続く。